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ストーリー

近未来、家族から見放された老人達が暮らす老人ホームで、殺人事件が起こった!犯人はいったい誰なのか。ミステリー短編です。

「料理する女」は、サスペンスタッチの短編です。舞台はとある病院ですが、登場人物は老人ばかり。患者「B」氏の娘と、飯炊きのおばさん、医師以外は全て、老人という地味さ加減。彼らは痴呆を理由に、家族から追い出され、こんな山奥の病院に入院させられているのでした。
入院患者達の行動にはいずれも一癖のある怪しいもので、いずれもキャラクターが奇妙に印象的です。中には「B」氏や「E」氏のような一見沈着な人々もいますが、作家だったらしい「A」氏は手帳にいつもメモを取っているがその文字はとても読めたものではなく、「D」氏は食い気ばっかりなうえに子ども並に奇矯な行動をとり、「F」氏にいたっては刃物に異常な興味を示すという危険な趣向の持ち主。「B」氏とて実の娘に近い将来殺される、とやけに強硬に信じていて、娘がせっかく見舞いに訪れてもいやに冷たくあたります。
そんな中で患者の失踪事件、それに殺人とたたみかけるように事件が起こり、「B」氏らは推理を始めます。山中の病院、殺人事件、素人探偵と俄然ミステリーじみて来るのですが、謎が解かれてもめでたしめでたしの大団円、とならないのが、この話の空恐ろしいところ。「犯人はともかく、さてそのあとどうなる?」という、通り一遍のミステリーを読んだあとに感じるちょっとした不安や戸惑いのようなものまで、この作品にはさりげなく描き込まれ、しかもそれが謎ときのどんでん返しとして効いているのです。どんでん返しの末に導き出された「事件の真相」は、なんとも救いがなく、この作品の背後にある作者・手塚治虫の目は、いつになく冷徹で、凄みすら感じさせます。
なお、この作品は高齢化問題をテーマの一つとして取り上げていますが、この作品が発表されたのは1972年。それからおよそ30年、高齢化問題はさらに深刻化しています。現在、「料理する女」が、発表当時以上のリアリティをもって読まれる時代になっていることは間違いありません。

解説

1972/09/20 「ビッグコミックオリジナル」(小学館) 掲載

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