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虫ん坊 2018年7月号 特集2:第22回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

虫ん坊 2018年7月号 特集2:第22回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!


 2018年6月7日、第22回手塚治虫文化賞の贈呈式が行われました。
 毎年恒例、もはや風物詩となった贈呈式&記念イベントのレポートですが、今回は虫ん坊スタッフの取材コメントを添えてお届けします!




虫ん坊スタッフ


O山 :好きなアイヌ語は、「チタタ
チタタ ……肉や魚のたたきのこと。『ゴールデンカムイ』に時折登場する調理法で、狩った動物をたたきにし、肉団子を作ったりする。直訳すると「我々で・(たくさん)刻む・もの」。


カニミソ : 好きなアイヌ語は、「ヒンナヒンナ」
ヒンナ……「食事に感謝する言葉」。ごはんを食べたら言ってみましょう。
※大切なことなので2度言いました。



贈呈式


虫ん坊 2018年7月号 特集2:第22回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

主催者ごあいさつ

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朝日新聞社社長 渡辺雅隆 さん


催者である朝日新聞社社長 渡辺雅隆さんのご挨拶からスタート。今回の受賞者、受賞作品の紹介がありました。



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来賓祝辞

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手塚プロダクション代表取締役 松谷孝征


毎年、手塚眞が登壇する来賓祝辞ですが、今年は手塚プロダクション代表取締役、松谷孝征がかわってご挨拶。


受賞された先生方へ向けて、作品の感想、そして激励の言葉、最後に毎年手塚治虫文化賞を開催している朝日新聞の皆さんへ感謝を述べました。社長、火の鳥ネクタイがキマってます!


社長は『ゴールデンカムイ』を読んで、『どろろ』と『ブラック・ジャック』を思い出したそう。たしかに、どれも大人の男と小さな女の子のペアですね!!



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選考通過報告


続いて、選考委員の里中満智子さんより選考通過報告がありました。今年の受賞作品は、どこが評価されたのでしょうか。


毎年白熱しているというウワサの選考会ですが、今年は一体……!?

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選考委員 里中満智子さん


「最終選考に残ったのは力作ばかりで、選考委員も熱心に議論しましたが、今年は例年になくすんなりと決まったと思います。
『ゴールデンカムイ』は濃密な作品ですがヘタをすると下品になってしまうようなギャグも盛り込まれています。しかし決してそうならないのは、作者の志が高くあるからだと思います。作品の値打ちを決めるのは、ジャンル、テーマがどうのではなく、作者の熱意、そして志です。 『ゴールデンカムイ』は毎年推薦しておりましたが、ようやく今年、マンガ大賞に決まりました。

『BEASTARS』は、動物たちが人間社会を表しているからこそ、現実では嘘になってしまうような「食べる側か食べられる側か」という切羽詰まった設定がリアルに迫ってきます。ただ擬人化したから新しいということではなく、やはりドラマを練り上げる力、登場人物に対する作者の思いやりや愛、そういうものが作品の功を成しているのではないでしょうか。

そして、『大家さんと僕』。もう、本当に素晴らしいです。申し訳ないですが、最初はちょっと器用な芸人さんがお描きになったのかなと思っていました。読み進めていくうちに、この方どうして、芸人やっていらっしゃるのかな、最初から、漫画業界にいらしたらよかったのにと思ってしまいました。本当に脱帽です。 エッセイ漫画というのは、体験したこと、感じたことをどう漫画で伝えるか、この伝え方でエッセイ漫画の魅力が変わってきます。矢部さんは、とても才能があり、なおかつ実力があります。このタイトルは『大家さんと僕』ですが、やがて、大家さんではなく、 大家たいかになられることを願っております。 ぜひ、マンガ界にも軸足を伸ばして、これからもずっと、漫画をお描きになってください。

特別賞の『ひねもすのたり日記』ですが、本当によく18年ぶりに描いてくださいました。
水木先生は、93歳までお描きになり、やなせたかし先生は94歳までお描きになりました。ですから、ちばさんは、105歳まで描き続けてください。期待しております。

手塚治虫文化賞は、手塚治虫という大きな存在が文化を築いたから、「漫画賞」ではなく「文化賞」なのだと私は思っています。 今回、惜しくも選考を逃れた多くの素晴らしい作品が、みんな一緒になり文化を支えている。それを後押ししてくれるのは、読者のみなさんであり、出版社であり、メディアのみなさんです。これからも、より素晴らしい作品を増やすために、皆さんと頑張りたいと思います。 受賞されたみなさん、本当におめでとうございます」


当日は、風邪気味の声をふりしぼりながら、ユーモアを交えて作品の魅力を評した里中さん。今年は、すんなり決まったというのもうなずけますね。


大家たいかのくだりでは、会場がどよめき、拍手が起こる一面も。喉、お大事にしてください!!


そしていよいよ、賞の贈呈へ!
漫画家さんの生の声が聴ける、大変貴重~~な時間でもあります。



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賞の贈呈

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マンガ大賞 野田サトル さん


「『ゴールデンカムイ』は今年4月からアニメが放送中で、非常に良いタイミングでこの賞をいただけたなと思っていたのですけれども、受賞の当日、芸能界のほうで大きなニュースが報道されまして、それで他のニュースが全部吹き飛んでしまったのか親からも友人からも一切連絡が来ませんでした。タイミングが良いんだか悪いんだか……ありがとうございました」


いやいや、漫画界のニュースは、「マンガ大賞は『ゴールデンカムイ』」で持ちきりでしたよ!!


賞コメントも面白……ウィットに富んでいましたよね!! 満を持しての受賞、本当におめでとうございます!

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ロビーでは、受賞作にまつわる展示がされていました。『ゴールデンカムイ』は現在14巻まで発売中!!

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野田サトルさん私物(!)の「ストゥ」。アイヌでは制裁棒といわれるもので、罪を犯したものに罰を与えるための棒なんだとか。実物を見たのは初めてです!


博士! レオ! そんなに興味深そうに見てないではやく逃げて!! 


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新生賞 板垣巴留ぱるさん


「今日はありがとうございます。漫画関係者の錚々たる方々がお集まりになっていて、改めてすごく大きな賞なんだと痛感しております。自分で言うのもなんですが、まだ若いので、これからも全力で漫画を描き続けていけたらなと思います」


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板垣巴留さんは、『BEASTARS』に登場するメンドリのレゴムに扮して登壇されました。板垣さんが登場すると、客席からはどよめきが……。


被り物の完成度も高くインパクト大!! くちばしがマイクに当たって、話しづらそうでした。


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短編賞 矢部太郎さん


「この度は、手塚治虫先生というマンガの神様のお名前が付いた賞をいただき大変光栄です。手塚先生はどんなに売れっ子になられても、若い漫画家さんに嫉妬するというお話を聞きました。僕も、ほんの少しでも嫉妬していただけたら嬉しいです。
 僕は今40歳で、38歳で漫画を描きはじめました。こんな歳で漫画家になるなんて、普通はみんな全力で止めると思うのですが、僕の場合、作品にしたほうがいいよと背中を押してくれた方々がいました。漫画家の倉科遼先生は、自費出版をしてでも形にしたほうがいいよ、と言ってくださり、相方の入江くんも勧めてくれたおかげで、新しいことに挑戦できました。
 でも、一番は、大家さんが「矢部さんはいいわねえ、お若くて、なんでもできて、これからも楽しみねえ」と言ってくださったことが大きいんです。それを聞くと、本当に若くなって、なんでもできるような気がしてきて、僕は38歳だけど、18歳だと思うようにしていました。何を言ってるんだと思われるでしょうが、自分を10代だと思い込むと、大概失敗しても許せるようになるんです。
 中学生の時にひとり図書室で『火の鳥』を読んでいた時はこんなことになるなんて思ってもみなかったし、芸人をはじめて長く経ち、だんだんすり減ってきて、人生の斜陽を感じていたんですけど、そういうのも無駄ではなく、すべて今に繋がっているんだと思います。小さい頃から漫画を読んで、絵本作家の父の仕事を近くで見たことも、すべて今に繋がっているんじゃないかと思います。
 お笑い芸人が僕の本業なんですけれども、人前でしゃべることが苦手で……でも、うまく言葉にできない気持ちを、こうして少しでも漫画で描けたらいいなと思います。本当にありがとうございました」


アトムトロフィーを大切そうに握り、ひとつひとつの言葉を噛みしめるようにスピーチする姿に、撮影しながら思わずジーンときてしまいました。


お人柄がにじみ出るスピーチでしたね! 今日から堂々と20歳サバを読むことにします!


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(左から)ほんこんさん、板尾創路さん、石田靖さん、木下ほうかさんと。
作中に登場する「先輩芸人」というキャラクターは、この4名を足して割ったイメージだそう。


矢部太郎さんは、受賞式の前にも囲み取材がありました。応援に駆け付けた先輩芸人に囲まれツッコミを受けながら、受賞への喜びを語りました。


虫ん坊 2018年7月号 特集2:第22回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

特別賞 ちばてつやさん


「この歳になりましたら、老兵は消え去るのみと思っていましたが、このような手塚先生の名を冠した賞をもらえるとは思いませんでした。
 水木しげるさんが「ビッグコミック」(小学館)でエッセイマンガを描かれていたのですが、体調を崩されたということで、ピンチヒッターのつもりで『ひねもすのたり日記』を描きはじめました。
 ところが、『ひねもす』を3回描いたところで水木さんが亡くなってしまい、ぼくは水木先生から何かを託された気がしたんですね。
 若い頃は、漫画を描きながらいつも不安になりながら過ごしていました。職業欄ってあるでしょ。そこに素直に漫画家と書けなくて、いつも自由業と書いていました。
 30歳を過ぎたころ、ある漫画家の友人が手塚先生のもとでアシスタントをしていた頃の話をしてくれました。ある時、手塚先生が「少年マガジン」を持って真っ赤な顔で作業場から降りてきて、この『あしたのジョー』っていう漫画、どこがおもしろいんだ! って雑誌を床にバーンと叩きつけて、ギュッ踏んだそうなんです。その話を聞いて、私は嫉妬してもらえたんだととても嬉しくなり、それから漫画家として自信を持てました。
 今、また手塚先生に作品を踏んづけてもらったような気がしています。105歳まではわかりませんが、もう少し、頑張ってみようと思います。」

手塚治虫の嫉妬も、新人漫画家からすると賛辞でしかないという!!


ちばてつやさんには、長寿漫画家の記録をぜひとも更新していただきたいですね!
 さて、お次は記念イベントです! ここでしか聞けない特別対談も、もちろんレポートしちゃいますよ~!




記念イベント

「この現場がスゴイッ! ゴールデンカムイ創作秘話―野田サトルの現場から―」

野田サトルさん×千葉大学教授・中川裕さん(アイヌ語監修)
進行:週刊ヤングジャンプ担当編集 大熊八甲さん

虫ん坊 2018年7月号 特集2:第22回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!

※野田サトルさんは撮影NGのため、ステージ写真で想像をふくらませてお楽しみください。


中川

改めて、大賞受賞おめでとうございます。このマンガが大賞を取るのは当たり前だとずっと思っていて、ストーリー展開の巧みさ、効果的に見せる演出力や画力もそうですが、それ以上に今までほとんどアイヌ文化に関心を示さなかったマスコミや出版局がこぞって本作を取り上げている。この状況を作り上げたのは『ゴールデンカムイ』という作品であることは間違いないです。
 さらに中心になっているのは、アシパという魅力的なヒロイン。このアシパという名前ですが、野田先生に4つほど名前を考えていただき、最終的にアシパに決まりました。大熊さんが私の研究室に第1話の完成原稿を持ってきてくださったときはまだアシパという名前ではなかったんですよね。


野田

まずひとつは「シノッチャ」という言葉でした。


中川

みんなで楽しむときに歌を歌うことを「シノッチャ」といいます。 


野田

「アシルパ」というのも候補にあったかと思うんですけど、中川先生と話し合った末「アシパ」に決まったんですよね。


中川

その「アシルパ」という名前はどこから来たんでしょうか。


野田

忘れちゃいました(笑)。


大熊

(笑)。せっかくなので、アシパの衣装についてもお伺いしても良いですか。


中川

格好良いだけじゃなくて、よくここまで調べて描いたな、と。アイヌが山に行くときの武器や道具を一式身につけている写真資料はないんですよ。野田さんは別々の写真を組み合わせて衣装に描きおこしているんですね。もしアイヌの教科書をつくるなら、この絵を載せたいくらいです。
 細部にわたるまで非常にリアルに描かれているわけですが、どのくらい前から取材をしていたんですか。


野田

連載する1年半前くらいでしょうか。


大熊

野田先生自身が取材をされるのですが、フィールドワークが本当にお得意なんですよ。


野田

現地の方にお話を聞くときは自分が何者かを伝えずにこっそり取材していますけどね。


中川

そろそろバレるんじゃないですか?


野田

いや、意外と平気です。


中川

一番印象に残った取材はなんですか?


野田

樺太アイヌの血を引く猟師さんの、鹿の狩りに同行したことです。子鹿だったんですけど、その場で解体して食べるというので「脳みそを食べたいです」とお願いしました。写真もバンバン撮っていたので、絶対頭おかしいヤツって思われただろうなって(笑)。
 脳みそは今では猟師の方でも食べないようで、食べちゃダメって止められたんですけど。


中川

実際に食べたんですか?


野田

食べました。味のしないあたたかいグミみたいな感じでしたよ。一緒にいたアイヌの方たちが引いていました。


中川

不思議なことに、北海道を舞台にしたマンガなのに北海道弁がほとんどでてこない。アシパは設定からして学校にも行っていないでしょ。それにしては立派な標準語を話している。どこで標準語を習ったことにしていますか?


野田

……お父さんですね。


中川

お父さんって、ポーランド人と樺太アイヌのハーフっていう設定ですよ。日露戦争まで樺太はロシア領です。ロシア人しかいないところで育ったわけだから、日本語はしゃべれないんじゃないかなあ。


野田

……アイヌの村の人たちが、和人とつながるために日本語を覚えたんですよ、きっと。


中川

北海道弁だろうけどね。


野田

中川先生にはアイヌ語の監修をお願いしてますが、ロシア語、ウィルタ語、薩摩弁などそれぞれに監修者がついていて、薩摩弁は80代の女性が翻訳してくれています。
※ウィルタ語…樺太中部以北の先住民族であるウィルタ族の言語


大熊

野田先生から中川先生になにかご質問はありますか?


野田

「ウコチャヌコロ」ってどういう発音なんですか?
※『ゴールデンカムイ』11巻に登場するアイヌ語


中川

ウコチャヌコロ。
(とくに変わったイントネーションでもなく、そのままの読み方)


野田

そのままですね。


中川

この単語をよく見つけてきましたよね。僕が出したアイヌ語辞典にしか載っていない言葉なんです。意味は、その、動物同士の……ゴニョゴニョ


野田

セックス。


中川

隠した意味ない。


大熊

ウコチャヌコロの話で締めるのもアレなので(笑)、最後に意気込みをお願いします。


中川

私は監修は行っていますが、事前に全体像を示されているわけではないのでこの先どう展開されるのか全く分からないですけど、ただ、このマンガが引き起こした社会的なインパクトは非常に大きいものがあって、それを良い方向へ持っていけるかどうかは我々の方の努力に掛かっています。連載が終わってしまったらアイヌに対する関心が薄れてしまうことがないように、この衝撃をどうやって繋いで行くかを考えたいと思います。


野田

『ゴールデンカムイ』を描くにあたって、北海道のあちこちへ足を運びアイヌの方々に会ってきました。僕に直接アイヌの方々が言ったのはひとつだけ。「かわいそうなアイヌは描かなくていいから、強いアイヌを描いてくれ」と。それだけだったんです。これからも、できるだけ忠実に、慎重に、フェアに描いていきます。


ウコチャ……。


コロ……。



手塚治虫生誕90周年記念対談「治虫さんと僕」

矢部太郎さん×手塚るみ子 

虫ん坊 2018年7月号 特集2:第22回 手塚治虫文化賞 贈呈式レポート!


矢部

今回の対談のタイトル、僕、さっきちゃんと見たんですけど、「90周年記念対談」という……本当に僕でいいのでしょうか。


手塚

いやいや、『大家さんと僕』のイチ読者としてお会いできるのを楽しみにしていました。 Twitter上で漫画家の先生がすごく絶賛されていて知ったんですけど、実際に手に取ったら、本当に素晴らしくて、嬉しくて泣けてしまうような気持ちで読めた作品でした。
 絵も素朴でかわいらしく、4コマ・8コマ漫画なのもあり、手塚治虫のデビュー作『マアチャンの日記帳』に雰囲気が似ている感じがしました。手塚も『大家さんと僕』を読んだらきっと懐かしい気持ちになって、原点に戻ろうと思うかも知れないです。まずは大家さんを探すところから始めないといけませんけど。トキワ荘には大家さんがいたのでしょうか(笑)。


矢部

読みたいです、トキワ荘の大家さんの話! 


手塚

大家さんとのやりとりももちろん楽しいんですけど、大家さんが風の強い日に歩いていて、髪の毛が風に吹かれてびよーんと伸びる描写があって、その表現力がとにかく素晴らしいなと思いました。


矢部

僕、小さい頃、『マンガの描き方』を持っていたんです。あれは名著ですね。小さくなったり大きくなったり、人間をゴムまりのように描かれているところがあって、影響されて描いたと思います。実は、手塚治虫ファンクラブの会員証も持っていて……。(会員証を見せる)

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手塚

初めて現物を見ました! いつ頃入会されていたんですか?


矢部

確か、小学校6年生か中学1年生くらい。お父さんが1990年に国立近代美術館で開催されていた『手塚治虫展』に連れて行ってくれたんですけど、ものすごく衝撃を受けて。もっと、この人を知るにはどうしたらいいんだろうと思ったのが入会したきっかけです。


手塚

へええ、そうだったんですね。はじめて手塚マンガを読んだきっかけはなんだったんですか?


矢部

藤子不二雄先生の『まんが道』です。手塚先生のことを分かりやすく魅力的に描かれているじゃないですか! そこで『地底国の怪人』や『新宝島』で革新的なことをやっていたことを知ったし、手塚先生のすごさが僕にも伝わった。


手塚

『まんが道』がきっかけで、更に幅を広げて手塚作品を読もうと思った先生は多いです。そこから、矢部さんもいろいろ読んで下さったと思うんですけど、特に好きな作品はなんですか。


矢部

『火の鳥』です。教室から図書室に逃げ込んだときに読んで、俯瞰でものを捉えている上にAD3000年とか言われたら、もう、僕の悩みもどうでもいいやってなりました。子供だったけど、そんなスケールの大きい話を理解できたような気がしたんです。そういう風に描かれているのがすごい。大人にちょっと近付けるような気がしていたんですよね。 あと、『ガラスの地球を救え』。子供ながらに環境問題が大変だとはじめて気づかされたというか。


手塚

エッセイも文章も子供が読んでもわかりやすく描いていますよね。その頃から絵は描いていたんですか?


矢部

『マンガの描き方』を読んで、Gペンやケント紙を揃えたりしたんですけど、全然描けなかったんですよね。
 それでも絵はすごく身近なもので、絵本作家をしている父のアトリエがそばにあったので、その仕事ぶりをずっと見ていましたし、よく一緒に動物園に行き動物をスケッチもしました。家のなかも絵具や紙がたくさん散らばっていたんです。きっと、るみ子さんもそうでしたよね。


手塚

うちもそうでした。私の場合は家のなかに描き損じた原稿がいっぱいあるわけですよ。それを拾って、なぞりながら続きを描くということをしていました。


矢部

僕も絵を描くのはすごく好きで、紙芝居のようなものを作った記憶はあります。


手塚

お父様は今回受賞されてどのようにおっしゃっていましたか。同じ世界に息子さんが入られてどう思われたのか気になりました。


矢部

脱力感がいいね、と言ってくれました(笑)。
 大家さんと僕の間に流れる空気とか、絵で伝わるものってあると思うんです。もしこの内容を漫談で話すことになっても、空気感までは絶対に伝わらないんじゃないかな。


手塚

本当に読んだ皆さんが矢部さんと大家さんの間に漂う雰囲気を感じることができると思います。日常の湿度や温度は言葉では表現できないことですよね。
 今後、マンガ家として描いてみたい挑戦したいという作品はありますか。


矢部

折角こういう賞をいただいたので、描きたいと思ったことがあれば是非描いていきたいですね。でも、やっぱり大家さんのことをもっと知りたいし、描きたいです。



どちらも、作品の裏話が聞けた対談でしたね! 客席からは常に笑いが起こり、なごやかな雰囲気に包まれていました。
 手塚治虫文化賞贈呈式は、一般の方でも参加できる招待枠があります。来年はぜひとも参加してみてはいかがでしょう! 
※抽選となります。


来年はどんな作品が選ばれるのか、今から楽しみですね!
 自分なりに、受賞作品の予想をしてみるのもまたひとつの楽しみ方かもしれません!



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