1950/01/15 「新春別冊号 冒険紙芝居」 掲載
この「黄金都市」、発表は1950年で、同年には「ファウスト」や「漫画大学」、ちょっと遅れて「ジャングル大帝」の連載が始まるなど、プロデビューした手塚治虫の曙光期…はいくぶんか過ぎたにしろ、まだ空気もさわやかな午前中早めというあたりの作品と言えるでしょう。改めてこの頃の作品を読んでみると、当時の手塚治虫は、子供たちにとっては「物知りお兄さん」的な存在であったのではないか、などと想像してしまいます。というのも「ファウスト」や「モンテ=クリスト伯とパラレルワールドを組み合わせた」という「新世界ルルー」などの、世界の名作を土台にした作品や、「漫画大学」のような指南物が多く出た時期で、それらのいずれもが、啓蒙的の一言で片付けてしまうにはユーモアがたっぷり効いていてどことなく洒脱、学校の先生に習うよりもわかりやすいときているのです。この、「黄金都市」もまた、「物知りお兄さん」的な作品のひとつといえるでしょう。——と言って、いったい何を教えてくれる作品なのかをここで書いてしまうと、結末のタネあかしとなってしまうので、書きませんが、読んでみれば最後になるほどそうかと思うことは必至です。一見西部劇風、食物が豊富に蓄えられ、人々が豊かに暮らしているその街は、なぜか働いているのは女性ばかり。拳銃を腰に、颯爽と馬を駆る保安官からして妙齢の女性なのです。男たちと言えば、収穫物を盗んで食べたり、ぐうぐう惰眠をむさぼったりしてなんともぱっとしない。市長は子供を500人も産み、街に入るための確認はダンスで行われ、外敵は主に真っ黒いアリ族…なんともファンタジックな「黄金都市」での生活を、まずはケン一くんと一緒に堪能してみましょう。