1982年に手塚治虫も来訪! フランスはアングレーム市で行われる、世界有数の漫画祭「アングレーム国際漫画祭」。2018年で45回目を迎えた同イベントでは、日本の漫画がひときわ大きく取り上げられました。
100年以上の歴史を持つ美術館、Musée d'Angoulêmeでは、手塚治虫をテーマとした展覧会「OSAMU TEZUKA , MANGA NO KAMISAMA」が3月11日まで開催されています。
虫ん坊では、本展覧会のキュレーター、ステファン・ボージャンさんにメールでインタビュー。アングレーム国際漫画祭についてや企画の経緯、見どころなどをお伺いしました。
―――アングレーム国際漫画祭では、具体的にどんなお仕事をされているのでしょうか。
ステファン・ボージャンさん:(以下、ステファン)
様々なプログラムを調整しながら、キュレーターとしてフェスティヴァルの殆どの展覧会を担当しています。
―――そもそも、なぜ首都・パリ市ではなく、アングレーム市で漫画祭を開催することになったのでしょうか。
ステファン:
もともとアングレームに住んでいたバンド・デシネ(フランスのマンガ)のファンとバンド・デシネのアーティストが団結して協会を設立しました。
その後、アングレーム市役所の協力を得て、いまのような大きなフェスティヴァルになったのです。
―――会場には一般来場者をはじめ、どんな方が多く訪れますか。
ステファン:
子供から大人まで年齢関係なく、バンド・デシネ、アメコミ、日本の漫画のファンが大勢訪れます。来場者数は4日間で約15万人となります。
―――日本でも、近年、大友克洋が最優秀作品賞(le Grand Prix)を受賞、日仏の作家79人によるトリビュートイラスト展『TRIBUTE TO OTOMO EXHIBITION』が開催されたりと話題になりました。
なぜ、多くの日本の漫画や作家がアングレーム国際漫画祭で注目されたと思いますか。
ステファン:
日本は世界一の「マンガ産業国」です。フランスのマンガ市場では、マンガの読者の35%が日本の漫画の読者です。フランスでは、日本の漫画がメジャーのジャンルで、大人気です。僕も子供の頃から日本の漫画を読んでいます。
―――他にもオルタナティブ賞、シリーズ(長編作品)賞など様々な賞がありますが、毎年世界中から選ばれるノミネート作品は、どうやって選ばれているのでしょうか。選考のポイントを教えてください。
ステファン:
毎年、マンガの専門家や作家、書店員などを含む選考委員会がノミネート作品を選びます。選考の基準については、作品の個性、独創性、ストーリーとアートに関する正当性が注目されます。
―――アングレーム国際漫画祭は2018年で45回目を迎え、世界的に権威のある漫画祭なわけですが、なぜそのように長く定着したと思いますか。
ステファン:
アングレーム国際漫画祭は芸術的な方法でマンガを紹介します。他の漫画祭にはないその異色のアプローチは、マンガ業界の関係者メディアから一般メディア、来場者にとって、面白くて魅力があり、年々参加者と来場者が増えています。
―――ステファンさんが考えるバンド・デシネと日本の漫画のここがすごいと思うところはどこですか。それぞれ、教えてください。
ステファン:
バンド・デシネは時間をかけて作るので、作家が作画と原作を充実させることができます。日本漫画の作成過程では、産業のように、円滑に働く組織から作られていて、とても効率的です。
一般的に日本の漫画は、魅力のあるキャラクターがいて、テンポのよいナレーションが持ち味です。バンド・デシネは、もっとゆったりとしたナレーションがあり、ストーリーのテーマが深くて、多くの色を使用した美しい背景描写が見どころです。
―――パリのルーブル美術館では、2005年に「ルーブル美術館BDプロジェクト」を立ち上げるなど、バンド・デシネを9番目の芸術ジャンルとして位置付けています。
ステファン:
時間がかかりましたが、バンド・デシネの表現力がとても豊かで創造的であることが認められてきました。
―――バンド・デシネは今後、更にどう発展していくと思いますか。
ステファン:
21世紀では「マンガ」(バンド・デシネ、アメコミ、漫画を含める)がコンテンツ産業の中心になりつつあります。
そのトレンドの例を挙げますと、2000年は、映画のトップ10中9作品がオリジナル作品でした。2017年になると、映画のトップ10中6作品がマンガからできました。今後 このトレンドがさらに強化されるでしょう。バンド・デシネももれなくそうですね。
―――ステファンさんが日本でいま一番注目している作家は誰ですか。
ステファン:
大勢いますね。大友克洋、浦沢直樹、松本大洋、鳥山明、高橋留美子、あだち充、尾田栄一郎などです。
―――今回、手塚治虫の企画展が開催されることとなった経緯を教えてください。
ステファン:
2年間かかった企画で、素晴らしい冒険ができました。今回の展覧会を好きな形で実現するために、手塚プロダクションのみなさんにはとても自由にやらせていただき、多くの手助けを得ました。
―――タイトルを「OSAMU TEZUKA , MANGA NO KAMISAMA」とした理由についてお聞かせください。
ステファン:
フランスと日本では、神の概念が異なるため、神を巡る混乱を避けたかったのです。展覧会の最初のパネルでその文化の違いを説明しています。
あえてローマ字で日本語のタイトル「MANGA NO KAMISAMA」とすることで来場者の好奇心が高まり、興味を持って展覧会の解説文を読んでいただくことで、日本でよく使われる「漫画の神様」の本来の意味をもっと簡単に誤解をさけて理解してもらうことができると考えました。
―――手塚作品はもともとお好きでしたか。手塚作品との出会いを教えてください。
ステファン:
80年代初め、『鉄腕アトム』のテレビアニメに出会ってから手塚治虫先生の大ファンになり、手塚作品のあらゆる英語版、フランス語版を読みました。
―――フランスやヨーロッパで人気の手塚作品を教えてください。
ステファン:
『アドルフに告ぐ』、『鉄腕アトム』、『奇子』、『ブッダ』ですね。
―――図録も拝見しましたが、手塚治虫の初期作品から後期の作品、スターシステムからアニメーションまでかなり詳しく網羅されていて驚きました。
今回、展示される作品について、膨大な原画のなかからどう厳選していったのでしょうか。
ステファン:
フランスで一番認知度が高い作品から技術的な特徴、先生のスタイルの進化などに注目しました。また、日本で作品が出版された時代の思想・感覚も反映した上で先生の原稿を見せたいと考え、選出しました。
―――「OSAMU TEZUKA , MANGA NO KAMISAMA」で、ステファンさんが思う一番の見どころを教えてください。
ステファン:
一番の見どころというものは特にありません。逆にそれがないことが重要で、手塚先生の漫画は円滑ですべてが継続した大きな流れであることを見てもらいたい。
―――企画展を通して、手塚治虫について改めて感じたことがあれば教えてください。
ステファン:
展覧会を作り上げながら、手塚先生が描く漫画の多様性とパワーをはっきりつかむことができました。手塚先生の漫画はモダーンで、ヒューマニズムにあふれていることを改めて実感しました。
―――ありがとうございました! Merci!
「OSAMU TEZUKA , MANGA NO KAMISAMA」
開催期間:
2018年1月25日~3月11日
場所:
Musée d'Angoulême
Square Girard II, Rue Corneille, 16000 Angoulême, France