今月の特集では、レオになった家入さんや埼玉ブロンコスのメンバー似顔絵が登場しました。
手塚作品にも著名人や有名人がさまざまなかたちで登場しますが、今回はその中から『日本発狂』をご紹介します。
ユーレイだけど、歴史上の人物を実際に見る事ができたなら、実在を信じてみたいかも…!
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『日本発狂』あとがき より)
「死後の世界は、いったいどうなっているのか」この永遠に不可解なナゾは、テレビの怪奇ドキュメンタリー番組でなくても、だれしもが知りたい、解きあかしたい問題にちがいありません。
いったん死亡と診断され、また蘇生した人達の話は、かなりどれも似通っています。その人達の体験は"死んだ"事実が前提としてあるだけに説得力を持っています。
"死"を直接漫画にかくことは、主人公の最期とか物語の結末としてはよくあっても、そのこと自身決して明るいものではありません。ましてや連載となれば、かけばかくほど陰惨になるものです。ことに霊魂とか亡霊をまともに出せば、パロディーでない以上、陰気な物語になってしまいます。
"死"と"UFO"とをSF的にドッキングさせようと思いついてはじめたこの作品も、思ったとおり暗い話になってしまいました。はじめはつとめて明るく、とぼけてかき出したつもりが、しだいにじめじめした展開になり、これはいかんぞ、と思ったら後の祭りでした。
(中略)
ぼくは迷信家ではありませんが、"霊魂"といわれるものが、なにか存在することを信じないほどドライでもありません。
主人公の少年、北村市郎ことイッチは、ある夜、奇妙な大勢の人影を目撃する。「こんな時間にデモ行進かな?」不思議に思ったイッチが近づいてみると、なんとその人影には実体がない! ユーレイだ!
無我夢中で逃げる途中で知り合った本田記者に、イッチは目撃体験を語ります。「そういった話は記事にはならないよ」という本田記者はしかし、逆にイッチにこう問いかけました。
「君は幽霊の実在を信じるかい?」
人間や動物は死んだらどうなるんだろう? 亡くなったおじいちゃんや犬のポチには、もう永久に会えないのかしら。よく「あの世」というけれど、本当にそんなところはあるのかしら。もし、自分自身が死んだら、そのあとは…?
「霊魂は否定しないよ」と言った本田記者はなんとその次の日に不慮の事故で亡くなり、主人公イッチもまた、この作品の半ばくらいで幽霊たちにとり殺されて死んでしまいます。死んで幽霊となったイッチがたどり着いた死後の世界では、世界を三分に分けた戦争が行われており、より良い生活を求める人々はレジスタンスを組んで、政府に反抗していたのです。
必死に自分たちのより良い「生」(もう死んでいるのだから、こんな言い方は不適切ですが)を求めて戦う幽霊たち——死という重いテーマを扱ったこの作品で救われるところは、そんな幽霊たちのけなげな姿です。死んだ後も恋をしたり、命をかけて巨悪に立ち向かったり…死してなお、目的を見据えて希望を捨てずに果敢に戦ってゆくイッチや本田記者、ヒロインのくるみちゃんは、生きている私たち以上に生き生きとしているようです。