『人間昆虫記』の
今回ご紹介する『八角形の館』は『ザ・クレーター』所収の短編。主人公の
大学受験を控えている人や、大学を卒業して、会社に勤めようとしている人にとっては、身につまされるお話だと思いますが、夏休みの今のうちに、もう一度、「この道を進むべきか??」を考えてみてはいかがでしょうか?
解説:
(以下手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『ザ・クレーター』3巻 あとがきより)
「少年チャンピオン」は創刊いらいのおつきあいですが、創刊当時は一月に二回(つまり隔週誌)発行でした。それに毎回、ぼくは「ザ・クレーター」を執筆しました。
「あばしり一家」とか「ざんこくベビー」とか、かなりどぎつい作品が揃っていたこの雑誌の中で、とにかく地味でマニア的なこういった作品を載せてくれた編集長に感謝しなければなりません。
「ザ・クレーター」のタイトルは、別に意味はないのです。連載冒頭に、なんかしかつめらしいナレーションで解説していますが、そのときにはまだ一貫したテーマなんか決めていなかったのです。もちろん最後の「クレーターの男」なんかも、タイトルと関係はありません。
読み切り連作は、つまり短編の集合なのでどうしても出来不出来があるし、印象も散漫になりがちです。しかしこの「ザ・クレーター」はかいていて楽しく、「空気の底」や「ライオンブックス」「メタモルフォーゼ」などの連作ほど出来の差がはげしくなく、一応のレベルを保っていると思います。
オクチンという少年を登場させたり、読者に統一感を持たせようと苦心したものです。
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中高生ぐらいにもなると、誰しも一度は将来について考えたり、悩んだりして、果たして世間や親の言うとおり、高校や大学へ行って、一流企業かなんかに入ってサラリーマンになるのが本当に幸せな人生なのか、疑ってみたくもなるものです。少年誌のページを繰りながら、熱血ボクサーや野球選手に憧れたり、最近ではマンガの影響で囲碁やテニスが流行ったりという世の中ですから、一度はあなたもマンガの主人公や有名なスポーツマン、あるいは手塚治虫のような人気漫画家に憧れて、夢見がちな将来を頭に描いたことがあるでしょう。
しかし現実というのはなかなか厳しくて、少年の頃に描いた夢をそのままかなえて成功するには相当な努力と、多少の運が必要です。夢に向かって突き進んで、もし、成功しなかったら…? あるいはよしんば成功したとしても、ある日突然、この主人公のようにジレンマに陥ったら…? 一度はそんな
このマンガの主人公・熊隆一はその点恵まれていて、どちらの道に進んでも表向きは輝かしい成功が待っているのですが、売れっ子漫画家の道を歩んでいた熊隆一もまた、魔女のような老婆の言葉にそそのかされて八角形の館を訪れてしまうのですから、人生は難しいものです。もしあなたがこの物語の主人公だったら、果たして八角形の館を訪れぬまま、人生を全うできるでしょうか?