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虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

はじめに:

 2月のオススメデゴンス! はバレンタインデー記念ということで、3人のかわいいヒロインが登場する『ぐうたろう千一夜』をご紹介します。

 ストーリーをチョコレートの味に例えるなら、全体的にビタースウィートでちょっぴりミルク(ファンタジー要素)が混じっていて、ときにカカオ成分99%の苦み(ゾクリとさせる部分)も持ち合わせた、3話からなるオムニバス作品となっています。
 是非、ご賞味ください!


解説:

 「中一時代」に、昭和50年4月号から6月号まで発表された短期連載作品。中学一年生の主人公・隅太郎が体験する、少し不思議で悲しい全3編の物語で、同年には「ブラック・ジャック」で日本漫画家協会賞特別優秀賞、「ブッダ」「動物つれづれ草」で文藝春秋漫画賞を受賞し、短編の名作「雨ふり小僧」を描くなど、漫画家として充実した時期の作品でもある。


マンガwiki作品紹介:

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読みどころ:

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

 主人公・隅太郎は、中学一年生なのに、小学校へ逆戻りになりそうな成績の上、なにをやっても失敗ばかり。連載第1話の扉絵にも、「日本一もてない男」「なにをやらせてもダメな子」と作者の手塚治虫によって大きく書かれています。

 この「ぐうたろう千一夜」は、そんな隅太郎のガムシャラな奮闘記であり、不思議な体験記であり、そして悲しい失恋の物語です。各話のストーリーを簡単にご紹介すると…

 第1話では、醜い少女・桃恵と出会い、半ば強引にボーイフレンドにされてしまった隅太郎でしたが、彼女のアドバイスでめきめき優等生へと変身していきます。

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

 第2話では、悪い同級生が、隅太郎をだますために、事故で入院中の女の子を宇宙人に仕立て上げ、隅太郎と毎日トランシーバー越しに会話をさせます。

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

 第3話では、テストや競争のない異次元世界に飛び込んで、可愛い女の子と仲良くなりますが、実は政府が検査によって生存の資格を決めるという、厳しい世界だったのです。

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

 恋する中学生の生活をリアルに描いた「青春もの」…とは言うよりは、むしろ中学校を舞台にしたファンタジーであり、どのエピソードにも、ラストでは少しせつなくて胸に染みる別れが待っています。バレンタインの時期ではありますが、「悲恋もの」がお好きな方にはぜひオススメの作品です。

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』


注目の一コマ:

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

 帰宅途中の道すがら、円盤(UFO)を拾った隅太郎は同級生のイタズラとは知らずに家の冷蔵庫に隠すのですが、宇宙人(入院中の女の子)と会話を交わすうちにどんどん打ち解けていき、円盤を冷蔵庫に入れるのをやめます。
 そもそも、「寒いから宇宙人はかぜひいて逃げる元気もなくなる」という理由で冷蔵庫に入れるという発想自体ズレているのですが、次になぜ布団の中!? と思わずツッコミをいれたくなります。グッとふたりの心の距離が縮まったことを表すシーンであると同時に、隅太郎というキャラクター性もよく表現されています。


作中の名セリフ:

虫ん坊 2017年2月号 オススメデゴンス!:『ぐうたろう千一夜』

桃恵:「人間は何から何まで幸せにはなれないのよ……
不幸があってこそ幸せの味がわかるのよ」


 およそ中学一年生が発言したとは思えないほど意味深で大人びたセリフです。
 一見、美醜にこだわる隅太郎に向けられた言葉のようにみえますが、その後の展開から実は桃恵自身のことも指していることが分かります。やむを得ぬ事情をひとりで抱える桃恵の本音が垣間見える箇所です。






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