今月のオススメデゴンスでは、『ユニコ』より「第7章 一夜だけの舞踏会」をご紹介します。
ロマンチックなお話が多いユニコですが、雪の降る夜、一晩だけ魔法で貴婦人に変身して舞踏会に出席……なんて、クリスマスに読むにはピッタリのストーリーですよ!
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『ユニコ』第2巻 あとがきより)
ユニコというキャラクターはアメリカ生まれです。いや、アメリカ人がつくったわけではありません。
サンリオというファンシー商品の会社が、アニメの本格的な作品として、「メタモルフォセス」(後に「星のオルフェウス」と改題)という日米合作長編ものを手がけるために、ロサンゼルスにスタジオを開設したのです。
そこへ遊びにいった時、スタジオの一室でハッとユニコの姿が思いうかびました。
そこで紙をもらって、イメージが消えないうちにスケッチをしました。ユニコの誕生です。
そもそも、サンリオで「リリカ」という少女向け月刊誌を出す企画があり、ぼくも連載をたのまれていたのです。しかし少女マンガは長いあいだ描いていないし、なにかかわった動物ものにしようかなどと考えていて、それがロサンゼルスで突然ひらめいたのでした。
日本へ帰る飛行機の中で、ユニコーンをもじった“ユニコ”というネーミングも終わり、こりゃあいけるぞ、と自信を深めました。
(後略)
嫉妬深いビーナスの呪いで、さまざまな場所や時代を放浪する運命になったユニコ。そんなユニコには気の毒ですが、マンガ『ユニコ』の面白さは、そのユニコの運命そのものにあるといえます。あるときはギリシャ神話の世界にいたユニコが、他のお話しではオートメーションの工場が公害を撒き散らす現代日本らしきところで冒険を繰り広げます。時代も場所もこえて世界を放浪するユニコのおかげで、われわれ読者はさまざまな時代や舞台を堪能できるというわけです。
帝政ロシア時代、ユニコはお尋ねもののマーシュカに出会います。
貧しいマーシュカはまだ少女といってもいい年頃なのに、男の子の格好をして強盗をしながら生きているのでした。親に捨てられ、孤児院からも逃げ出したマーシュカは、強盗をすることでしか生きていけなかったのです。
一晩だけ魔法で貴婦人に変身する男装のマーシュカのモデルはおそらくシンデレラだと思われますが、同時にまた「リボンの騎士」のサファイアを彷彿とさせます。サファイアが王女であったのに比べ、マーシュカは街のごろつきではありますが、せっかく舞踏会に出席しても自分の正体を明かせず、切ない思いをするところなどはまさにサファイア。本当は女の子らしい女の子であるにもかかわらず、過酷な現実に堂々と立ち向かっている勇ましさも良く似ています。