虫ん坊

第27回手塚治虫文化賞 贈呈式レポート

2023/06/30

68日、浜離宮朝日ホールにて、第27回手塚治虫文化賞贈呈式が行われました。

受賞作品・作家は以下の通り。

 マンガ大賞 『ゆりあ先生の赤い糸』(講談社) 入江喜和 さん

 新生賞 『断腸亭にちじょう』(小学館) ガンプ さん

 短編賞 やまじえびね さん 『女の子がいる場所は』(KADOKAWA)

 特別賞 楳図かずお さん ホラー、SF、ギャグと幅広い分野でのマンガ文化への貢献と、27年ぶりに発表した新作に対して

 受賞された皆様、おめでとうございます。

 贈呈式は抽選で選ばれた一般の方200名、関係者、招待者が観覧しました。

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贈呈式の開催を知らせるポスター。朝日新聞東京本社エントランス付近。

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コンコースには近年の受賞作品のパネルが展示されています。最新第27回の作品のパネルも。

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今年連載50周年となるブラック・ジャックと...

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アトムがお出迎えします。

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主催者あいさつを述べる中村史郎氏 朝日新聞社 代表取締役社長。

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松谷孝征(手塚プロダクション 代表取締役社長)。

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手塚眞はビデオレターでの祝辞を述べました。

●選評 トミヤマユキコさんより

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「選考会の当日は、マンガ大賞の審議からスタートしました。こちらは、選考委員、一般読者の皆様および、マンガ関係者の皆様より推薦されました一次選考作品のうち、とくに支持をあつめた上位作品が最終候補作品になるという仕組みになっております。今回は、遠藤達哉さん『SPY×FAMILY』(集英社)、タイザン5さん『タコピーの原罪』(集英社)、『女の子がいる場所は』、惣領冬実さん『チェーザレ 破壊の創造者』(講談社)、『ゆりあ先生の赤い糸』、たらちねジョンさん『海が走るエンドロール』(秋田書店)、真造圭伍さん『ひらやすみ』(小学館)、松本大洋さん『東京ヒゴロ』(小学館)以上の8作品が候補となりました。

 選考会では、各選考委員がまずイチオシ作品について発表して、その後議論を深めつつ、受賞作品を決めてまいります。今回大賞の審査では、エンターテイメントとしての水準の高さが評価された『SPY×FAMILY』が序盤強い存在感を示していました。しかし同時に、『ゆりあ先生の赤い糸』『女の子がいる場所は』を推す声も聞かれました。

 議論が深まる中で、『女の子がいる場所は』は、短編賞の受賞作として議論をするのがよりふさわしいだろう、ということになりまして、『SPY×FAMILY』と『ゆりあ先生の赤い糸』についてさらに議論をいたしました。

 2作の評価は現場で拮抗していたのですが、例えば、南信長委員の「高齢化社会を反映して、マンガの主人公の年齢がどんどん上がってきている中で、見落とされているのは中高年女性なのではないか」といったお言葉や、秋本治委員の「可愛い作品かと思ったらとんでもない、主人公に豪快さがあり、生きがよく、感心する」というお言葉には我々皆納得し、『ゆりあ先生の赤い糸』に大賞を、ということになりました。女の生きざまに胸を熱くしつつ、今の社会で起こっているさまざまな問題についても考えられる非常に稀有な作品だと私も思います。

 続いて、新生賞の審査に移りました。候補となったのは岡田索雲さん『ようきなやつら』(双葉社)、小日向 まるこさん『あかり』(ヒーローズ)、冬野梅子さん『まじめな会社員』(講談社)、高松美咲さん『スキップとローファー』(講談社)、『断腸亭にちじょう』の5作品でした。『スキップとローファー』『断腸亭にちじょう』が議論の中心となっておりました。こちらもまったく違うタイプの作品で、それぞれ支持者があり、たとえば矢部太郎委員「闘病記を書くにあたり、作者が対象と距離を取って描いており、表現面での実験がある」、里中満智子委員「闘病記はすでにたくさんあるが、マンガとして描くからには、それが独立してドラマになっていなければならない。この作品は楽しく読ませる工夫に満ちている」といった評があったことからも分かるように、作者自身を襲った病をマンガというフォーマットに落とし込む際の高い技能が評価され、受賞が決定いたしました。

 最後に、短編賞の審査につきまして、『女の子がいる場所は』、『ようきなやつら』、『あかり』、眞藤雅興さん『ルリドラゴン』(集英社)、山科けいすけさん『C級さらりーまん講座・改』(小学館)の5作品について議論が行われました。

 マンガ大賞や新生賞の候補作としても名前が挙がった『女の子がいる場所は』『ようきなやつら』『あかり』の3作品を推す声が多く聞かれましたが、常に話題の中心にあったのは『女の子がいる場所は』だったように思います。議論の中では、高橋みなみ委員「世界における女の子の立場というものを読みながら、私自身もなるほど、こういうふうに違うんだ、と気づくきっかけになったし、読者それぞれが何か考えるきっかけになるんじゃないかと思う」中条省平委員「何か正しいものを押し付けるために、自分の正義を声高に言う、というところがないところが、この作品の美点なのではないか」といった発言がありました。

 世界の女の子の生活や人生をフラットな感覚で知ることができる点や、読了後に読者同士議論ができる可能性の幅が高く評価されました。なお、選考の中で、異文化の事を日本の作家がどこまで描くことができるのかをめぐっては、作者が様々な文献を読み込んだうえで作品にしているという事実を確認したことを言い添えておきます。

 今回の選考会は例年にも増して個性豊かな作品が出そろいました。予定調和ではない、いい意味での波乱があり、受賞作が決まった後も選考委員の皆がその場を離れず、ずっとマンガの話をしつづけていたのが印象的でした」

受賞された方々のスピーチをご紹介します。

●マンガ大賞 『ゆりあ先生の赤い糸』 入江 喜和さん

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「何にも話すことを決めずに、今ここにいます。話を描くときも何もテーマなどを決めないで、終りもあまり考えないで描いているんですけど、今日、いろいろな評を聴いて、『あ、そういう話なんだ』と。中高年のシモのことしか書いていないのに、こんなに栄えある賞をいただいていいのかというのが、来るまでちょっと不安だったんですけれども、ようやく、『いいんだな』と思えるようになりました。これを描いていたころ――去年連載が終わったのですが、――私の90代の母の認知症がかなり進行してしまい、家族も皆大変だったのですが、最終巻を描いている時に、もう家ではめんどう見られないから、と、老人ホームに入ってもらうことになりまして、自分でもどうしていったらいいのか、という感じだったので、『めっちゃ元気になるようなマンガにしてやる!』と、気合が入りまして。この作品の主人公に助けられた一年だったな、と思い返しています。皆様の応援も大変、身に沁みておりました。ありがとうございます。

 この作品が、めでたくドラマ化されることになりました。ドラマのほうも、見た方が元気になるようなものになればと思っております。

 今日は本当にどうもありがとうございました」

●新生賞 『断腸亭にちじょう』 ガンプ さん

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「このたびは、大変な賞をいただきまして、過分な評価までいただきまして、正直、悪い気はしないなというか(笑)。うれしいです。ありがとうございます。
 僕のマンガを読んでもらえればわかると思いますが、大腸がんになって、肝臓にも転移しており、ステージ4なのですが、連載当初は僕の体調を心配してくれるような声がSNSなどにいろいろあったのですが、今のところ、手術や放射線治療がすごくうまくいって、術後3年半たって、健康に問題なくマンガを描くことができているという状態です。
 初めに病気が分かったときは、マンガを描くということは二度とない、と思っていたんです。『もう、どうでもいいや』という感じで、投げやりな気分でやっていたのですが、いまもまあ、なげやりといえばなげやりなのですが(笑)、なんか、うまい具合に行って、いまマンガを描けている。僕ももちろんがんばったんですけど、いろんな人の助けがあって。元気で生きていると、なかなかそういうものを実感できないのかなあと思います。
 病気になったとき、離れていく人もいたんですけど、寄ってきてくれて、サポートしてくれる人がいて、――具体的に言うと、そこに担当編集者の方がいらっしゃるんですが、発病当時は一緒に仕事していなかったんですけど、妻のサポートもあったりして、マンガが描けるというか、いま、描いている。
 ステージ4なので、いつ再発するか分からないというのがあって、あまり先のことを僕自身も考えずにやっているんですね。とりあえず、次のネームができて、次の作画ができて、次の原稿があがったらいいや、っていう、目の前のことに集中してやっているので、あまり先のことは考えてないんですけれども、今日、こういった賞をもらって、――さきほど、里中さんに『エネルギー』みたいなものをもらったんですけど(笑)、こうして今ここにあって、このことをマンガに描きたいな、と。いま、受賞をした、この場所、この感じを......。そうすると、まあ、いい感じになるんじゃないかな、と思うので、それまでは元気でいて、仕事も続けられたらいいなとは思っています。今日はありがとうございました」

●短編賞 やまじえびね さん 『女の子がいる場所は』

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「とても緊張しておりますが、ここに至るまでを簡単にお話します。
 38年前に私はデビューしました。高校に入って、高野文子先生の作品に出会い、影響されて8ページほどのマンガを描いてみました。そのマンガの出来がいいのか悪いのかを知りたくて、雑誌に投稿したら分かるかも、と思い原稿を送ってみました。するとある晩、電話がかかってきて、『担当がつきますからマンガの勉強をしませんか?』というお話でしたが、マンガ家になりたいと思ったことはありませんでした。でも、断る理由が見つからなくて、『やってみます』と言ってしまいました。そして、大学一年の冬、デビューしました。
 マンガ家になるということはどういうことか、全然わかりませんでしたが、描きたいことが湧いてくるのでそれをただただ描き続けてきました。ところが、近年、描きたいことが出てこなくなりました。探してみるのですが、どのアイディアもワクワクしない。どうしたものか、私のマンガ家人生もそろそろ仕舞いかな、と考えるようになりました。でもふと、思いつきました。描きたいことはないけれど、描けることがあるならマンガを描くことはできるんじゃないか。そこで、私が描けそうなことを担当さんに探してもらうことにしました。このことは本のあとがきにも書きましたが、探してもらったお題をもとに、マンガに取り組みました。担当の青木さんに本当に感謝しています。描きたいことがなくなったら、もうだめなのか。いや、そんなことはないのだ、とわかりました。『女の子がいる場所は』はそんなふうに出来上がりました。
 本が出てからの反響の大きさが予想を超えていてびっくりしました。そして、今このような高いところからスピーチなどしています。本当に思いもよらない驚きの結果がでました。
 最後に短編賞に選んでくださった審査員の皆様に、心よりお礼を申し上げます。このような素晴らしい賞をいただき、本当に励まされました。
 これからも私に描けることがあるならば、描いていこうと思います。ありがとうございました」

●特別賞 楳図かずお さん

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「先ほど、眞さんの挨拶の中で、手塚治虫と全然別なルートをたどった作家である、と言っていただいたのですが、まあ、その通りなのですけれど、僕も最初は、手塚治虫の『新宝島』というところから入りまして、小学校4年生から5年生ぐらいまで、夢中で手塚治虫のマンガを読みました。本当に、憑りつかれたという感じでね、『魔法屋敷』とか、『ロストワールド』とか、『火星博士』とか、いろいろあったんですよ。夢中で集めました。
 ある時、同級生が『マンガ貸して』といってきて、僕は心の中で『貸すのやばいなぁ...』と思ったんですけど、小学校の頃は、そういった邪心のようなものは全く心の中になかったものですから、人に言われたことはそのまま素直に受けて、貸してしまったんですよ。『返して』って言ったら、『借りた覚えはない』なんていうんです。ひどいでしょ。そこから、手塚先生はもうやめよう、と思いまして(笑)、今に至ってるんですよ。そういうわけで、(手塚治虫と)関係ない、ということはありません。
 手塚治虫文化賞、これからもますますご発展されることを願っております。そしてまた、こういう企画を立ててくださいました朝日新聞社の方に、本当にお礼を申し上げたいと思います。
 それから最後に、会場の皆さん、こんなふうに盛り上げてくださいまして、一番、ありがとうを言いたいと思います。こういう時に何をするか、と言ったらやはりグラスワインで乾杯! とやりたいんですけれども(笑)、手塚治虫さんって、お酒はどうだったんでしょうか。
 『ジャングル魔境』という作品の中で、ジョンという男の子に、ハム・エッグってのがね、『これ、甘い葡萄酒ですよ』とか言って、ウイスキーを飲ませちゃうんですよ。どっちだってお酒でしょ? 手塚治虫って、何を食べて、何飲んでいたのか分からないけれど、『ハム・エッグ』なんていうからにはサンドイッチとかホットドックとか、そういうのが好きだったのかなあ、お酒はウイスキーが好きだったのかな、とか、思うんですけどね。わかりません。手塚先生もよかったら、一緒にグラスワインで乾杯していただきたいです」


 贈呈式後の第二部では、今回選考委員を務め、今回の特別賞・楳図かずおさんと、第22回手塚治虫文化賞(2018年)短編賞受賞者でもある矢部太郎さんによるトークショーが開催されました。

「常に自分が今までやってきたことの180度違うことをやってきた」という楳図先生。最新作では美術館で『新作マンガ』を絵画の連作で発表されました。

 今後のご予定は? という矢部さんの質問には、「これから運命的な大波がきっと来ると思っています。この段階が大波とはまだ思っていなくて、大波を心待ちにしています」と答えられ、ますますのご活躍を予感させました!

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 矢部さんは楳図かずお先生の大ファン。トークショー前段では、これまでの楳図作品を改めて振り返ります。

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  楳図先生はもちろん、矢部さん、進行の黒田健朗さん(朝日新聞社文化部記者)も楳図先生のトレードマーク・赤のボーダーで統一! 楳図先生曰く、「分子の水玉が『運動』している様子」を表しているのだそうです。

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 トークショー後、お三方による「グワシ!」ポーズ。ここでは写真撮影OKでしたので、SNSなどでも一般観覧者による写真投稿がみられるかも

朝日新聞社 手塚治虫文化賞のページはこちら

https://www.asahi.com/corporate/award/tezuka/14889135


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