あけましておめでとうございます!2016年の干支といえば、猿ですね。
新年最初のオススメデゴンスは、「リンリンちゃん」を紹介します。(『ぼくの孫悟空』8巻収録)
『西遊記』をベースに孫悟空が三蔵法師のお供になるまでのお話で、リンリンちゃんはまだ小さな悟空(最初はリンリンちゃんが名付けたビコという名前でした。)の姉がわりとして、とても面倒見の良い優しくてキュートな猿の女の子として描かれています。くるくる変わる表情や愛らしいしぐさもポイントです。
昭和35年3月号〜9月号、少女漫画雑誌『ひとみ』にて連載された、少女漫画版「西遊記」。この作品のヒロイン、リンリンは手塚治虫オリジナルのキャラクターで、手塚治虫が原案等を担当した東映動画のアニメーション、『西遊記』の憐々、今年公開された映画『ぼくの孫悟空』の愛鈴の原作版といえるだろう。
今はそうでもなくなりつつありますが、少し昔の子供たちは、男の子はチャンバラや野球にサッカー、女の子はおままごとやお絵かきで遊ぶもの、と決まっていました。おままごとが好きな男の子や、チャンバラが好きな女の子がいると、やれ女々しいだの、お転婆だのと言われてしまったりして、苦々しい、肩身の狭いような思いをした思い出のある方は多いかと思います。この「リンリンちゃん」が描かれた昭和35年ごろなら、ちょうどそんな風潮がまだまだ当然のように残っていたころでしょう。
そんな時代ならば当然、大冒険活劇「西遊記」は男の子向けの物語と考えられてもいたのでしょうが、それを大胆にも女の子向けの漫画に脚色したのがこの「リンリンちゃん」です。
しかし「西遊記」といえば主人公は自在な妖術を使うとは言え、乱暴者の猿の孫悟空、仲間はブタの妖怪・猪八戒と、腰蓑スタイルのもっさりした大男の沙悟淨となると、どうも華やかさというか、彩りに欠けるのは否めません。唯一ヒーローらしいかっこよさがなくもない三蔵法師だって、あの唐風の袈裟に冠のスタイルはロマンチックでも、なにしろお坊さんで、頭をつるつるに剃り上げているのですから今ひとつパッとしません。ストーリーも、ワクワクドキドキの冒険活劇でこそあれ、華やかなロマンスがあるわけでもなく、恋物語やライバルとの心理的な駆け引きなどがめっぽう好きな少女達にとっては、ちょっと物足りないところです。
そこで、「リンリンちゃん」では、孫悟空の姉代わりの女の子の猿、リンリンを主役に据えて少女の視点を設けた上に、西洋の天国のような天上界や、メフィストフィレスのような妖しい小鬼をトリックスターに登場させるなど、メルヘン風の試みがさまざまになされています。悟空も天使のようにきらきらと光るかわいい猿ですし、その悟空を五行山の岩屋に閉じ込めるのは優美な観音様、三蔵法師だって凛とした美青年です。ただし描かれたのは悟空が三蔵法師のお供になって、はるか天竺まで旅立つことになるシーンまでですので、この先、八戒や悟淨はどんな風に登場するのか、長い旅の間にリンリンちゃんと悟空はどうなったのかなどは描かれていません。