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ストーリー

実在の指揮者・バーンスタインによる「平和のためのコンサート」の模様をシリアスに描いた実録風短編です。

解説

1974/08/12 「FMレコパル」(小学館) 掲載

「雨降り小僧」の作品の中で降る雨が、やさしく暖かい恵みの雨だとするならば、この「雨のコンダクター」で降り続ける雨は、冷たく重苦しい苦悩の雨とでも言えるでしょうか。手塚治虫の反戦への強い願いが、この陰鬱な雨に込められているようです。1973年1月19日、15年あまり続いた泥沼のようなベトナム戦争がようやく終結を迎えようとしていたこの夜、ワシントン大聖堂で行われた レナード・バーンスタイン指揮による「平和のためのコンサート」には、冬の冷たい雨がそぼ降る中、実に一万人を超える聴衆がつめかけた。ほぼ同刻、大統領の再選を祝う前夜祭でも戦争の「勝利」を祝うコンサートが開かれていたが、こちらは客足もはかばかしくなく、しらけたムードが漂っていた。この夜行われた二つの対照的なコンサートは、国民の心の離れたアメリカ政府上層部の惨めさを、ありありと描き出しています。この二つのコンサートはいわば「勝利」に固執して躍起になったアメリカ政府と、反戦を訴える国民との静かな戦いであったともいえるでしょう。作中のオーケストラが演奏するシーンの、合唱の歌詞を全面に押し出した描写は力強く、大統領側の虚栄を今にも押し流してしまいそうな迫力で迫っており、バーンスタインやアメリカ国民の反戦への強い願いをそのまま視覚化したかのようです。ところで、この物語に出てくる、北ベトナム政府との交渉を進める「大統領」は当然ニクソンということになるわけですが、このニクソンの似顔絵がまた、ちょっと滑稽で小人物っぽいのも要注目です。彼がベトナムとの和平交渉に臨んでいるのも、結局は自らの政治的損得を見越したものであり、ベトナム戦争をアメリカの「勝利」で終わったなどと言ってのけるこの狭量な「大統領」(あくまで作中の話ですが)、通りがかりに聞いたこの「平和のためのコンサート」に忌々しげに眉をひそめるのですが、この言葉とは裏腹などことなく不安げな表情は、国民の戦争のおろかさを歌う力に圧倒された彼の「敗北感」であったのかもしれません。反戦への強いメッセージを、雨とハイドンの「戦時ミサ曲」に託してあらわした迫力の短編です。

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