ある殺人を追って少年保安官が訪れた町には、悪魔の拳銃「デビル・ジョスレー」の噂がささやかれていた。少年向け西部劇短編です。
険しい岩はだもむき出しの谷あいの小川に、誰かが直接顔をつけて水を飲んでいます。ところがこの男、いつまでたっても、顔を上げる気配がありません。そこでぐっとカメラがより、水を飲んでいる男の背中をアップに。とたんに男はぐらりと体をかしげ、そのまま小川にくずれおちます。水を飲んでいる、と見えた男は、実は背中を撃たれて殺されていたのです…。たいへん映画的なこの冒頭シーンは、読者を一気にアメリカの西部劇の世界に引き込んでくれます。
拳銃の名手にして保安官だった父を殺された息子の、敵討ちの物語。「乾き以外は何もない」という「火の谷」にさしかかった主人公が立寄った酒場では、ある拳銃の噂が囁かれています。持ち主を不幸な死に導く代わりに、悪魔の力で天下一の拳銃使いになれる、という「デビル・ジョスレー」。「火の谷」で殺されていた男は、デビル・ジョスレーを持っていたがために、誰かに狙われて殺されたのではないか、というのです。
日本の時代活劇でもしばしば「妖刀」「名刀」の類が登場しますが、こういったものはたいてい悪人たちに狙われるのが常で、この「火の谷」でも、デビル・ジョスレーの呪いや恐ろしさよりもそれを奪い合う悪人達の愚かさがクローズアップされています。この拳銃の持ち主は不幸な死に方をする、という噂がいちいち本当になるのは、果たして、本当に拳銃の呪いのせいなのか、それを狙う悪人達の野心が、殺しあいをおこさせるのか…。日本の時代劇などでおどろおどろしく語られることの多いこういうテーマを、がらりと視点を変え、西部劇のドライかつ明快な世界で語ったところが、この作品の面白さとなっています。
1960/08 「まんが王」(秋田書店) 掲載