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虫ん坊 2014年6月号 オススメデゴンス!:『バンパイヤ』

 特集2でご紹介した『ブラック・ジャック創作秘話』トークライブのレポートでは、手塚治虫のマル秘エピソードなどが語られました。 そこで今回は手塚治虫が登場するこの作品、『バンパイヤ』をご紹介いたします。

 自伝以外で手塚治虫自身が登場している作品の中では、一二を争うほどの活躍をみることができますよ!



解説:

 (手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『バンパイヤ』4巻あとがきにかえて より)


 (前略)

 こんど、『週刊少年サンデー』に新しく連載をはじめた「バンパイヤ」の場合でいうと、——そうだ、人間はだれでも、あばれたくても、あばれられないときがある。人をなぐりたくても、なぐれないときがある。それはみんな、人がきまりや道徳にしばられているからだ。そういったものにしばられないで、やりたいとき、すきなことができたら、どんなにたのしいことだろう。もしかしたら、それがほんとうの生きがいではないだろうか。それとも、きまりや道徳をよくまもって、まじめ人間でくらすのが、いちばんしあわせなのだろうか? どっちがいいことなのか、それをこんどのまんがのなかで、さぐってみよう——。

 (中略)

 「バンパイヤ」では、主人公がテーマをいかすためにふたり登場します。ひとりはトッペイというオオカミ男です。これは人間の姿のときには正直でまじめな子どもなのですが、カッとなると、オオカミにかわり、どんな残酷なことも、悪いことも、自由にやってしまいます。

 もうひとりは、ケモノなどにかわらないで、人間の姿のまま、平気で悪いことをどんどんしていく悪魔のような少年で、この子はそうすることが、自分が世の中で力づよく生きていくための方法だと信じているのです。この少年は、間久部緑郎といって、シェークスピアという人の書いた有名な劇「マクベス」にでてくる悪魔のような王さまの名まえをもじったのです。ボクは、ときどきこういう大きい人向けのアイデアをいれるので、高校生や大学生も読んでくれるのです。

(後略)



読みどころ:


虫ん坊 2014年6月号 オススメデゴンス!:『バンパイヤ』

 表題の「バンパイヤ」とは、あるきっかけによってたちまち獣に変身してしまう特異体質を持っている人々のこと。この体質によって、人間社会から迫害されてきた彼らは、それぞれ、人里はなれた山奥などに集落を作るなどして、ひっそりと人目を避けて暮らしていました。そんな集落のひとつ、木曾の夜泣き谷にある日、ついに人間が入り込んでくることになり、村人らはやむを得ず「バンパイヤ」であることを隠して山を降りる決意をします。



虫ん坊 2014年6月号 オススメデゴンス!:『バンパイヤ』

 主人公トッペイもまた、夜泣き谷の住人。月夜の晩に、人を憎んだり、恐ろしいと思ったりするとなんとオオカミに変身してしまう「バンパイヤ」です。普段は善良な性格のトッペイも、変身してしまうと人殺しもいとわない獰猛な獣そのものになってしまいます。彼の特異な体質に目を付け、たくみに利用して犯罪を企てる、頭は切れるが冷酷で残忍な、悪魔のような少年がもう一人の主人公、間久部緑郎ことロック。この二人の強烈な個性を持った主人公の丁々発止の対決が、この作品の最大の見どころです。悪役のロックのしぶとさと狡猾さに比べ、トッペイ一人だとどうも頼りなくハラハラさせられるこの対決のサイドを固めるメンバーがまた豪華。悪人ロックを鋭い勘で追い詰めてゆく下田刑事や、快傑探偵ヒゲオヤジ、それに三枚目のようで、鮮やかな推理力で大活躍する作中の手塚治虫。手塚スターシステムでもおなじみの、頼れるベテランスターたちが現れると、不思議とほっとさせられます。

 



虫ん坊 2014年6月号 オススメデゴンス!:『バンパイヤ』

 バンパイヤたちが徐々に獣に変身してゆく描写の不気味さや、次第に大胆かつスケールの大きくなってゆくロックの悪魔的な悪巧みの恐ろしさには、始終ドキドキ、ゾクゾクさせられることでしょう。物語りもどんどんスケールが大きくなってゆき、ついには人間対バンパイヤの戦いというところまで発展してゆくのですが、気になるその結末はやはり、作品でお確かめください。

 



虫ん坊 2014年6月号 オススメデゴンス!:『バンパイヤ』

 なお、この『バンパイヤ』には姉妹編と言うべき、第一部の一年後を扱った第二部が存在します。残念ながら第二部はかなり序盤で未完になってしまっていますが、第一部に負けず劣らずサスペンスに満ちた展開で、興味深い作品です。

 







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