人間そっくりに変身する人形を地球に送りこみ、密かに地球侵略をしようと企む宇宙人と戦う少年の活躍を描いた地球侵略テーマのSFです。中学生の宇津木哲男、通称テッチンは、意志が弱く自己主張を持たない平凡な少年でした。その哲男が、学校の帰り道で女の子が殺されているのを発見! ところが警察に知らせに行っている間に女の子の姿は消え、代わりに道には奇妙な人形が落ちていました。哲男は、その人形を持ち帰り、壊れているところを直してやりました。すると、人形はみるみる死んでいたはずの女の子になり、自分はグランドールという人形で、哲男もそうだと告げたのです。グランドールは、最初はただの人形ですが、首をこするとみるみる人間や馬の姿になり、首に傷をつけると、ふたたび人形に戻るのです。このグランドールを地球にばらまいたのは、実は地球侵略を企む宇宙人でした。それを知った哲男は、自分もグランドールかも知れないという不安を持ちながらも、新聞記者の父や葉子と協力して、宇宙人に戦いを挑むのでした。
1968/01-1968/09 「少年ブック」(集英社) 連載
母親など親しい人間が、いつの間にかニセモノと入れ替わってしまうという、異星人による侵略の恐怖を描いたSFです。手塚治虫はこの作品以前にも、『マグマ大使』(1965-1967年)で人間モドキという姿なき侵略者を描いていますが、それをさらに発展させ、テーマの中心に据えたのがこの作品です。発想のヒントになったのは、ジャック・フィニィのSF小説「盗まれた街」(1956年)ですが、主人公自身が、自分も人形ではないかと恐れるという設定に、手塚治虫のオリジナリティがうかがえます。この作品が発表された1968年当時は、学生が思想闘争に明け暮れた学園紛争の時代でした。しかしやがて1970年代に入ると、その反動から、学生たちの間に虚無的な気分が広がりはじめます。いわゆる三無主義(無気力・無関心・無責任)の時代です。主人公が、自分もグランドールではないかという不安を抱えながらも、それをはねのけて主体性を確立するという物語は、そんな時代を先取りし、少年たちを励ます応援歌となりました。