イマジネーション、空想する力。それこそが空を飛べない人間に与えられたすばらしい翼なのだと、手塚治虫はこの作品を通して語りかけています。その上で人間本来が持つその翼が、管理教育によって奪われてしまうことの悲劇性を告発するのです。この作品が制作された頃から、日本でも「受験戦争」が問題視されるようになり、子供たちの個性を削り取って、平均化してしまう教育が蔓延するようになっていました。手塚治虫はそういう社会のあり方にたいしてアニメーションという表現で「それは違うのじゃないか」と問題提起しているのです。空想を禁じられている架空の国が舞台です。ひとりの少年が助けた魚が、人魚に変身してしまったから、さぁ大変! これはよからぬ空想の産物だとして少年は逮捕され、強制的に空想する力を奪い取られてゆく。管理社会の怖さと、そこからの脱出を描く物語は、たとえばテリー・ギリアム監督のSF映画『ブラジル』にも通じるテーマです。
(C)手塚プロダクション
第4回草月アニメーション・フェスティバルに出品/8分18秒/カラー
虫プロダクション/1964年9月21日
原案、構成、演出、作画:手塚治虫
製作:富岡厚司
原画:山本繁
動画:沼本清海
撮影:佐倉紀行
音楽:冨田勲 (ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」より)