虫ん坊2010年12月号でご紹介した、『手塚治虫・創作ノートと初期作品集』復刻版の発売のニュースには、みなさん、驚かれたと思います。
この『創作ノートと初期作品集』の好評にともない、このたび、2月1日に第2弾が発売されました!
今月の虫ん坊では、再び、本企画の仕掛け人・小学館クリエイティブ取締役 川村寛さんにお話を伺い、今回発売となる『創作ノート2』について、『1』との相違や、その魅力について伺いました。
「手塚治虫 創作ノートと初期作品集2」発売中!
小学館クリエイティブ 「手塚治虫 創作ノートと初期作品集2」 商品ページ
復刻堂(小学館クリエイティブ・ツイッターアカウント)
Amazon:手塚治虫創作ノートと初期作品集〈2〉
——今回の商品のラインナップを、簡単に教えてください。
川村: 今回は前回の10冊の「続編」ということで、通し番号を11から22まで打ったノート(つまり12冊)となります。それぞれのこちらで便宜上のタイトルをつけ、ノートの表紙に書きました。
前回のラインナップでは「リボンの騎士」や「鉄腕アトム」などの著名作品の構想ノートや、絵が描かれたものなどを中心に、キャッチーな視点で選びましたが、今回は作品に昇華されなかった、構想ノートのみに見られる作品のシノプシスやアイディアノートなどを多数、組み入れました。いわば「本邦初公開」のタイトルもあり、下描きではありますが、「新作漫画」として読むことも可能です。
——今回初めて読める作品がある、ということでしょうか。
川村:まさにそのとおりです。もちろん、作品の前段階、「ネーム」と呼ばれる覚書のようなものですから、キャラクターなどはきちんと書き込まれているわけではありませんが、物語の骨子はわかります。
たとえば、この「月世界の生活」や「バッファロキッド」などは、おそらく作品に描かれなかった、幻の作品になります。
また、今回特典冊子としてラインナップに入れた作品「オヤヂ探偵」と「バリトン号事件」は、今回初単行本化作品ですが、それ以上に大変意義深い作品なのです。
——どんなところが意義深いのでしょうか?
川村: 実は「オヤヂ探偵」は、手塚治虫が始めて、ペンとインクを使って描いた作品なんです。いわば「原稿」第一号といえます。生涯15万枚の原稿を描いたといわれていますが、その出発点の作品ですので、とても貴重なものといえます。
自伝などでもたびたび触れられていますが、手塚治虫は、旧制中学校に在籍していた14歳のころ、友人同士のあいだで小冊子を作って回覧していました。「オヤヂ探偵」は、その小冊子向けに描かれた作品で、直筆のペンで描かれています。それをほぼそのまま復刻しました。その頃のご友人や、ごく身内の方以外の私たちにとっては、本邦初公開、となります。
もう1冊の「バリトン号事件」も、「オヤヂ探偵」の続編として描かれたものですから、14歳の時の作品になると思います。いずれにしろ、手塚治虫の「ルーツ」としては最古の作品といえると思います。
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「構想ノート1」と、今回の収録ノートとで、違っている点は?
川村:前回よりもノートの使い方が自由で、言ってみれば、ラフなものが入ってきているのが、面白いところではないでしょうか。
大学の講義のメモらしい、横文字の書き込みや、原稿料と出費をメモした生活感のあるページもありますし、誰かの似顔絵を丁寧に描いたページなどもあります。
前回は、割合きちんと描かれたノートを中心に復刻しましたが、今回は走り描きやメモが多く見られるノートがラインナップされています。より生々しい「資料」といえます。
面白いのは、手塚先生が、決してノートを正しく表紙から使っているとは限らないことです。ものによってはウラから描いているもの、上下逆転しているもの、それらが混在しているものなどが見られて、非常に柔軟にノートを使われていたことがわかります。きっと、学校や外出先にいつも持ち歩いて、思いついたらぱっと開いてメモしていたんでしょうね。もちろん、それらも忠実に再現しています。
想定などは基本的にノートのままにしていますが、前回同様、ずっと持っていられるように、紙は良いものを使用していますし、ヤケやゴミなどは取っています。
中には、歌の旋律のようなものがドレミで縦書きにされているページもあります。これはいったい何なのか、どこかで聞いたメロディをメモしたのか、作品の主題歌を作曲したのか、…見れば見るほど、興味が尽きません。
さまざまな読み方ができますし、読む人によってもいろいろな発見ができる本だと思いますので、ぜひ手にとって、じっくり読んでみてほしいです。
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「創作ノート1」は好評だった、とのことですが、反響はなにかあったのでしょうか?
川村:手塚治虫という人物の創作ノートを出版し、広く世の中に出してゆく意義は感じていましたが、正直なところ、いかに手塚治虫の復刻とはいえ、漫画作品ではないので、売れないかもしれない、という思いもどこかにありました。ところが、出してみると思ったより好評で、このような出版物の例にしては異例な売れ行きだったのです。改めて、手塚先生はやはり、特別な存在なのだな、と感じました。
具体的な反響としては、やはり同業他社の人々から、「よくやってくれた」という声をいただいたり、マンガ家の先生方が「ほしい」と言ってくださったりしています。マンガ家としても著名ですが、マンガ評論家でもあるいしかわじゅん先生は、「国宝級ですよ!」とおっしゃっていましたよ。
考えてみれば、お亡くなりになってすでに23年が立っている作家の本が、未だに新刊として出版されている、というのは、大変珍しいことですよね。改めて、手塚作品の普遍性を実感しました。
——いまは買えないけど、お金をためて買いたい! という方でも、手に入れられますか? たとえば、学生さんとか……
川村:ええ、もちろんです。できるだけ、若い方や学生さんにも手に取っていただきたいですが、確かに高額なものにはなりますので、たとえば図書館にリクエストしていただりすると良いと思います。
また、「創作ノート1」もそうですが、この本は手塚プロダクションとの約束で、限定版にしないこと、ということになっていますので、初回版がなくなったら重版をします。お金をためて何年か後に買っていただくこともできると思います。
画家の素描集などは、洋の東西を問わず、大変リスペクトされるし、市場で高値で取引もされます。ところが、マンガ家の素描には、今までそんな価値を見出す人がいませんでした。
前回の「創作ノート1」に高評価をいただいたことで、日本のマンガの文化というものが成熟し、こういったものの価値がきちんと評価されるようになったのだな、と感じました。いまや、大学にマンガを学ぶ学部が出来てもいますし、マンガ史を研究している方も増えています。マンガの描き方だけでなく、それを文化として研究しているんですね。そういう方にとっては、この「創作ノート」は重要な資料になると思います。
今後も、「創作ノート3」「4」…と、続編を出して、手塚治虫の創作の秘密に関する研究が進むような手助けをしてゆければと思っています。
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最後に、「創作ノート」とは少し離れますが、今後の手塚作品の復刻本の発売予定も教えてください。
川村:手塚作品では、「少年サンデー」連載作品の完全版の復刻を予定しています。
まずは「0マン」を出しましたが、その後「キャプテンKen」「白いパイロット」「勇者ダン」を復刻していきます。最初の「スリル博士」は手塚先生によれば「失敗作」で、まだ週刊誌のリズムをつかめなかった、という作品ですが、「0マン」以降はリズムも出来、こなれているのがわかります。雑誌をそのまま復刻すると、そういったリズム感もよく分かります。
また今年は、「鉄腕アトム」の連載開始60周年ですので、光文社版「鉄腕アトム」のセットも予定しています。本の表紙は当時のままではないですが、内容は完全復刻となります。こちらは今の予定では4ボックス各8冊(全32冊)に2冊の付録つきで、限定版になります。
また、「GAMANGA BOOKS」というシリーズでは、「三つ目がとおる」を雑誌掲載順に、カラーページも再現して編集したバージョンを全10巻で4月末から順次刊行予定です。
マンガの場合、単行本に収録されるとカラーページもモノクロになってしまう例がおおいですが、もったいない話です。このシリーズでは、手塚先生に限らず、他の著名な先生方の作品もラインナップ予定ですので、マンガ好きの方にもチェックしていただきたいですね。
——お忙しい中、ありがとうございました!