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虫ん坊 2015年2月号 特集1:いのちを守るロボットを作れ! さがみロボット産業特区 海老名駐在事務所に潜入!(2)

虫ん坊 2015年2月号 特集1:いのちを守るロボットを作れ! さがみロボット産業特区 海老名駐在事務所に潜入!(2)

神奈川県産業労働局 副主幹 神谷洋邦さん

生活支援ロボットの開発・普及を目指すさがみロボット産業特区。神奈川県が主体となっていますが、もちろん、特区エリアの市町や企業、住民の皆さんとの協力が重要です。そういった地元の方々に生活支援ロボットの説明をするときに、アトムのおなじみの「あの力」が実に分かりやすくハマッたそうです。
今月は、海老名駐在所の存在意義のお話や、実際に特区内ですでに実用化されている生活支援ロボットの活躍についてご紹介します。




●アトムの七つの力

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七つの力のポスター。ずらりと並んでいます。

虫ん坊 2015年2月号 特集1:いのちを守るロボットを作れ! さがみロボット産業特区 海老名駐在事務所に潜入!(2)

『鉄腕アトム』10巻より


——サイトやポスターなどで紹介されている「七つの力」と生活支援ロボットの比較が、とてもハマッていますね。

神谷洋邦さん(以下、神谷):現状開発している個々の生活支援ロボットには、一見つながりがないのですが、アトムの7つの力に当てはめてみると、おどろくほどぴったりはまったんですよね。これは、私たちがやろうとしていたことを先に手塚先生が予見されていたんじゃないか、とすら思いました。
 広報戦略的な意図でも、アトムの「七つの力」というとみんなよく知っていますよね。はじめはそれにひっかけていったら面白いんじゃないか、ぐらいの気持ちだったんです。

依田孝志さん(以下、依田):私たちが生活支援ロボットに望む能力って、だいたい7つの力のカテゴリに入ってしまうんですよね。これから、それに当てはまらないアイディアもどんどん出てくるかもしれませんが…。

——ところで、お2人は神奈川県庁の方ということですが、この海老名にいらっしゃるのはなぜですか?

依田:ここは、産業振興課の海老名駐在事務所という位置づけで、横浜にある県庁のほかに、特区の中に地元の市町の方や商工会の方との交流のための場所が必要だろうということで、今年の4月から設置されました。
 特区の取り組みは県だけではなく、地元の自治体、企業、商工会、学校、金融機関などのいろいろな機関と連携して協議会を作ってやっているので、そういった方々との綿密なコミュニケーションが重要なんです。
 この建物自体は、神奈川県の試験研究機関のひとつで、産業技術センターと言って、もともとあったものです。神奈川県のいろいろな技術的な研究などをやっています。その中の会議室を使って、特区のキーステーションを作ったんです。


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——地元の方々とのコミュニケーションには、やっぱり顔をあわせてお話をすることが重要なのでしょうか?

依田:そうですね。いままでも、連絡手段としては電話もメールもあるので、そういう方法でご相談をうけることはありました。でも、こうして地元に事務所があると、皆さんが気軽に尋ねやすくなるんだと思うんですよね。
 県庁って、何かよほどの用事でもなければあまり訪れない場所だと思われているんじゃないかな、という感じがあるのですが、私は、この海老名駐在所には、「こんな相談のために行ってもいいのかな」というような用事でもどんどん訪ねてきてください、と皆さんに言っています。相談じゃなくて、雑談に来てください、と。そういう、普段のコミュニケーションから、何かが生まれるかもしれませんからね。
 市町の担当者もお役人ですから、異動などが多いんですよ。何の経験もなく異動してきたご担当者なんかは、気軽に雑談に来られるこの駐在所はとても助かります、とおっしゃってくださっています。
 それに、地元のみならず全国からも、生活支援ロボットに関するアイディアを募っているのですが、こうして特区内にちゃんとキーステーションを作っていると、あそこは市町としっかり連携してやっているな、と思ってくださるみたいです。そうすると、全国の市町村や企業も、連絡をしやすいようですね。
 その上、親しみやすさや分かりやすさ、というところでは、イメージキャラクターのアトムの力にもずいぶん助けられていますよ!

——アトムの信号機のニュースは、ネットなどでもずいぶん広まっていました。

依田:最初は「なんか面白いことやってるな」って思われるくらいじゃないか、と思っていたのですが、ツイッターとかネットニュースなどを見ていると、「さがみロボット産業特区っていうのがあったんだ」というふうに書いていらっしゃる方が結構多くて、ちゃんと特区の周知に役立っている手ごたえがありましたね。しかも最近の人は皆さん、コピペでどんどん拡散してくださるので、アトムが応援しているさがみロボット産業特区は、生活支援ロボットの実用化を目指しているところなんだ、という情報まで、ぱっとみんな貼り付けてどんどん広めてくださるんです。そういう情報を読む人が読むと、「おお、これはいいな」と思って、実際の取り組みに発展する可能性もありますから。


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——アトムって、広い世代に浸透しているだけじゃなくて、連載当初からずっと、「夢の未来」のイメージを担っていました。作品の中で描かれた2003年4月7日の誕生日をすぎても、「未来」を象徴し続けています。

依田:知事も言っていましたが、アトムって「ついに未来が来た」という印象を皆さんに持ってもらうのにまさにぴったりのキャラクターなんですよ。

神谷:私もこだわっているフレーズです。「未来が、すぐそこまで来ています」というのを、特区の説明用パンフレットなどにも入れています。

依田:そういう感覚って本当に大事なんですよね。私たちは夢の話をしているのではなくて、もう、皆さんが協力し、連携していけば、手塚治虫さんが描かれた未来のいくつかはすぐにでも実現するんです。環境も、技術も、ポテンシャルも整っている、あとはやるだけなんです。「あの未来が現実になるんだ」というイメージを持っていただきたいんです。

——ロボット産業特区として、今後どのような姿になって行きたいとお考えですか?

依田:私たちの当面の目標は、2020年の東京オリンピックの前後、海外からのお客様が増える時までに、世界にアピールできるようになりたいと考えています。
 当面目指しているのは、日常生活を家自体がサポートしてくれるようなロボットハウスです。そういうロボットハウスがいくつも出来てくれば、それはロボットタウンになります。目指すところはまさに、ロボットタウンさがみなんです。特区の中に足を踏み入れた瞬間に、日本に未来が来ちゃってるな、と思っていただけるまでに変貌を遂げていたいですね。

神谷:依田が生活支援ロボットの定義についてお話した際(前月号にリンク)、電車の改札機も実はロボットなんだ、というような話がでましたが、そういう、日常生活に当たり前にロボットたちが溶け込んでいるような姿が理想です。よくよく考えてみればあれもロボットだった、というような状態ですね。形としては何かの装置だったり、建物の中に組み込まれていたり、あるいは身に着けるものだったりするかも知れないですが、それらをストレスなく、ありふれた日常として受け入れられて初めて、普及したと言えるのだと思います。
 生活支援ロボットたちも、はじめは人間の生活になじまないかも知れません。利用される方も「本当にロボットに任せて大丈夫なの?」という戸惑いがあると思うんです。でもいつか、自動改札機が普及したように、それがあることすら特別に意識しないところまで生活になじむ時がくるんだと思うんです。そのステップとして、アトムのようなキャラクターがロボットに親しみを持っていただくために、活躍してくれるんだと思います。


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『鉄腕アトム』11巻より


——では、最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

依田:ぜひ、ロボットがやったほうが便利なものとか、人間には出来ないけれどロボットには出来ることのアイディアを皆さんにも考えてもらいたいな、と思っています。今の生活の中にも、いろいろな課題があると思いますので、ご家族や近隣の方で、「今これは不便だけど、将来こういうことが出来るようになったらうれしい」というようなことを探してみてほしいです。
 私たちは最終的には、市場を形成したいと思っています。将来、一般の方が実際にロボットを購入して、使っていただけるようにしたいんです。そのためには皆さんにも、「こういうものがあったらほしい」というイメージを持ってもらいたいです。
 それに、お子さんたちにもぜひそういうことをどんどん考えてもらいたいですね。中にはそこから、未来のお茶の水博士が誕生するかもしれない。まさに、ご覧になっている人たち一人一人に、アトムの世界を考えた手塚治虫さんになってもらいたいんです。

——ありがとうございました!



●ロボットタウン・さがみへの道

インタビューの後、すでに産業特区の取り組みで実現しているロボットが活躍する施設を訪れました。


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特区・辻堂駅近くのロボットによるリハビリ施設。

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窓にアトムのシルエットを使った印象的なポスターが貼ってあるのが見えます。


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歩行を補助するロボット。前へ行こうとする時に筋肉に流れる微量な電流を読み取って、アームが動くことで、リハビリ運動を助けます。


 この施設ではすでに歩行補助ロボットを利用したリハビリメニューを会員向けに提供しています。施設内部の雰囲気も病院ふうではなく、おしゃれなトレーニングジムのよう。ロボットをつかったリハビリ、というよりは未来のトレーニング、という感じでした。

さがみロボット特区からデビューしたロボットたちの今後の活躍に期待したいですね!

(おわり)


 関連情報:

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