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虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

 手塚治虫の一年先輩で、同じく昆虫好きの作家、北杜夫のエッセイ『どくとるマンボウ昆虫記』が手塚プロダクションのアニメーター、小林準治の手でマンガ化されました!
 北杜夫と同じく「コガネムシ好き」で虫を愛する小林による『どくとるマンボウ昆虫記』は、リアルながらもどことなく愛嬌のある虫達がいっぱい出てきます。手塚治虫と北杜夫による虫好き同志トークもマンガ化、収録されているほか、手塚プロダクションならでは(?)の仕掛けとして本編の中にはたくさんの手塚キャラクターが隠れている、とか。
 虫ん坊では、この本の読みどころなどを、作画を担当した小林にインタビューしました。


関連情報:

コミック版 どくとるマンボウ昆虫記




●コミック化のキッカケ

虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

手塚プロダクションアニメーター・小林準治。今回はマンガのお話をしてもらいます。

――手塚プロダクションで北杜夫のエッセイのコミカライズを手がけることになったきっかけはなんだったのでしょうか?

小林準治(以下、小林): もともとは、僕の昆虫仲間の新部公亮さんと独文学者の岡田朝雄さんというお二人の昆虫好きが北杜夫さんの大ファンで、日本の各地で「マンボウ昆虫展」という昆虫をテーマにした展覧会を2006年頃から開催していまして、その会場で僕が以前描いた『手塚治虫の昆虫つれづれ草』のような感じで、『どくとるマンボウ昆虫記』をマンガにできないか、と相談を持ちかけられたことがきっかけでした。


虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

「どくとるマンボウ昆虫記」より 「想い出を語る」ワンシーン

 この数年、僕は一年に3ヶ月ほど、手塚プロダクションの北京のスタジオに行って、作画のチェックや指導をするような仕事をやっていまして。北京に行っている間はこっちでアニメの仕事をしている時と違って、夜の時間が開くんですよね。6時ぐらいに宿舎に帰ると、12時ぐらいまで特にやることもないのね。本を読んだり、DVDを見たり、あるいは飲みに行ったりしてもいいんだけど、僕はその時間がもったいないなと思って、描き物をしたりしていたんです。そこでその時間を使って、『どくとるマンボウ昆虫記』の「まんぼう、憶い出を語る」のマンガ化を進めていました。
 23ページぐらいでまとめてあったんだけど、そのラフを2011年10月1日に軽井沢で北さん一家と関係者でご一緒に食事をした際、北さんに見せたら、「あ、この風景は、僕の子供の頃と同じだね」と言って褒めてくれましたね。ぜひマンガにしてください、っておっしゃってくれました。
 その時は、これを仕事にしようとは特に思っていなくて、社長の許可なども取っていなかったんだけれども、去年のゴールデンウィークに、NHKが取材に来てくれて。ニュース9の特集で放送されたんです。記者の方が知り合いだったんだけれども。

――ほう。

小林: そうしたら、小学館クリエイティブさんが連絡してきてくださって。他にも2社、連絡いただいていたらしいんですが、僕はつい最近までそれを知らなかったんですね。てっきり、小学館クリエイティブだけだったのか、と思っていたけれども。


虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

『どくとるマンボウ昆虫記』より・アニメ風フンコロガシの物語

――反響は大きかったんですね。マンガ化にあたって苦労された点はありますか?

小林: 僕はずっとアニメの仕事をしているのですが、やっぱり、マンガとアニメだと方法論が違うのでそういうところはなれるまで苦労しました。アニメーターは普段は鉛筆を使うことが多いので、ペンが使える人はごく僅かなんです。僕はイラストを描いていたので、ペンも使えましたけどね。ペン独特の強弱のある線は難しいですね。
 あと、マンガはデッサンが狂っていてもそれが味になったり、強調になったりしますが、アニメーターはデッサンが狂っていたら絶対ダメなんです。そういうところも違いますね。
 僕はマンガ家としては知識も無いので、もっとこうすればいい、というところはたくさんあると思いますが。
 絵柄に関しては、北さんのご遺族の方から、「劇画調じゃない感じが良いです」というお話しをいただいていまして、手塚先生風というか、丸っこい、昔ながらの雰囲気で描くようにしました。ほんとうは「手塚先生の『アドルフに告ぐ』のようなタッチで……」と担当編集者にはお願いされていたのですが、それはさすがにそう簡単には真似出来ませんよ。手塚先生は別格ですから。だから僕なりのタッチで。
 また、ちょっとお下品なところなんかも、原作は大人向けのエッセイですから、あったりもするのですが、そういうところは担当編集者の方やご遺族からストップがかかった部分もありましたね。
 ケジラミの話なんか、原作にちゃんとあるんですけどね。描写は子どもたちにも読んでもらえるように上品に……(笑)。


虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

『火の鳥』黎明編からゲスト出演!?

――本編には手塚キャラクターもたくさん登場しますね。

小林: そうなんです。これはもう「手塚プロダクション」の名前で仕事をするからにはやりたいな、と思っていて。
 ハムエッグとランプとか、サファイヤとか、リイコとか……。ヒゲオヤジもちょくちょく登場しています。
 このページのニニギノミコトとアメノウズメなんて『火の鳥』の二人そっくりでしょ!?
 他にも、手塚先生の描いた昆虫の絵などは、使わせて頂きました。
 他にも見る人が見れば、手塚プロダクションのスタッフや、僕の知り合いなんかをかなり似顔絵で使わせて貰いました。


虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

虫の絵

――虫の描写にちからが入っているのはもちろん、小林さんならではだと思いますが、背景の自然もこだわりを感じます。

小林: 僕は、水木しげるさんみたいな背景の描き方が好きで、結構そういう影響がある絵はありますね。あと、やっぱり想像だけで描くのでは限界がありますから、僕の家の周辺の風景などはずいぶん参考にしました。色々な風景をモザイクのように合成して、フィクションの景色にしています。
 でもやっぱり、僕の絵はアニメーターの絵だな、と思います。水辺の描写なんかはアニメっぽいでしょ? あと、こういう風景なんかはアニメ風ですよね。
 でもやっぱり、僕の自負としては、こういうシリーズを絵にする際に、ちゃんと昆虫も正確に描けることだと思っています。普通のマンガ家の多くは、こういう、虫の描き分けなどは専門の標本画家に任せちゃうことが多いんですよね。ぼくはもちろん、手塚先生の虫のイラストを一部引用している他はちゃんと自分で描いています。


虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

――虫の表情なんかは虫に興味が無い私が見ても、とても可愛らしいなと思いました!

小林: 虫ってよく見るといろいろな顔で面白いんですよ! アオスジアゲハなどはこうして捕まえてよくみてみると、虫なのに色気があるのね。若いころの宮沢りえそっくりでね……、って僕の生徒に話したら、「変だ」「ぜんぜん違う」って言われたけど(笑)。目も可愛くて、色っぽい顔つきが似てるの。
 僕は蛾やハチ、それにコガネムシが好きなんだけど、コガネムシもよく見ると可愛いですよ。僕の好きなスズメガはね、ジェット機みたいに早く飛ぶんですが、ホバリングも得意で空中で止まったまま、吻を伸ばして樹液を吸うんですよ。こう、光を当てると目が金色に光って、生き物とは思えないぐらいメカニカルで。
 北さんと僕は昆虫の好みがすごく似てまして。北さんもコガネムシが大好きで、ヤンバルテナガコガネなんかを見たら垂涎、という感じじゃないでしょうか。僕は見られればそれでいいけど、確かに沖縄に行った時に見た標本はすごかったなあ。


●二人の天才

虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

この本には手塚治虫も登場します

――この本には、手塚治虫と北杜夫の共通点がまとめられていますね。

小林: これは僕が独断で作ったんですよ! ふたりともエキセントリックなところがあったり、虫が好きだったり、似ていますよね。あと、ここには書かなかったけど二人とも芝居に入れ込んだ経験がある、というところも似ていますよ。
 年もほぼ一緒で、身長もだいたいいっしょでしょ? 北先生のほうが実は一歳年上なんだけど、手塚先生は自分では大正一五年生まれだ、って言っていたんで、北さんもずっと「手塚さん、手塚さん」って呼んでたんですよね。手塚先生が亡くなった時にぽつりと、「手塚くん、って言えばよかった」っておっしゃってましたね。

――他にはどんなところが似ている、と思われますか?

小林: 手塚先生って普段は柔和で、学者みたいな雰囲気をまとっている時と、急に小学生みたいな感じになっちゃう時がありましたね。『三つ目がとおる』の写楽みたいな感じですよね。
手塚先生には弟さんと妹さんがいらっしゃいますが、お二人は全然、普通なんですけどね。お二人も口をそろえて「兄貴はちょっと変わっていた」っておっしゃっていますね。
 北さんも躁鬱というか、もっとエキセントリックでしたね。僕は4回しかお会いできませんでしたけれども。
 北さんからのハガキがまた面白くて、小さい字で色々な文句が印刷してあるんです。「あけましておめでとう」とか「暑中お見舞い申し上げます」とか「ご結婚おめでとう」とか「ご離婚残念です」とかね。
 それにマルをつけて送れば、挨拶状になる、っていう。手抜きハガキですよね。そんなハガキの余白に、いろいろ面白いことが書いてあるのね。「奥本君がぼくのオオチャイロハナムグリを盗んだ! 許せません」とか(笑)。全くの誤解だったんだけど。


虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

――北杜夫さんを描くにあたって、気をつけたことはありますか?

小林: 僕が、というよりも、奥様からは結構ご意見をいただきました。あまり劇画調の、残酷な感じはやめて下さい、というのは、先程もいいましたが、絵柄はとても気に入ってくださいましたね。細かい描写では、原稿になってからでもチェックが入って、削られたところもありますけどね。
 奥様は結構、きわどい、大人向けの描写についてご意見されましたけれども、清純作家、と言われている北さんだって、結構大人向けなことも書かれているんですよね。『どくとるマンボウ航海記』では結構、いろんな事が書いてありますよ。
 そんなところも、ちょっと手塚先生に似ているかもしれません。


●手塚治虫と出会ったキッカケ

虫ん坊 2013年9月号 特集2:『コミック版 どくとるマンボウ昆虫記』 小林準治インタビュー

実験アニメ「ジャンピング」より1シーン。 「これをアニメートしたのは小林準治さんで、この人は「火の鳥2772」という映画で膨大な長さの高速道路をじつに見事にアニメートした人なんですけど、この人にほれこんでとにかく一人称のアニメーションをやってくれといったんですね。」(1986年10月25日発行 レーザーディスク「ジャンピング/手塚治虫」中のインタビュー“JUMP INSIDE OF JUMPING”より引用) 手塚治虫の実験アニメーション・『ジャンピング』は小林さんの作画を堪能できる作品です。

――小林さんが手塚プロダクションに入られたキッカケはなんでしたか?

小林: 僕は高校を卒業してすぐに、虫プロダクションに入りました。初めてアニメ長編を手がけたのが、『千夜一夜物語』でしたから、あの作品には思い入れがあります。手塚先生のアニメーションで好きなのは、『ある街角の物語』や『展覧会の絵』みたいな作品です。
 絵を専門にしたい、とは思っていましたから、高校卒業後は武蔵野美術大学を受けようかな、と思っていましたが、その年の11月に手塚先生と出会って、アニメを仕事にするのなら、必ずしも大学を出ている必要はない、とおっしゃっていただいたので、すぐに受験勉強はやめちゃいました。

――手塚先生とはどういう御縁で出会ったんですか?

小林: 僕の高校のOBに、杉浦幸雄さんという大漫画家がいまして、その方の紹介で。マンガ好きの連中の有志で、文化祭でマンガ展をやることになって、僕達が描いた先生の似顔絵なんかもいいけど、プロの作品も展示したいね、ということになって。プロってこんなにすごいんだよ、というのを是非展示したくて。でも、つてが無いわけですよね。そうしたらOBに杉浦さんがいる、ということで連絡先を教わったんです。そうしたらきちんとした紹介状を書いてくださって。それを見せたら、もう一発で原稿をお借りできましたね。手塚先生が貸してくれた、といったら、藤子不二雄先生や赤塚不二夫先生も貸してくださって。今では考えられないことですよね。見も知らぬ高校生に(笑)。
 お陰様で、展示部門で僕らの展示は、金賞をいただきました。
 その時借りた原稿を返しに行く際に、僕の原稿を手塚先生に見てもらって。「これは全部、あなた一人で描いたのか?」っておっしゃるから、はい、と。マンガとアニメを持っていったんですよね。手塚先生にはアニメだけ見てもらって、「じゃあ、君はぜひ来年、虫プロを受けて下さい」と言われたから、「これぐらいの絵で僕、受かるでしょうか?」と聞いてみたら、急にべらんめえ口調になって、「そんなん、俺にはわからねえよ」っておっしゃるんです。びっくりしちゃいましたね。だって、あの学者風の先生が、突然べらんめえ調ですからね。だからよく覚えています(笑)。


●今後の予定

――マンガの作品が立て続けに出ましたが、今後はアニメの仕事以外にもなにかご予定はありますか?

小林: 今は、アニメーションでの動物の描き方の解説本を自分で企画しています。なかなか持ち込みから出版してもらうのも難しいのですが、自分で動いていかないとね。今回の本や、前回の『昆虫つれづれ草』も初めは断られたんだけど、幸いにも手を上げてくれる出版社が見つかってよかったです。近い未来には、この『どくとるマンボウ』シリーズの残りの二編、『どくとるマンボウ航海記』『どくとるマンボウ青春記』のマンガ化を実現したいですね。そのためには『昆虫記』が売れないと駄目ですから。皆さんよろしくお願いします!

――ぜひたくさんの人に読んでいただきたいですね! お忙しい中、ありがとうございました!


■小林準治レコメンド

 小林準治より、オススメの手塚作品をご紹介します!
『グリンゴ』

 手塚先生の絶筆作品です。これからおもしろくなる所で終わっていて、本当に続きが気になりますね。

『火の鳥』

 手塚先生のライフワーク。これは外せません。

『空気の底』

 超有名作品もいいと思うけど、僕はこういう短編も好きです。


『火の山』
(手塚治虫文庫全集『MW(ムウ)』2 所収)


 ノンフィクション風の作品の中でも特に好きですね。こういう、いぶし銀の作品はもっと読まれて欲しいです。

『やまなし』
(手塚治虫文庫全集『ボンバ!』所収)


 宮沢賢治の「やまなし」を16ページ・2段に分け、「原作風」「太平洋戦争風」の2話に分けた実験作。すごい才能です。









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