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虫ん坊 2011年6月号 オススメデゴンス!:『人間昆虫記』

今月、6月号の虫ん坊は、7月30日からWOWOWにてドラマ放送が決定した『人間昆虫記』をご紹介いたします!
ちょっと大人向けな内容のこの作品、一人の女性、十村十枝子とむらとしこが、世知辛い現代社会を生き延びていく…という内容。描かれたのは1970年ですが、未だに通用する迫力を持ったシリアスドラマ作品です。若い女性でありながら、悪事や時に殺人さえもいとわずにたくましく生きていく十枝子は、ものすごい悪人ながらもとっても魅力的です。
ドラマ放送前にぜひ原作を読んでみてください!


解説:
(以下手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『人間昆虫記』あとがきより)

 この物語をかいたのは、新左翼とよばれるセクト同士の反目とか、無差別テロとか、泥沼化したベトナム、そして中国では文化大革命など、さまざまな暗いニュースが新聞、テレビなどを賑わしていた頃です。その一方で、日本の高度成長は、まっしぐらにGNP世界第一位を目ざしてつっ走っていた時代です。
 その陰と陽の不条理な時代に、マキャベリアンとしてたくましく生きていく一人の女をえがいてみたいと思ったのです。これをかく以前に、プレイコミックには「空気の底」という短編を載せていましたが、思い切って長編を試みました。
 登場人物の名前は、どれにも昆虫をもじってつけてあります。これをかきながら、ぼくはカレル・チャペックの「虫の生活」を思い浮かべていました。
 昆虫の世界は、人間社会のカリカチュアだと思います。


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読みどころ:

虫ん坊 2011年6月号 オススメデゴンス!:『人間昆虫記』

 この作品の魅力は、なんといっても主役の十村十枝子のバイタリティあふれる生き方にあります。結果のためには手段を選ばず、人の技術や作品を盗みながら、役者・デザイナー・作家として次々と成功を収めていく様は、まさに脱皮する昆虫のよう。現実にこんな女性が身のまわりにいたら、さぞ腹立たしいだろうな…とは思いつつも、その若さと美貌を利用して、自らの手で成功をグイグイと引き寄せるそのパワーには、思わず感心させられることも確かです。


虫ん坊 2011年6月号 オススメデゴンス!:『人間昆虫記』

 常識やモラルが通用しない十枝子に、周囲の人間は振り回され、運命を狂わされ続けますが、十枝子は本当に愛する男性・水野さえも出世に利用したことで、空虚な心を抱き続ける事になります。果たして手塚治虫は、十枝子の生き方を肯定しているのか? それとも否定しているのか? それは実際に作品を読んでいただいた上で判断をお任せしたいと思いますが、わがままで子供っぽく、しかし抜け目のない十枝子に、どの程度共感をおぼえるかが、読者の評価をわけるところでしょう。


虫ん坊 2011年6月号 オススメデゴンス!:『人間昆虫記』

 後半、十枝子が財政界とかかわりを持ったことで、企業内紛のドラマが割り込んできますが、様々なジャンルをかきわける手塚治虫の器用さの証明ともいえます。
 なお余談ながら、解説にでてくるカレル・チャペックは、手塚治虫お気に入りのSF作家で、「ロボット」という言葉を考え出したことでも有名。手塚治虫初期の代表作『ロック冒険記』も、チャペックの『山椒魚戦争さんしょううおせんそう』をヒントにかかれたものです。


虫ん坊 2011年6月号 オススメデゴンス!:『人間昆虫記』







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