皆さん、虫ん坊9月号:虫さんぽ第48回にていち早くお知らせした「手塚治虫漫画家デビュー70周年記念号」の模型化のニュースを覚えていますか? その記念号が、今冬いよいよ発売されることになりました!
このラッピングバスは、現在高速バス新宿・会津若松線で期間限定運行しています。
模型化を手掛けるのは、玩具、模型、フィギュアを数多く製造・販売をしている株式会社トミーテック。
今回の特集では、商品企画を担当されている岡崎俊之さんにバスコレクションについてお話を伺いました。
トミーテック公式サイト:http://www.tomytec.co.jp/
極上の会津公式サイト 手塚治虫ラッピングバス運行!:http://gokujo-aizu.com/9742
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トミーテックさんからは鉄道・バスの模型が数多くシリーズ化されていますが、その中で、ザ・バスコレクションとはどういうコンセプトの商品なのでしょうか。
ザ・バスコレクション(通称:バスコレ)は、低価格で、“初心者でも安心してコレクションできる模型”をコンセプトにスタートしたシリーズです。2003年に発売を開始して、現在では800車種以上が発売されています。
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初心者向けのシリーズなのですね。
2003年当時は、バスの模型というものがあまりなかった時代でした。弊社から出していた模型も、そこまで造型のクオリティにはこだわっておらず、シンプルなもので1台3000円ぐらいの値段のものが主流でした。
そんな中、妥協せず徹底的に実物のクオリティを追及し、なおかつ、これから模型でもはじめてみようかなという方でも手に入れやすい価格で提供するという目的で企画されたのがザ・バスコレクションです。
お客様のご希望に答え北は北海道、南は沖縄まで、全国のバスをくまなく作っています。全国47都道府県のバスをすべて商品化しよう! というのが我々の目標なのですが、達成率はまだ半分ぐらいです。
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「手塚治虫漫画家デビュー70周年記念号」とバスコレクションのコラボレーションのきっかけを教えてください。
この70周年記念号を運行している会津バスさんとは、以前別のバスを商品化する案件でご一緒させていただいたことがあるんです。そのご縁があり、デビュー記念号が走行される企画が出たタイミングでお声掛けいただき、今回の商品化に繋がりました。弊社では、期間限定で運行されるキャラクターラッピングバスも精力的に商品化しているので、これはぜひに! と。
手塚治虫先生のキャラクターが一面に描かれたデザインなので、模型にしても可愛く、映えるのではないかと思いました。
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模型になるまでに、どのような段取りで進んでいくのでしょうか。
模型作成の第一段階として、事前取材という形で撮影をしに行きます。この時も会津に行き、ラッピングバスの全体はもちろん、屋根や行き先表示など細かい部分を撮影してきました。
実際に取材したあとは、実際のバスのデザインをいただき、それをもとに模型のデザインシートというものを起こしていきます。こちらが、そのデザインシートです。
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写真に細かく指示が書かれていますね。
バスの取っ手や部品、車体に貼ってあるシールや他社の広告などを表現するとなるとかなり細かくなってしまうので、こういう細かくなりすぎてしまうところは省略するようにあらかじめこちらで指示を出します。
その後、このシートをもとに模型を作成し、監修を通して、量産品を製作という流れになっています。
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立体化までの過程はどうでしょうか。
バスコレ専用の金型があるので、プラスチックを金型に流し込んでまっさらな状態の模型を作成します。その後、インクジェットプリンターでデザインを塗装していきます。
こんな感じでパーツがわかれていて……。
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そんなにバラバラにして大丈夫ですか!?
分解できるようになっているので大丈夫ですよ。このように各パーツにわかれているので部分ごとに印刷を施していき、最終的にそれを組み立てひとつのバスが完成します。
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あ、窓ガラスの色もパーツによって色が違いますね。
運転席のガラスはスモーク禁止になっており、逆に客席は直射日光を避けるためのスモーク加工が施されているとか……実物のバスのリアリティを損なわないように細かいところも写実するように心掛けています。
今回の記念号ですと、特にキャラクターの主線は全部入れないとおかしくなってしまうので、線は細部まで表現するように努力しました。
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こんなにキャラクターが密集しているのに、かなり細かく表現されています!
ここまで細かい絵柄のものを作るのは、初めての試みでした。この記念号のほかにもキャラクターのラッピングバスはいくつか商品化しているのですが、今まで手掛けたものは大体キャラクターが1、2体描かれているものばかりで……。ここまでキャラクターが密集していて細かいものは過去に例がありません。その点今回はかなり気合を入れて作りました。
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ちゃんとキャラクターの表情までわかります。
本当ですか!? 通常、3・4回で終わる試作も、今回ばかりはキャラクターの印刷にこだわり倍の回数試作を重ねたので、そう言っていただけて安心しました。
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このキャラクター部分の塗装はどうされているのですか?
バスの側面の塗装はインクジェットプリントなのですが、車体の前後は、印刷する面のサイズが小さいこともありタンポ印刷というものを使っています。
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あまり聞きなれない印刷方法ですね。
タンポ印刷は、インクをシリコンパッドに転写し、そのシリコンを印刷物にスタンプのように押しつけて印刷します。シリコンの弾力を活かし、曲面や凹凸の多い部分にも鮮明に転写するできる特殊な印刷方法なんです。
色ごとに版を分けているので、前後部分の印刷だけで200~300工程は掛かっています。
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そ、そんなに!?
側面とは違う印刷方法なので、側面と前後では印刷の表現が違っているのがお分かり頂けると思います。前後面のほうが、より鮮明にキャラクターが印刷されています。ぜひ、その違いお手にとってじっくり見ていただきたいです。
実物のバスは、乗車席にもキャラクターたちが描かれているのですが、さすがにそこまでは実現できず……。ですので、ぜひ実物の記念号にも乗ってみてくださいね。
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バスを模型化するにあたり、気をつけるべきことはなんですか?
縮尺しても実物と大差のないリアルさにこだわる、というのは常に追求しています。バスのR部分(曲線部分)ですとか、車体の比率などですね。
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リアルさを出すのが難しいところなどあるのでしょうか。
模型に詳しくない人は、基本的に上から見下ろす視点で模型を見ると思います。しかし、マニアの方だと、目線を車両と平行に置いて眺めます。その視点の違いが、模型化のキモになってきます。
普段の生活の中では、電車もバスも普通は見上げるものなので、屋根部分をじっくり眺めることなんてあまりないと思います。そのため、模型化するにあたり屋根まわりの印象というのはかなり重要になります。屋根部分を上から見たときに、破綻のない形状にしないと、とたんに違和感が出てしまうんです。
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もともと鉄道やバスに詳しい人でないとわからないマニアックなポイントなどもありそうですね。
実は僕、この会社に入る前はバス会社に勤めていて、車両の運行企画や、運転士の手配等を担当していました。
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鉄道会社に勤務されていた方がこの職業に就く、というパターンは多いのでしょうか。
どうですかね?(笑)。
自分も、バス好きが高じて今に至るという感じです。ちなみにバスコレを発案した僕の上司も、前は西日本のバス会社に勤めていましたよ。自分たちが前職で馴染みのあったバスを商品化できたときは、すごく嬉しかったです。
前職で培った知識が、商品を企画するうえで役立つことも多いんですよ。
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だからこそ、製品に並々ならぬこだわりが投影されるのでしょうね。納得です。
そうですね。四角い箱にただ赤と白を塗っただけで立川バスだとか、緑で塗ったから広島電鉄だとかそういうレベルの模型しかなかった時代に、バスはこうじゃないんだ、ともっともっとクオリティの高いものを作りたくてはじめたのがバスコレクションですから、僕たちのバスへのこだわりがかなり形になっていると思います。
そういうこともあり、より忠実に、よりリアルに仕上げていこうという思いは、とても強いです。
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そんな岡崎さんたちのこだわりが詰まったバスコレですが、ユーザーの反応はいかがでしょうか。
おかげさまで、好評をいただいております。
年に数回開催されるホビーショーでお客様と我々企画者がお話する機会があるのですが、その時にはあのバスを出してください、この電車を出してくださいというご要望を本当~~~~にたくさんいただきます。
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ここぞとばかりに、ご意見を飛ばすのですね。
あと、商品を作る上で気をつけようと心掛けているのは、制作者でありながらも、いちユーザーとして商品を客観的に見る、ということです。
自分だったら、この模型が欲しくなるかどうか。どうしたら欲しくなるのか。商品の企画を練るときには、必ず冷静に考えて決めるようにしています。
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もともと鉄道が好きというのもあり、製作側、ユーザー側の両視点で見ることができるのですね。
そうですね。やっぱり自分がかなりの物好きなので……。どちらの視点からも商品を見れるのは強みなのではないかと思います。たまに自分の欲が出ることもありますが(笑)。
別売りでバスコレ専用の動力システムというものがありまして、こちらを導入していただき、なおかつ専用道路をお買い求めいただくと、この記念号、走るんです。
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ぜひ、走る様子を見せていただけないでしょうか……!
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ちゃんと駅で一旦とまってから走り出すんですね。こんなところまで細かい!
道路の下にワイヤー線が通っていて、バスの頭には磁石が仕掛けてあるので、磁力でワイヤーをたどっていくという仕組みです。なので、カーブのところはちゃんと曲がるし、直線のところはまっすぐ進みます。駅のところにも磁石がしかけてあるので、一旦止まって、乗客を待ってから出発するように仕組んであります。
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これは、ずっと眺めていられそうです。ジオラマの作りも隅々まで細かいですね。
模型を作るよりも難易度は高いですが、鉄道模型をイキイキと見せるならジオラマも必要不可欠な素材になってきます。
最近はジオラマ専門に撮られているプロの写真家の方がいますし、請け負いで制作するジオラマ職人の方もいらっしゃいます。
日本だとまだジオラマ作りはメジャーとは言えないホビーですけれど、スケール模型はドイツやイギリスなどヨーロッパの発祥なので、欧米ではミニチュアやジオラマ趣味が盛んなんですよ。
古い時代に運行していた鉄道の模型を主人公にするなら、その時代を模したジオラマを作るとか……。結構、やりだすと奥が深いんですよね。弊社からは、シチュエーション別に豊富な種類のミニチュアも販売しているので、会津の風景を作って記念号を走らせれば、もう完璧ですね!
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手塚ファンの皆さん、ぜひ会津の町並みのジオラマ再現にも挑戦してみてはいかがでしょう!? それでは、最後に虫ん坊読者の皆さんへ一言、お願いします。
永遠に手元に残り続け、見て楽しめることが模型の醍醐味だと思っております。
手塚治虫先生のデビュー70周年を記念したメモリアルバス、乗車した方もそうでない方も、ぜひともお手元に残しておいていただきたいです。
そして、ぜひこれを機にすこしでも模型の世界に興味を持っていただければ、バスを愛する我々としてはとても喜ばしいことです!
さらに、来年は手塚プロダクション監修のバスコレ第二弾といたしまして、“あの●●バス”も発売予定になっております。こちらも、お楽しみに!
ザ・バスコレクション 手塚治虫漫画家デビュー70周年記念号
価格:1600円(税別)
発売日:11月下旬発売
取扱店舗:全国の模型店、大型家電量販店にて取扱い予定