虫ん坊6月号の「オススメデゴンス」は、『上を下へのジレッタ』をご紹介します。
手塚治虫の作品の中でも見逃せないジャンルのひとつに、大人向けの“マンガ”があります。少年漫画のテイストとは少し違った、さらりと描いた線が魅力的な、社会現象や権力を風刺する作品たちには、根強いファンも少なくありません。
手塚治虫の大人マンガが大好きなあなたも、いままでご存知無かったあなたも、ぜひ一度、読んでみてほしい作品が、本作品『上を下へのジレッタ』。マスコミや芸能界、国家権力など、現代社会の華(?)を思い切り風刺した作品です。
解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『上を下へのジレッタ』2 あとがき より)
「上を下へのジレッタ」は、「人間ども集まれ!」の次に「漫画サンデー」に長期連載したものです。"ジレッタ"という語意は別になにもありません。しいていえばディレッタントの略でしょうか。とにかく語呂があんまりよくなく、受けそうにもないタイトルです。
事実、この話は「人間ども集まれ!」にくらべて反響はさほどでもありませんでした。後半でジレッタの登場になる、というのもまどろっこしいし、主人公の門前市郎が悪役というのもマイナスでした。しかしぼくのよくかく変身ものでも、腹がへったら美人になる、というアイディアは、自分ながらまあ上出来だと思います。女性が美人になるため減食したり、カロリーをとらない、という涙ぐましい努力をパロッたものです。
それにしても、ジレッタのようなメディアを国家権力が利用した場合、いかなる恐るべき事態が発生するか、そしてそれはごくひとにぎりの側近のエゴイズムでおこるのだという寓意を読みとっていただければ幸いです。
…後略…
<Amazon:上を下へのジレッタ(1) (手塚治虫漫画全集 (171)) >
「ジレッタ」は特殊な超音波と、山辺音彦の脳髄が感応して生まれた妄想で、電波のようにどんどん増幅されて、レシーバー等を使えば他人にも体験することができる、という不思議なシロモノです。それに目をつけた悪魔のようなやり手ディレクター、門前市郎と、彼のプロデュースした、お腹が空っぽの時にだけ絶世の美女に変身するというへんてこな歌手・小百合チエこと越後君子が入り乱れ、ついには国家をも巻き込んだ大騒ぎを引き起こす、というかなり風刺の効いたストーリーとなっています。