1971/07 「小説サンデー毎日」(毎日新聞社) 掲載
手塚治虫自身が登場するエッセイ風の作品。作者自ら「フレドリック・ブラウン風の」と称する、ヒネリと皮肉の利いたオチがいかにも大人向けな、連作ショートショートのひとつです。
ネタにしたのはマネージャー・H氏の競馬狂い。競馬といえば、今でももっともスタンダードな公営ギャンブルのひとつですが、カジノのトランプゲームやパチンコ、あるいは競輪や競艇と一味違うのは、馬という人間以外の動物の力を競い合わせる、というところでしょうか。
この『ゲーム』に出てくるH氏は馬をとても愛していて、その上理論家。科学的予想術に一家言あり、という人です。そんなH氏がたどりついた究極の競馬必勝法は、「馬の心を知る」、つまり馬になりきって、彼らと生活を共にする、というものでした。いくら馬の心を知るといっても、そこまでやることはないだろうに、というぐらい、徹底した方法で馬になりきったH氏は、やっぱりよほど馬が好きなのでしょう。
『ジャングル大帝』みたいに、自由に動物と話しができるのは、とても楽しそうだし、便利だなあ、と思いますが、飼っている犬が突然喋りだしたら、都合の悪いこともあるでしょう。てっきり、じゃれついて尻尾を振っているから、喜んでいるんだろうと思っていたら、実は退屈していた、ということが分かったり、「ご飯がまずい」と文句を言われたりじゃあ、前ほど犬のことがかわいくなくなってしまうかもしれません。でも、対等な友達付き合いというのは本来そういうもの。「犬のくせにナマイキだ」とか言ってしまってはとても犬とは友達にはなれないでしょう。
H氏がサムソンからこっそり教えてもらった秘密、競馬馬の「ざっくばらんな」ホンネには、「動物と友達に」とかいう人間側の欺瞞に対する、手塚治虫の痛快な皮肉がこめられているに違いありません。