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虫ん坊 2016年2月号 オススメデゴンス!:「二人でリンゲル・ロックを」

 

 今月のオススメデゴンスは「二人でリンゲル・ロックを」を紹介します!
 (『ゴッドファーザーの息子』収録)
 主人公の世田ノ介と幼馴染の女の子いぶのスペースラブコメ。
 こちらは1982年に描かれた作品なのですが、作品中に出てくる未来を予測するアイテム・マイコンを現代のスマホに置き換えると、すんなり違和感なく読めてしまうので不思議です。例えば、歩く歩幅と走る早さを入れれば遅刻するかどうかが分かったり、ごはんのおかずは味付けからカロリーまで計算してつくるなどは、現代でいうなら対応するアプリを活用することで解決してしまいます。
 実際に、自分の意志ではなく、全てマシンが決定してしまうそんな未来に少しずつなってきているように感じるのは気のせいでしょうか。
 2月と言えば、バレンタインデー!
占いやPC上の意見ばかりに頼るのではなく、まずは自身の気持ちを大切に…!


解説:

 『月刊少年ジャンプ』1982年1月号〜2月号にわたって掲載されたSF短編作品です。
 当初は1回読み切りの予定でしたが、ストーリーがページ内におさまりきらず、2回掲載となりました。また、内容も当初の構想から大きく変更されています(以下は講談社刊 手塚治虫漫画全集『ゴッドファーザーの息子』あとがきより抜粋)。
 「この本におさめられた「ふたりでリンゲル・ロックを」がそのよい例です。どうしてもおさまりきらずに途中でぶっ切って次号にまわしたのです。そういう場合、たいてい次号の人気はかなりわるいものです。なにしろはみ出し分だけ読まされるわけですから。
 また、こういう場合もあります。予告にうったときのタイトルと内容が、いざ描くぎりぎりの段階になって急に気が乗らなくなってしまうことです。
 これもたとえば「ふたりでリンゲル・ロックを」がよい例で、じつは元来この物語はシャムの双生児の話だったのです。下半身のくっついた双生児が手術で分身させられる際にどちらかが犠牲にならねばならなくなり、お互いにはげしい心の動揺を来す、といった筋だったのです。ところが、いざ描き始めたとき、アシスタントや周囲から「ブラック・ジャックに似たような話はやめたほうが……」といわれ、なるほどと思ったとたん別の話にきりかえる決心をしたのです。タイトルはもう予告とか、その号の表紙に刷り込んでありますから「ふたりでリンゲル・ロックを」のタイトルのまま別の話をこしらえなければなりません。
 こういう場合、描き上げてみるとやっぱりもとの話のほうがよかったとくやむことが多いのです。」



読みどころ:


虫ん坊 2016年2月号 オススメデゴンス!:「二人でリンゲル・ロックを」

 「ふたりでリンゲル・ロックを」とは、何ともストーリーの想像しづらいタイトルですが、その内容はSFコメディとでも言うべき、楽しい作品です。
 マイコンで簡単に未来の予測ができるようになった1980年代。小学生の女の子・鶴寺いぶは「1999年に世界を手に入れる」とコンピューターに予言され、同級生達から悪魔扱いされる。そんな彼女の唯一の味方は、幼馴染の荒間世田ノ介(あらまよたのすけ)。そして運命の1999年、成長した2人が再会した時、予言の謎がすべて解き明かされた…というのが、この作品の大まかなストーリーです。


虫ん坊 2016年2月号 オススメデゴンス!:「二人でリンゲル・ロックを」

 1982年に発表された作品なので、当時としては近未来の物語として描かれているのですが、21世紀に突入した今となっては、その未来予想図と現実との間にはかなりズレが生じてしまっています(『ノストラダムスの大予言』が大げさに持ち出されたりするのは、ご愛嬌といったところ)。ですので、ここはひとつ“マンガの中のお話”として、割り切って読みましょう。


虫ん坊 2016年2月号 オススメデゴンス!:「二人でリンゲル・ロックを」

 また、この作品の核は何と言っても“予言の謎解き”です。これはまさにアイデア一発勝負なので、ネタバレしないよう、あまり詳しく語るのは止めておきますが、「そうきたか!」と感心するか、「何だこれは!」と怒り出すかは、あなたの性格によるでしょう。とにかく謎解きにいたる後半の展開は、マジメな人なら本を投げ出してしまいそうなバカバカしさなので、肩の力を抜いて読むことをおすすめします。
 壮大なテーマや緻密な構成などとはおよそ縁遠いですが、それだけに何とも憎めない雰囲気を持っている、軽妙なタッチのSF短編作品です。





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