都会の片隅でたくましく生きる犬たちの日常を、哀愁あふれるタッチでつづった児童まんがです。
大きな工場のある町の片すみ。生まれたばかりのワンサは、母親から引き離され、10円で売られました。
けれども、母親をしたって途中で逃げだし、ワンサはのら犬になったのです。
ワンサは、工場の片隅で煤煙にやられて死ぬまぎわの小鳥と出会い、小鳥からこう言われます。
「そのときの10円のにおいをおぼえているなら、お金をほりあてる練習をすればいい。人間はなんでもお金でねうちをきめるから、お金さえあれば、おかあさんに会えるかもしれない」そう言って小鳥は死にました。
ワンサは、それから、10円を見つける特技を身につけたのです。
やがて工場の中に住みついたワンサを、掃除のおじさんが見つけ社長に報告しました。
すると社長はおじさんに「イヌを殺すか会社をやめるか、どちらかにしろ」と言ったのです。
おじさんは会社をやめ、ワンサはそのおじさんの家で飼われることになりました。
(未完)
1971/10-1972/02 「てづかマガジンれお」(虫プロ商事) 連載
ワンサのキャラクターは、もともとは三和銀行のマスコットとしてデザインされたもので、その名前もサンワを逆にしてワンサとつけられました。 そのワンサを主人公にして、虫プロ商事から刊行された「てづかマガジンれお」に創刊号から連載されたのがこの作品です。 しかしこの時期は、手塚治虫自身が主宰する虫プロが労働争議に揺れていた時期であり、そうしたゴタゴタが続く中、雑誌そのものが方向性を見失って、この作品も連載が中断したまま未完となってしまいました。 それから1年後の1973年4月に、虫プロ最後のテレビアニメ作品『ワンサくん』の放送が始まっていますが、こちらには手塚治虫はまったく関わっていません。 けれどもこのアニメ版は、手塚治虫のオリジナルマンガの味わいを生かしながら、それを大胆な動物ミュージカルに仕立てあげ、ひじょうにリリカルな佳作となっていました。 そのためワンサは、マンガ作品としては未完だったにもかかわらず、手塚キャラの中でも人気の高いキャラクターとして愛され続けています。