虫ん坊7月号の「オススメデゴンス」は、虫ん坊100号にちなんで、『100』に関係のある作品を。『百物語』をご紹介します。
ドイツの名作文学「ファウスト」を下敷きに、日本の戦国時代を舞台に変えて描かれた一代出世絵巻。「百物語」というのは、もともとはグループで真っ暗闇の中、不思議な話などをひとつずつしていき、それが100話に達すると、怪異が出現する、という、昔の日本で流行ったなんとも気の長いおまじないのこと。怖いお化けは嫌だけど、この「百物語」のスダマみたいなかわいい怪異なら、現れてもだんぜんウェルカム! です!
主人公・一塁半里と一緒に、不思議な世界を旅してみてください。
解説:
「百物語」は 1971年7月26日号~10月25日号 『少年ジャンプ』に連載された作品です。
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ゲーテの名作「ファウスト」をこよなく愛する手塚治虫は、生涯に三度、「ファウスト」の漫画化を試みています。一番初めが、そのものずばり「ファウスト」という作品。こちらはメフィストフィレスがかわいい黒い犬に描かれるなど、少年向け。一方、晩年に描かれ、まさに絶筆となった「ネオ・ファウスト」は大人向けのハードな作品。セクシーな女性のメフィストに、学生運動、新興の総合商社などがドイツ古典の素材を見事に現代劇に味付けしています。
以上の二作品もいずれも読み応えのある作品ですが、やはり一番読みやすく、マンガらしくもあるのはこの「百物語」であろうかと思います。
題名こそ「百物語」とありますが、こちらも「ファウスト」を翻案にした作品。ただし、舞台は戦国時代の日本。重要キャラクターのメフィストも、妖怪(?)の少女「スダマ」として登場します。
思うに「百物語」は、舞台を日本に持ってくると同時にファウストの哲学的な悩みや苦しみをもっと形而下的な問題に——要するに卑近で生々しい姿に描きかえることで、元ネタを愛するがゆえに面白くパロディして、おちょくってやろう、という意図が一番よく出た、それゆえにマンガの魅力が最大限に引き出されたマンガ版「ファウスト」なのではないでしょうか。