ファン待望!? 幻のSF作品『ダスト18』が遂に初単行本化!
初出時のまま読みたいという多くのリクエストにお応えして、連載時の内容を再現、さらに未使用エピソードの下書きや予告カットなどを収録した決定版がついに発売されます。
大幅な描き直しを経て『ダスト8』と改題された本作は、構成はもちろん、キャラクターの表情や台詞が大幅に修正され、なんとその箇所は100ページを超え。さらには結末までもが異なり、もはや別作品といっても過言ではありません。
というわけで、今回は初単行本化を記念し、『ダスト8』をご紹介! 『ダスト18』を読む前に、おさらいしてみては!?
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『ダスト8』2巻 あとがきより抜粋)
(前略)
この全集は、原則として、内容の極端な変更はあまりしないたてまえなのですが、「ダスト8」に関しては、その原則を破りました。内容をばらし、組み立てなおしたのです。あるエピソードはまるまるかきおこしです。最初に遭難した人たちが収容されるシーンでは、十八人の人たちを八人になおしました。以下、せりふから、画面から、なおせるところはかなり思いきって改変してあります。
原作では、「ダスト5」にあたるエピソードのエリ子というヒロインは、その後、物語の最後までキキモラの少年とともに生活し、しだいに死の運命にもてあそばれていくのですが、全集ではそれを短い話に集約してしまいました。しかも原作では、エリ子は八番目のエピソードにあたるコンピューター学者の娘――それも、生き別れになった娘――というややこしい設定になっています。おまけにこのコンピューター学者が、原作では田田田(たでんた)博士というおかしな名まえなので、これも変更してあります。
というわけで、支離滅裂気味で、まったく不評だった原作を、全集では料理しなおして、なんとか食べられるものにしあげたという点を、ご了解いただきたいと思います。
(後略)
今回ご紹介する『ダスト8』は、人間の死について、「生命の石」という架空の物質をキーに描いたオムニバス短編風の物語です。
周防灘上空を飛行中の旅客機が、故障により墜落。ところが、墜落した島は地図にもレーダーにも映らない謎の島でした。旅客機は突然レーダーから消えてしまい、「神隠し」にあったもの、と思われたのですが、その中から10人が生き残り、事故機から奇跡の生還をとげます。
実は、旅客機は「生命の山」がそびえる不思議な島に墜落していたのでした。事故の際にその「生命の山」にぶつかって、山の岩肌が削れ、そのかけらが10人の人間にふりかかったのです。この「生命の山」から削れた石のおかげで、彼らは生き残ったのです。
そのうち二人の少年少女の体にもぐりこんだ「キキモラ」という妖精は、残りの8人を探し出して、彼らが持っている山のかけら――「生命の石」を取り返してくるよう、生命の山の「ボス」に命令されて、いやいや人間の国に降りていきます。
8人はいずれも日本人ですが、性別も職業もまちまち。日本各地に散らばった人々をキキモラは苦労をして捜し当て、石を返すように言います。石を取り上げられたが最後彼らは死んでしまうのです。当然彼らは、キキモラを死神として恐れ、なんとかして彼らの手から逃れようと必死になります。
この作品の一番の見所はやはり、キャラクターのはっきりした8人の生還者たちが、キキモラに迫られて死を目前にした際に、どんな反応を示すのか、というところでしょう。皆、はじめは一様に突然訪れた死神を前におびえるのですが、その後の行動がキャラクターごとに違っていて、大切な目的を成し遂げて満足して死ぬ人、みっともなくあがいたあげく、結局死んでしまう人、自らの目的のために命を投げ出すのに躊躇一つ見せない人、様々です。しかし皆それぞれに人間らしく、みっともなかろうがかっこよかろうがじんと来る最期を遂げるように描かれているところには、人間を愛した手塚治虫の視線の優しさを感じます。
結末はまたかなり大胆などんでん返しで、びっくりするのですが、読後感はじつはハッピーエンドで、暗くならないので、「人がどんどん死んでいく話なんて……」と、読むのをためらった人も是非読んでみてください。
命令によって強制的に人間の体へ乗り移らされ、人間界へと送られた1匹のキキモラ。
その後ろには、あとを追うもう1匹のキキモラの姿が――。
荒波にもまれながら、2匹が交わしたセリフがこちら。
#ここに教会を建てよう
そうなんです。なんでこいつは命令されてないのに勝手に付いていくんだろう? と不思議に思っていましたが、なるほどそういうことでしたか! 私が野暮すぎました!!
後を追うのは当たりまえ。なぜって、おまえとおれは夫婦だから!! この後、♀キキモラの反応が描かれていないのがまたニクイ。
こちら、記念すべき最初の石を手に入れたときの1コマ。思わず「ダスト……1!!」とつぶやくキキモラのこのセリフがタイトルの意味だった!
ダストが8個集まるまでの紆余曲折は、ぜひ皆さんご自身の目で確かめてみてください。
ちなみにこのダストカウント、1回目のこれ以降出てきません。