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虫ん坊 2013年9月号 特集1:ついにドラマ化! 「神様のベレー帽 〜手塚治虫のブラック・ジャック創作秘話〜」企画・豊福陽子さんインタビュー!

『ブラック・ジャック』が連載されていた頃の手塚治虫とその周辺のドタバタを中心に、手塚治虫の様々な「超人的」エピソードをまとめたノンフィクションマンガ『ブラック・ジャック創作秘話』(漫画:吉本浩二 原作:宮崎克)。この作品を原作としたテレビドラマが9月24日(火)夜9:00〜10:48、関西テレビ・フジテレビ系列での放送が決定しました!
 主演・手塚治虫役に草なぎ剛さん、狂言回し的なキャラクターでもあり、ヒロインとなる小田町咲良役に大島優子さん(AKB48)、『少年チャンピオン』の編集長・壁村役に佐藤浩市さんというキャスティングも話題を呼んでいる本作品について、見どころなどを、企画をご担当された関西テレビ・豊福陽子さんに伺いました。


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●ドラマのみどころ

――『手塚治虫のブラック・ジャック創作秘話』という漫画は、以前この『虫ん坊』でも紹介したのですが、漫画としては1話完結でいろいろなエピソードが紹介されている、という感じでした。2時間ドラマという形にまとめるにあたって、どのような工夫をされましたか?

豊福陽子さん(以下、豊福): 一番原作と大きく違う要素として、現代の若い女性編集者が、当時の世界にタイムスリップしてくる、というファンタジックな要素を付け加えています。
 このドラマを、手塚ファンや、手塚治虫で育った世代以外の、手塚治虫をあまり知らない若い人にも見ていただきたいと思い、そのためには、今の若い人が感情移入できるような仕掛けが必要だと思ったんです。ある程度より上の世代であれば、手塚治虫さんはとても大きな存在で、その人となりについてもそもそも興味がありそうだし、作品についても知っていて当然、という気がするのですが、手塚さんが亡くなった後に産まれた世代の方々にとっては、名前や作品のタイトルは知っていても、例えば夏目漱石みたいな明治の文豪と同じで、なんだか偉い人で、とっつきにくい、と思う方もいるんじゃないか、と。そういう人にもすっと入っていってもらえるような視点が欲しかったんです。

――狂言回しをヒロインにしたのはなぜですか?

豊福: 今は、特に若い世代は、女の子のほうが仕事でもプライベートでも、自分では「ちゃんとやってる!」という意識が強いんじゃないかな、と思っていて。言いたいことも結構はっきり、言えてしまったり。
 昭和40〜50年代の男性ばかりの社会に、そういう異物が紛れ込む、という対比も、両世代に共感してもらいながら、面白く見ていただけるのではと思いました。彼女の目を通すことで、このドラマが一番訴えたいメッセージもより伝わりやすくなったと思います。
 物語のメインの舞台は、昭和40年代から50年代です。今から考えると何十年も前の話で、随分昔だな、自分とは無関係だな、と思われてしまうともったいないですよね。
 このドラマに込められたメッセージは、今の時代にも通じる、普遍性のあるものだと思っています。見た方が、次の日からちょっとだけ「私も頑張るぞ!」と思えるようなものになっていれば嬉しいです。それから、手塚治虫という人が、単なる天才や雲の上の存在じゃなくて、ちょっとお茶目で面白いところもあって、実はとても身近な存在なんだな、と興味を持ってもらえると、もっと嬉しいですね。
 手塚さんには確かに、ものすごい才能があったとは思うのですが、手塚さんのように、何かを成し遂げるために、一つのことに没頭し、ギリギリまで頑張ってみるということは、実は私達にもできることなのかも知れません。そう思って、何かを頑張るエネルギーをお届けできればと思っています。


●キャスティングについて

――今回のドラマでは、キャスティングも面白いですね。草なぎ剛さんを手塚治虫に、というのは少し意外なような気もしました。

豊福: 実は、初めに思い浮かんだのが草なぎさんだったんです。お顔の印象は確かに違いますが、手塚治虫の凄さの秘密である、好きなことのために時間や体力的な限界を忘れてしまうような、ずっとテンションを高く保ったまま、良い脳波を出し続けているような感じが、すごく草なぎさんと重なって思えたところがありました。どんなに傍目でしんどそうなことでも、「ああ、しんどい」というところを見せないし、本当にそう感じていなさそうな、すごい集中力ですよね。好きなことのために没頭できる方、という。
 お芝居上でも、例えばバラエティ番組などでも、草なぎさんって飄々としていて周囲に穏やかな印象を振りまきながらも、集中するときはすっ、と、さほど時間も掛けずに集中できるような、超人的な佇まいを感じられて。私の中の手塚さんとイメージが重なるんです。
 草なぎさんにお声がけをしてみたところ、ご快諾いただけまして。『ブラック・ジャック』の漫画もよくご存知で、衣装合わせでお会いした時には、手塚治虫を演じるにあたってプレッシャーや難しさも感じていらっしゃる、とのことだったのですが、めがねとベレー帽を身にまとって、出てこられた時には全然違和感がなくて。
 先日は、24時間テレビ向けのアニメーションを作った時のエピソードで、締め切りを顧みず「リテイク」の嵐……というシーンを取りましたが、草なぎさんの演技をモニターで見ていて「あれ? これって手塚治虫の資料映像なのかな?!」と錯覚してしまったんですよね! 本当に、役に没頭される役者さんなんですよね。スタッフの中では誰よりも手塚ファンを自負する私が見間違えた! というので、絶対面白い作品になる! という手応えを感じました。
 草なぎさんも、姿形を似せていくというよりも、例えばどんなに原稿を待たされた苛ついている編集者でも、「あの笑顔を向けられると、許せちゃうんだよね」と証言していた、手塚さんのとっておきの笑顔って、どんな感じだろう、とか、手塚治虫という人物の核になっている部分を表現したい、とおっしゃっていました。私の持っているイメージと、草なぎさんの演じられている手塚治虫はかなり重なっています。
 皆さんの心の中にも、私の持っているイメージとはまた別の、手塚治虫像があると思いますので、御覧頂いた皆さんがどんなふうに思われるのかはまだ分かりませんが、楽しみにして頂ければと思います。

――ヒロイン役の大島優子さんはいかがですか?

豊福: 大島さんも、現代っ子の若い女性から、だんだん成長していく姿をとてもナチュラルな感じで演じてくださいました。昭和の男性たちとの、価値観の違いから来る衝突なんかも、とても自然に演じてくださっています。時代が違うからどっちが正しい、とはいえないんだけれども、なんかやっぱり、お互いにしっくり行かないんですよね、両世代のぶつかり合いって。そういう場面は、ドラマの視聴者として傍から見ているぶんには、なんとも言えない可笑しみになっていて、ある種不思議な魅力が出ているなと思います。

――編集者側といえば、秋田書店の名物編集者・壁村耐三さんは佐藤浩市さんが演じられるんですよね。

豊福: 手塚治虫を影で支えた、という壁村さんですが、マンガの中でもとてもキャラクターの濃い方ですよね! 佐藤さんともご相談して、壁村さんについては実在の人物にいかに似せていくか、ということではなく、ドラマにとって面白く意味のあるキャラクターとして作っていこう、という方針になりました。ちょっと言動が乱暴だけど、影では誰よりも手塚治虫を信頼している……という、印象的なキャラクターを、とても魅力的に演じて下さっています。
 手塚治虫さんも、壁村さんを信頼されていたんだと思うんですよね。決してベタつかない、男同士の友情というか、二人の信頼関係も見どころの一つです。


●スタッフについて

――演出は三宅喜重さんですが、このお話に向き合うにあたって、どんなことをおっしゃっていましたか?

豊福: 原作を初めて読んでもらった時、監督の三宅も「面白い作品だ」と言ってくれました。ただ、「エピソードの羅列にはならないようにしよう」と。一本ストーリーの筋が入った形にしないと、手塚治虫に興味を持っていない人が入ってこられないんじゃないか、ということで。
 私のような手塚治虫好きにとっては、あの作品に描かれているエピソードの一つ一つがそれだけで面白いのでどんどん読んでいけますが、そうじゃない人にも面白いドラマとして見てもらいたいですよね。ヒロイン・小田町咲良の成長物語を描くことで、ドラマとしてのストーリーもより楽しめるものにしよう、ということになりました。
 そのうえでどんなお話の運びにすればいいのか、どこに盛り上がりを持ってこようか、などを、監督を中心に脚本の古家和尚さんやプロデューサーと話し合いながら詰めていきました。

――ドラマの世界観を構築するために、どのような取材をされたのでしょうか?

豊福: 本では、手塚治虫のチーフアシスタントを長く勤められた、福元一義さんの『手塚先生、締め切り過ぎてます!』とか、手塚番を勤めた編集者13人のによる『神様の伴走者』あたりを読みました。それから、手塚さんの名言を集めた、『手塚治虫 未来へのことば』、『ぼくのマンガ人生』という本は、手塚治虫の人物像の参考にしました。『未来へのことば』は、私もずっと座右の銘にしています。
 また、監督の三宅は秋田書店の方や、手塚プロダクションの方にお会いしてお話を聞き、お話の内容や、皆さんがどんな表情で手塚治虫について語るのか、といったところから人物像を作り上げていったそうです。
 原作にも、手塚治虫と関わった人々は、みんなどんなに辛い思い出でもニコニコ笑って語られる、と描いてありましたが、まさにそうで。三宅も「みなさん、愛があるなあ」と言っていましたね。



●企画のきっかけ

――ところで、『ブラック・ジャック創作秘話』をドラマ化しよう、と考えられたきっかけは何でしたか?

豊福: 直接のきっかけはもちろん、原作を読ませていただいたことなのですが、先程も申し上げたように、私自身が手塚治虫ファンだったんですよね。
 特に『ブラック・ジャック』がとっても好きでして、子供の頃、従姉のうちに全巻が揃っていて、遊びに行く時は読ませてもらうのを楽しみにしていたんです。その従姉は医者になりましたが、ひょっとしたら『ブラック・ジャック』に影響されたのかも知れません。
 私の方はその後もずっと『ブラック・ジャック』を好きで居続けていて、高校時代にひょんなことから、自分の通っている高校が、手塚治虫さんの出身校だということがわかったんです! さらには、文化祭に手塚さんが講演に来てくださるかもしれない、という話も出ていて、「もしかしたら手塚治虫に会えるかも!」とわくわくしていたのですが、当時ご病気もあってか、そのお話は無くなってしまって。ご縁がないのかなぁ、と残念でしたね。
 でも、関西テレビという、関西に根ざしたテレビ局に入社したことで、いつか手塚治虫さんにまつわる番組ができるんじゃないかな、という望みが出てきて。10年ぐらい前から、番組の企画書を出してみようかな、という私自身の余裕も出てきまして、手塚治虫さんについての新聞の切り抜きを集めたりしていたんですけれども、それでもなかなか、具体的な道筋が見つけられなくて。私にとっては、手塚治虫さんや『ブラック・ジャック』って、存在が大きすぎて、どういう番組を作りたいのか、自分にもはっきりしていなかったんですよね。
 ドキュメンタリーでもいいし、解説番組のような手もあります。手塚治虫自身をモデルにしたドラマも幾つかすでに名作がありました。作品自体のドラマ化もありですよね。そういう膨大な選択肢の中で迷っていたところに、『ブラック・ジャック創作秘話』に出会うことが出来て、これだ、と思ったんです。ここに描かれている手塚治虫さんには、無尽蔵に溢れ出る才能や、好きな事に対する集中力、ものづくりに取り組む際の、どんなに辛くでも楽しく取り組めるエネルギーの大きさが感じられたんですよね。こういうふうに取り組んでいたからこそ、『ブラック・ジャック』はあんなに面白いんだ、と改めて気付かされました。

――たとえば『ブラック・ジャック』をドラマ化する、という方法もありましたが……

豊福: 確かにその手はありますし、『B・J』にかぎらずこの先ご提案するかも知れないのですが……、でも『ブラック・ジャック』について言えば、読者一人ひとりに理想のブラック・ジャック像があると思うので、どんなにピッタリのキャストの方でも、誰かは違和感を持たれるでしょうし、……なにより私自身、今のところ「この人にB・Jをやってほしい!」という方が分からなくて……。
 ブラック・ジャックの人となりというか、ミステリアスで、色気があって、複雑な過去を背負っていて……というようなキャラクターをピタリと演じられる人って難しいですよね。


――でも、なぜ今、手塚治虫なんでしょうか?

豊福: 一つは、今年が『ブラック・ジャック』連載40周年だから、というところです! 関西テレビが開局55周年で、一緒に切りの良い年を祝える、というところが個人的にはとっても気に入っています。
 あと一つは、最初にこのドラマの企画書を作った時からの思いなのですが、東日本大震災のことがずっと意識にありました。あの災害で沢山の方が傷つきましたし、色んなものが壊れたり流されたりしました。すごい喪失感の中で、自分たちにできることはなんだろう、とずっと考えていて。大したことは出来ないのですが、ものを考えたり、想像したりするイマジネーションって、実は何の道具もなくてもできるんじゃないかな、と思ったのです。
 手塚さんが生涯を捧げて取り組んだ漫画って、それを紙とペンで表すものですよね。想像してあんなにたくさんの物語を語ることができる。そういう能力を私達人間はみんな持っている、ということを思い出せば、困難な局面に向き合う際に、希望が湧いてくるんじゃないかな、と。この能力って、それこそ人間だけが持っているものなんじゃないかな、と思うんです。
 こんなちからを私達自身が持っている、ということを忘れない限り、どんなに辛くてもちょっとだけ、明るい気持ちになれるんじゃないかな、という気がしたんですよね。
 それを直接、テーマとして打ち出そう、という気持ちはないですが、自分なりの「いま、やる意味」というところには、少しそんなことも入っています。


●ご覧になるみなさんへ

――それでは、最後に楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

豊福: みなさんも筋金入りの手塚ファンだと思いますので、みなさんなりの手塚治虫像があると思いますが、今回の手塚さんは、私の持っているイメージ、ものづくりに超人的に没頭する姿や、ちょっとコミカルなところもある、飄々とした佇まいなどは表現出来ているんじゃないかな、と思っています。これはこれで一つの「手塚治虫像」としてご覧いただければ嬉しいです。
 手塚ファンの方々に、ちょっと自分のイメージとは違うけど、こんな手塚治虫も好きだな、いいな、と思っていただければ、それほど嬉しいことはないですね!

――お忙しい中、ありがとうございました!





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