なんと、58年振り! 不朽の名作『ジャングル大帝』が激レアの1958-59年・光文社発行のハードカバーバージョンで初復刻されています。
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また、『ワンサくん』に続き、『ジャングル大帝』もこの夏、ACC(公財)荒川区芸術文化振興財団による世界初の舞台化が決定しております。
今月のオススメデゴンス! では、手塚マンガの代表作『ジャングル大帝』をフィーチャーします!!
(手塚治虫 文民社刊「手塚治虫作品集2 ジャングル大帝」あとがき より)
(前略)
この物語は、パンジャ、レオ、ルネ三代の白いライオンを主人公にした、一種の人生ドラマで、私がえがこうとしたのは、大自然と生きものとの、絶えることのない闘争と征服と挫折の歴史でした。
『国破れて山河あり』という言葉どおり、この物語のクライマックスでは、最後の舞台となるムーン山にいどんだ主役たちが、ほとんど死んでしまいます。しかし、それは宿命的な悲壮感よりも、未来への期待を歌い上げて終りたかったのです。滅びても消え去っても、なおも新しい生命が自然に向かっていどむ力に敬意を表したかったのです。
中心になるレオは、アトムなどと共に、かなり理想主義的な傀儡に思われがちなのですが、もっと人間くさいコンプレックスの持ち主で、いつも悩んでは退き逡巡しては進みます。百獣の王という貫録と強さを身につけながら、人間の社会で育ったために、人間と猛獣の間にはさまってジレンマに苦しみます。なぜ動物どうし、生存競争とはいえ、殺しあわなければならないのだろうか。アフリカに押し寄せる文明の波に、動物たちはどう臨んだらよいのか。
そして、ついにレオは、動物全部が団結し、協力することによって、それらを防ぎ得ることを悟ります。そしてレオのユートピアを築き始めるのです。
私は、レオやライヤのすむ世界は、人の誰も知らない森の奥や山の向こうで、動物たちが俗塵も浴びず天使のように無邪気に跳ね回っている世界が一番好きです。どんな近代科学の発達した社会になっても、私はこの夢だけは捨てたくないのです。
『ジャングル大帝』は、雑誌「漫画少年」で連載が開始されてからゆうに50年以上がたっているというのに、一向に色褪せない名作中の名作です。
舞台は熱帯のジャングル。ジャングルの王・白い獅子のパンジャは、獣が人間に飼いならされることを憎み、ハンターたちと闘います。しかし、人間の奸計の前にあえなく命を落とします。パンジャの妻であったメスライオンもまた、人間に捕まり、ロンドンの動物園に売られていきます。その船の上で生まれたのが、主人公のレオでした。レオは母親と別れ、独り船から脱出してアフリカを目指します。海の上を漂流した末、人間の船に拾われ、アデンという町に流れ着き、そこでケン一少年やヒゲオヤジ、メリーたちと出会うのです。
この物語の魅力を一言で表してしまえば、レオやルネ、ルッキオのみならず、彼らとかかわった人間達がそれぞれ数奇な運命をたどり、その軌跡が複雑に絡み合ってドラマが生み出されるところでしょう。主要なキャラクターの一人一人が、それぞれ自伝を書き残してもおかしくないほどの波乱に満ちた人生を送っています。まさに誰を主人公にしてもドラマになる、魅力的な登場人物らの縦糸が、複雑に絡み合って見事な織り模様を描いているのです。
それぞれの登場人物を結びつけるのは、月光石というキー・ワード。地質学上、とても重要な学術資料となるこの石は、ヒゲオヤジとケン一をジャングルに導き、レオの最後の冒険にかかわる重要なキー・アイテムです。この石がなければケン一やメリーはアフリカに行く事もなく、レオもまた一生アフリカを知らずにケン一らと一緒に町で暮らしていたのかもしれません。レオをアフリカに帰し、ケン一の知恵をジャングルにもたらし、そして、彼ら皆をムーン山に導く月光石が横糸となって、登場人物らが紡ぐ縦糸を見事に束ねています。この物語の妙こそ、この作品の最大の魅力といえるでしょう。
全集版にして3巻という適度な長さに、笑いあり感動ありのダイナミックな物語。今年の夏は、かんかん照りの日差しと、澄み切った青い空に浮かぶ入道雲を眺めながら、『ジャングル大帝』を読んで、アフリカのジャングルに思いを馳せてみませんか?
レオにそっくりな雲(大自然)に向かって、ヒゲオヤジ(人間)とレオの息子のルネ(動物)が歩いて行く印象的なシーンです。
これだけジャングルの大自然や動物達の世界を壮大に描いていながら、当の手塚治虫本人は実際のジャングルに足を運んだことがないと知った時は信じられない気持ちでいっぱいになりました。
『ジャングル大帝』は1950年から少年誌で連載がスタート。当時、少年を対象としたマンガの中において、珍しく「悲劇」を取り扱った作品でした。しかし、解説にもありますが、犠牲になったレオの死は辛く苦しいものであっても、仲間の残した記録を受け継ぎ、レオの最期を見届けたヒゲオヤジが無事生還することで救いが生まれています。
たとえこの先、人間によってジャングルの秘境がどんどん開拓されてなくなってしまうとしても、いつまでも動物たちの楽園であって欲しい……。そんな思いをダイナミックに表現している一コマでもあり、また、同時に大自然の象徴ともいえる大きくそびえたった雲の下、ヒゲオヤジとルネが共に歩いて行く姿を描くことで、なんとか全ての生物が共存して行って欲しいという願いを込めたメッセージにも受け取れます。
「コンガ… いやメリー
いまさら勝った負けたでもないだろう
ぼくがこうしてきみのそばにいるんだ
わからないの」
ジャングラ族の女王コンガとなった幼馴染のメリーを前にケン一が放ったセリフです。
危険極まりないジャングルの奥地に置き去りにされてもレオと共にたくましく生き延びたケン一。
どこまでイケメンなんだ……。
手塚マンガでも1位2位を争う胸キュンワードではないでしょうか。
今まで孤独を抱え、散々ムチャぶり(シャレにならない)を働いてきたメリーもこのセリフを前にはもう堕ちるしかありません……!