四谷怪談を元にしながら、それをほのぼのとしたラブ・ストーリーに描き変えた快作短編です。最近はあんまり聞きませんが、昔は四谷怪談というと、映画化しようとするとたたりが起きるだの、みだりに扱うと良くないことがあるだのといろいろな噂があったものです。だから、映画やテレビ、舞台などで四谷怪談を扱うときは皆、お岩さんの怒りを買わないように、四谷にある〝お岩イナリ〟にお参りに行くという習慣も、確かに昔からあったようです。手塚治虫自らが進行役として登場し、お岩さんと一緒に暮らしているという、戦争で家族を失ってしまった子供からふしぎな話を聞くというストーリー。このように手塚治虫が自ら重要な役として出演する作品は、自伝的作品以外はホラー作品が多いようです。熱演が光る『バンパイヤ』を始め、短編では「巴の面」や「うろこが崎」、「ロバンナよ」…どれも最後にぞっと涼しい後味の残るキレの良いホラー作品ですが、この「四谷快談」もやっぱり、ホラー作品?と思った方、すでにあなたは手塚治虫の術中にすっかりハマってしまっています。ぜひ、作品を読んで確かめてみてください。怖い怖いと思っているものが、実はとてもステキなものだったりすると、普通にいいものを見たときの数倍、嬉しくなってしまうようなことって、ありませんか?この「四谷快談」の感動のタネもそんなところに隠されていそうです。
1976/04/12 「週刊少年ジャンプ」(集英社) 掲載