年間を通じて最も優れた作品に贈られる「マンガ大賞」は、
『へうげもの』は、「出世欲」と「物欲」に揺れる戦国大名の
今回、最終的に大賞候補となった作品は6作品でした。この『へうげもの』は連載が始まったころ、2007年第11回にも大賞候補となりましたが、今回改めて候補作品に名を連ねました。選考委員の
── 山田芳裕先生 受賞挨拶
私は今年、厄年なんですけど、厄払いをしないでこんな大変な賞をいただけるとは思ってもみませんでした。もしあの世に行くようなことがあったら、手塚先生にお礼を言って、古田織部公に謝罪をしたいと思います。(場内爆笑)
切り落としてしまった自分の指から生まれた「妹」に兄妹愛以上の感情を抱く物語を繊細なタッチで描いた「星の恋人」など、4編の短編が収められています。なんとも不思議な感覚が迫ってくる作品です。
市川先生が初めて触れた手塚作品は、小学校のころに見たというユニコのアニメで、「知的なざわめき」を感じたそうです。ユニコとの出会いを通じた感動が、『虫と歌』の不思議な物語の原型となっているのかもしれません。
── 市川春子先生 受賞挨拶
手塚先生の作品を最初に見たのはたしか小学校のころ、体育館で見たアニメのユニコが最初だったと思います。一種独特の輝くような不安のようなものを感じて、大変強烈に印象に残り、魅了され、興奮したのを覚えています。私のように手塚先生の作品に触れたのが、知的なざわめきが初体験だった人が多いのではないかと思っています。これからも初めてユニコを見たときのようなみずみずしさをいつまでも持って頑張っていきたいと思います。
受賞作『テルマエ・ロマエ』は、ローマ帝国のお風呂設計技師が現代日本の浴場にタイムスリップしてしまい、日本のお風呂事情を目の当たりにしてお風呂設計に関するアイデアを得るお話。お風呂という共通項で古代ローマと現代日本を結んでしまう、これまでにない斬新な設定が読者をひきつけた人気作品です。
お住まいのポルトガル・リスボンより駆けつけたヤマザキ先生。アイスランドの火山噴火で飛行機が飛ばなかったらシベリア鉄道に乗ってでも日本へ帰ってこようと心に決めていたといいます。リスボンには浴槽がなく、「お風呂に入っている人を描くことでお風呂に入った気持ちになる」と思ったのが、作品誕生のきっかけだそうです。受賞の挨拶では、火の鳥の大ファンだという息子さんから言われた一言など、会場が明るい雰囲気に包まれました。
── ヤマザキマリ先生 受賞挨拶
『テルマエ・ロマエ』はイタリアの新聞でも紹介されまして、そのときのタイトルが「古代ローマ、日本のマンガ界を
16歳の息子が手塚先生の大ファンで、特に火の鳥が好きで、枕元に火の鳥を並べています。
「どうするの?こんな大変な賞をもらって。これから死ぬまでママが素晴らしいマンガを描かなきゃいけないっていう約束ごとになるんだから」と言われ、私も本当に
受賞作品群は、日本人がずっと抱いてきた思想や理念というものを感じさせました。
『へうげもの』の「わび・さび」は、さまざまな歴史の中で伝えられてきた日本人の姿勢であるし、『水と歌』のなかにある自然との接点や、『テルマエ・ロマエ』では、日本人にとっては、日本は火山国である、という「地」と「人間」の関係が見事に表現されています。海外諸国では表現しえない題材で、日本人の精神によって描かれたマンガだと思います。
手塚治虫の作品にも、西洋を題材にしたものや英語の名前の主人公が登場しますが、やはりそこには日本人としての精神が描かれています。
故・米澤さんも、日本人でしか描きようのなかったマンガを広く若い人たちに読ませる機会やマンガの社会的ポジションの向上に寄与された方です。
ぜひとも受賞者の皆さまにはこれからもそうした日本人としての視点で作品を発表していただきたいと願っています。
また、贈呈式後には、作家の
受賞者の方々の個性的なスピーチが会場を笑いと拍手につつみ、終始なごやかな雰囲気のなか、贈呈式は幕を閉じたのでした。