今月の特集2は、現在開催中の展覧会のご紹介! 東京・杉並の閑静な住宅街の一画に立つ「杉並アニメーションミュージアム」で開催中の企画展、「手塚治虫の温故知新 〜『osamu moet moso』と復刻マンガ展」をご紹介します!
気鋭のクリエイターたちによる、手塚作品のコラボレーション企画「osamu moet moso」と手塚治虫のオリジナル作品のカラーイラストが同時に見られる本企画展を、杉並アニメーションミュージアム運営担当の藤田輝さんに案内していただきました!
「杉並アニメーションミュージアムは、杉並会館の3階から4階のフロアにあります。企画展のスペースは、中3階から4階のエリアで展開しています。
メイン会場となる中3階では『osamu moet moso』として様々なクリエイターによるコラボレーション作品の展示、4階では手塚治虫による原作のカラー複製原画の展示となります。手塚さんの『やけっぱちのマリア』や『プライムローズ』といった、あまり他では展示されない複製原画も見られますよ!」
「また、4階では、近年、次々と刊行されている『復刻マンガ』についての展示も行っています。古くて汚れた書籍から、どのようにして新品同様の綺麗な印刷紙面をつくり上げるのかを実際の紙面を上げながら紹介しています」
「参加型のコーナーが毎回、人気が高いのですが、今回もあります! 名付けて、『あなたも手塚キャラとコラボしよう!』コーナーです!
自分の絵柄で手塚キャラクターを描いてみよう! というコーナーですが、うろ覚えでも大丈夫、ちゃんとお手本が貼ってあります。
絵がまだまだニガテな小さなお客さんの中には、一生懸命お手本を真似して描いていますが、すでにかなりイラストが描けるとおもわれる方の作品もあります。みんなの作品は壁に掲示されていますので、見ているだけでも楽しいですよ。」
「他にも、アニメシアターでは手塚治虫作品を原作としたアニメーションを上映しています。期間中のみですので、この機会にぜひご覧ください! 中には、DVDなどでなかなか見られない作品もあります!」
上映作品ラインナップ・スケジュールは、こちらをご確認ください!
ひと通り展示を見終わり、アニメシアターでアニメを鑑賞した後は、受付にぜひ立ち寄りましょう! 企画展関連グッズが多数、販売中です。
「今回の企画展では関連グッズがたくさんあって、並べきれなくなってしまいました。ショーケースには一部の商品を展示し、並べきれなかったグッズはカタログを見ながら選んでもらっています。
受付の背後の大きな柱には、アニメーターやマンガ家、声優さんなどのアニメ関係者によるイラストやサインが描かれていますので、こちらも見所の一つです! 手塚ファンなら、手塚プロダクションアニメーターの小林準治さんや、手塚先生と親交の深かった片山雅博さんのイラストが見所でしょうか」
その他、杉並区のゆるキャラ、なみすけのグッズや、鈴木伸一館長の著書などを販売しています。
「それから、近所の小学生が当館の見所を手作りのガイドブックにしてくれたんですよ! こちらも受付に展示してありますので、来館したらぜひ見てみてください」
受付のある3階では、アニメの作り方や歴史を学べる常設展を見ることができます。こちらでもあちこちで手塚キャラに出会うことができます!
「もちろん、手塚作品は日本のアニメーションの歴史には欠かせないですからね! アニメの作り方を紹介するコーナーでは、アフレコの体験ブースもありますが、そちらでは2003年放送の『アストロボーイ・鉄腕アトム』のワンシーンを使ってのアフレコ体験ができます。
他にも、アニメーター体験コーナーでは、企画展開催期間中、手塚キャラクターのトレス体験ができます。ちゃんと、トレス台を使った本格的な体験ができるので、人気のコーナーです。手塚治虫記念館のアニメ工房でも使われている、アニメーションを作れるソフトが入ったパソコンもあります。自作の短いアニメを作って、遊ぶことができます」
ご案内いただいた藤田さんにお話を伺いました。
——前回は、2010年に開催したトキワ荘の企画展のときにおじゃましましたが、手塚治虫がテーマとなった展覧会は、いままで何回開催されましたか?
藤田:
今回で3回目になります。初めは、2006年に手塚マンガやアニメーションと中国のアニメーションをテーマにした「アトムと孫悟空展」を開催しましたし、2回目の2008年には「横山隆一 手塚治虫 二人展」を開催しました。その他に、トキワ荘展のときも、少しだけとり上げさせていただきました。
——来館者はどのような方がいらっしゃいますか?
藤田:
他の企画展に比べると、比較的年配の方もいらっしゃるので、幅広い年代の方が来てくださっている印象ですね。もちろん、「osamu moet moso」の参加アーティストのファンの方々らしい若い方もいらっしゃいますが、普段は当館にいらっしゃらないような、50代以上の手塚ファンらしい方が多いのが印象的です。
マスコミの反響もいつもの企画展とは違って、アニメ雑誌などの関連媒体以外の媒体が取材に来てくださいました。毎日新聞さんが紙面で取り上げてくださるなど、一般の媒体で、当館の名前を知っていただくいい機会になりました。一般の人にも、手塚治虫や、「osamu moet moso」は注目度が高いようですね。
——来館者からの反響は?
藤田:
若い方には、概ね好評を頂いております。もともとの手塚ファンの方にも、「osamu moet moso」は楽しんでいただけているようです。コミケなどで同人作品を楽しむように、アニメ好きには、2次創作作品に寛容な方が多いように思います。
——杉並アニメーションミュージアムは、杉並区の施設ですね。藤田さんも杉並区民ですか?
藤田:
はい、私は社会人になってから上京して、杉並区に住んでいます。ミュージアムに務めるようになったのは5年前です。
杉並区がアニメーションに着目したのは約10年前で、その流れで当ミュージアムは2005年に開館しました。
杉並区は、住宅がメインで、特に観光スポットがあるわけでも、大きな会社のオフィスがあるわけでもない。そこで、当時日本に400社ほどあるといわれていたアニメ制作会社のうちの70社が杉並区にあるという事に着目して、杉並区がアニメ産業について調べてみたら、「一見華やかだけれど制作会社は疲弊していて、貴重な資料もどんどんなくなっている。これは杉並の地場産業としてなんとかしなければいけない」という気概があったんです。
私自身がアニメファンでもあるので、アニメ業界がずっと長く続いて欲しいと思っています。そこで、杉並という行政がアニメに着目したことに関心を持ちました。だけど、一地方自治体だけでアニメ業界をなんとかするというのは無理がありますから、当館をきっかけにアニメ文化がもっと浸透して、杉並だけでなくいろいろな町にアニメミュージアムができたらいいと思っています。
——他にももっと、アニメーションのミュージアムがあれば、地方のアニメファンはうれしいでしょうね。
藤田:
アニメは日本の誇る文化だ、とよく言われますが、まだまだ対応が遅れています。例えばおとなりの中国では、アニメミュージアムが各地にできています。貴重な資料もどんどん海外に流出してしまって、やがて著作権が切れた時に「日本のアニメの資料を見るなら、中国に行った方が良い」なんてことになりかねません。せっかく日本独自の文化なのですから、作品の著作権が生きているいまのうちからなんとかしないといけないと思います。
私の理想では、図書館みたいに、古いアニメ作品が自由に見られる施設が、せめて各都道府県に1つずつぐらいあってほしいです。レンタル店があるじゃないか、という声もありますが、レンタル店も商売ですから、すべての作品が見られるというわけではありません。また、お金を持っていない子供たちにもっと気軽にアニメを観てもらえるようにしないと、アニメの将来はありません。文化的な資料としてちゃんとミュージアムで保管・整理することで、業界全体のメリットにもなると思うんです。
まずは東京の西側の、杉並や練馬といったアニメ制作会社が多く立つ地域から、そういう取り組みに力を入れていくことができないか、というのが、今のところの我々の目標です。実現に何年かかるかわからないんですけどね。
——お忙しい中、ありがとうございました!
今回紹介した企画展は、12月16日まで! ご覧になりたいかたはお早めにお越しくださいネ!