この夏、『鉄腕アトム ロボットと暮らす未来展』が横浜人形の家にて開催されます!
「鉄腕アトム」の作中に描かれる“ロボットと人が共存する暮らし”を空想と現実の両方から垣間見ることが出来る展覧会となっています。
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今月のオススメデゴンス! では、不朽の名作『鉄腕アトム』より「地球最後の日の巻」をピックアップしてご紹介します!
「鉄腕アトム 地球最後の日の巻」は、月刊誌「少年」昭和39年3月号〜6月号に連載されました。
センセーショナルなタイトルの作品ですが、別にこれが『鉄腕アトム』の最終回、というわけではありません。それにしても、タイトルだけを見ると、「えっ? どういうこと?」と思わず引き込まれてしまう、魅力的なタイトルであることには間違いありません。
ある夜、東京の郊外に奇怪な物体が墜落します。冷蔵庫のような四角い箱とともに落ちてきたのは、キラキラ光るスマートな少年型のロボット。
少年ロボットの名前はベム。彼曰く「決してあけてはならない」という四角い箱は、実は星ひとつぐらい簡単にばらばらにしてしまうぐらいの恐ろしい威力を持った爆弾なのです。爆弾の感覚器官のような役割をするというベムは、兵器として使われるのがいやで、逃げてきたのでした。
亡命者であるベムをかくまおうと奮闘するアトムですが、地球人への配慮から、お茶の水博士にベムの居場所を教えてしまいます。それによってベムは宇宙人の科学者達に見つかり、ベムはアトムを「裏切り者!」とののしるのでした。
今回の話でアトムは、ベムとお茶の水博士の板ばさみに苦しみます。あくまで人間の、大人の立場から、ベムを開発者である宇宙人たちに返すべきだ、というお茶の水博士と、同じロボットとして、または子どもとして、ベムの意思を尊重してあげたい、と思うアトム。子どもと大人、またはロボットと人間の間で悩むアトムの姿は、まさに『鉄腕アトム』全編を通じる主題「人間とロボットという、異なる種の相互理解の難しさ」にも通じます。
逃走中のベムは、お菓子屋さんに住みこみで働くことになりました。
アトムのアドバイスもあり、地球人としてごくふつうに暮らすことになります。
「きみに力を貸すよ、いつでも相談にのるからね」というアトムの言葉に安心したベムはベッドに横になろうとして、なぜか引き出しからコック帽を取りだし、お菓子屋さんの制服に着替えてベッドにもぐります。
すかさず、突っ込むアトム。
はじめて遭遇した人間が馬場のぼる氏演じるルンペンさんで地球人は服を着るという認識はあったものの、流石にタイミングまでは分からなかったようです。
地球人と宇宙人、ロボット同志ならでは? 高度なボケ&ツッコミのシーンです。
「こうなったらたよりになるのはロボットだけです
ロボットはどんな危機がきても落ち着いて正しくやってくれますからなあ」
もはや暴徒と化した群衆に対するお茶の水博士の皮肉めいたセリフです。
物語では、刻一刻と地球へ近づくまっかな星の影響で、世界中にハリケーンが巻き起こり、人々は大混乱。宇宙へ逃れようと科学省にも人が押し寄せます。ロボットにはない、人間の恐怖心がすべてを狂わせてしまうのかも知れません。
そう遠くない未来、ロボットと人間が共存する世界において、もし、本当に世界滅亡の危機が訪れたら……。
きっと、お茶の水博士の言葉通り、どんな危機が来ようとも人間に尽くすために作られたロボットたちが力になってくれることでしょう。ですが、そのロボットを作りだしたのは人間です。どんな危機的状況に置かれても、人としての尊厳を忘れず、人間とロボット、それぞれが協力しあえるようになれば、乗り越えられるのではないか。お茶の水博士のセリフの裏にはそんなメッセージも隠れているような気がします。