10月の虫ん坊では、手塚治虫最晩年の作品である、『ネオ・ファウスト』をご紹介します。
手塚治虫が大好きだった、ゲーテの『ファウスト』の3度目のマンガ化とあって、当時最新の科学技術や社会現象を盛り込んだストーリーと、大人向けの劇画調の絵が魅力的。残念ながら未完ですが、充分読み応えのある作品です。
10月といえばハロウィン。悪魔や悪霊が町を
解説
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『ネオ・ファウスト』2巻 あとがきにかえて より)
…(前略)…
悪魔というとおかしいんですけど、今度の作品では負のエネルギーという言葉をつけてます。悪魔という言葉は抜いたんです。マイナスのエネルギーというのは人間を支配すると同時にあらゆる物質を支配する。結局負のエネルギーのほうが強くて、そして最終的には滅亡に至るわけです。
…(中略)…
今度の「ネオ・ファウスト」で、これは前の二冊ではあまりかかなかったヘレネ、あの存在をもう少しかいてみようかと思います。いちばん最初に魔女のくりやで少し出てきますが、あれがじつは地球そのものなんです。丸い球の中に入ってますが、つまり地球の一種の生命体みたいなもんです。それに向かって坂根が挑戦していく。地球も女性の姿をして生きてるわけです。最後に原作では古代のギリシアに突っ込んでいきます。あれをもっと突っ込ませて、古生代から、地球の創世記まで突っ込ませて、生まれたての地球、それに生命力みたいなものを感じて、その生命力みたいなものを現代に持ってくるというふうなプランデスクにしたい。
…(中略)…
原作ではホムンクルスというのがほんのちょっと出てきてすぐ爆発して死んでしまいますが、今度の場合ホムンクルスは最後まで生かします。今週で石巻が死にます。死ぬ前に石巻が自分の精子を坂根に渡して、「これを培養して、将来バイオテクノロジーの実験に使ってくれ」と頼みます。で、メフィストに殺されるわけです。これはつまりクローン人間なんです。…(中略)…いまバイオテクノロジーに持ってる私の不安とか、それから拒否反応みたいなものをメインテーマにしたいと思います。
…(後略)…
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手塚治虫が生涯に3度、漫画化を試みたドイツ文学の雄、ゲーテの『ファウスト』。今回ご紹介する『ネオ・ファウスト』はその最後の作品です。
ゲーテの時代ならいざ知らず、この野暮ったく、夢もロマンもない現代日本に、いったいメフィスト的な悪魔が存在できるのか。もしそうお考えの方がいらっしゃるのならば、ぜひともこの『ネオ・ファウスト』に目を通していただきたいものです。手塚治虫のメフィストは、実に細心の注意をもって自らの舞台を選んできます。昭和30年代の赤線、かび臭い名門大学の研究室、人間界の
主人公・坂根の追い求める悪魔的な夢「新たな生命の生成」も、原作の人造人間「ホムンクルス」生成の魔術を
晩年の手塚治虫が相当な力を入れて執筆し、『火の鳥』以来の
それでも、この作品の強烈な魅力は損なわれるどころかますます謎めいた輝きを放つかのようです。
物語ラストで世俗の権力をほぼ手に入れた坂根第一は、このあといったいどんな冒険をしたのでしょう。
それこそは、天国の手塚先生ご自身と、それに悪魔のみぞ知る、というところでしょうか。