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虫ん坊 2014年9月号 特集2:「人生の選択に悩む主人公をリアルに」 ミュージカル『虹のプレリュード』演出 上島雪夫さんインタビュー

上島雪夫さん。

 手塚治虫の短編少女漫画『虹のプレリュード』のミュージカル化が決定!
 いよいよ10月2日からの公演を控え、8月31日からチケットが発売されました。
 急死した兄に代わってワルシャワ音楽院に入学した、男装の少女、ルイズを乃木坂46の生田絵梨花さんが演じることが話題となっているこの作品について、演出を手がける上島雪夫さんにお話を伺いました。


関連情報

ネルケプランニング ミュージカル『虹のプレリュード』

 (※チケット情報もこちらでご確認ください)

※作品特設サイトなどございましたらお知らせください。
※その他関連告知情報がありましたら、掲載いたします。



●日本独自の文化としての“マンガ”

原作もミュージカル仕立てで始まります。

――「虹のプレリュード」を今回の作品として選ばれたのはなぜですか?

上島雪夫さん(以下、上島): プロデューサーの松田(誠)さんとも常々話していたのですが、日本のミュージカル作品って、ブロードウェイなどの外国の作品をもってくることが多いんですよね。
 もちろん日本独自の題材で勝負した作品もあるとは思いますが、ヒット作はブロードウェイなどですでにヒットした作品を日本語にした作品が多くなっています。そういった中で、ミュージカル化できて、現代の日本でもヒットを呼べるような日本独自の文化ってなんだろう? と考えたときに思いついたものの一つが漫画・アニメだったんです。


――上島さんは、『週刊少年ジャンプ』にて連載された人気漫画『テニスの王子様』を原作としたミュージカル(通称「テニミュ」)も手がけていますよね。

上島: ミュージカル『テニスの王子様』はおかげさまで大ヒットして、今では定期的に公演が開かれるような定番になってきました。そろそろ、次の挑戦がしたいな、と思っていたところに、それでは現在の日本漫画の源流にさかのぼって、手塚治虫作品を何か手がけてみては、ということになりました。
 いくつかのメジャー作品もあれこれ読んでみましたが、なぜか自分にヒットしたのが、この「虹のプレリュード」だったんです。舞台にした際にどんなふうになるのか、すぐに歌や踊りが頭に浮かんできました。


――どういうところに魅力を感じましたか?

上島: やっぱり、作品全体に流れる気品のあるファンタジックな雰囲気ですよね。ショパン達の時代のヨーロッパの空気が全編に満ち溢れています。
 手塚治虫先生は宝塚歌劇の大ファンだったそうですが、僕もダンスの世界に入ったのはストリートダンスからだったのに、ジャスダンスやバレエ、ミュージカルなどより華やかな世界に惹かれるようになったんです。


――ダンサー時代には、劇団四季「キャッツ」にも出演されていたそうですね。

上島: 他にも、「白鳥の湖」などのバレエ作品も踊ったことがあります。その後、振付や演出を手がけるようになり、宝塚歌劇団でのお仕事もさせてもらっています。
 ミュージカルや宝塚で描かれるようなファンタジックでデフォルメされた世界観に僕が惹かれるということもありますが、今この時代を過ごしている若い世代にとっては、辛かったり、あまりに生々しくリアリティのあるものは求められていないようにも思います。現実がただでさえハードで、様々な価値観が揺らいでいるのだから、せめて舞台上では、理想像に近いもの、ファンタジーを見せたいですね。

――一方で、手塚作品は必ずしもファンタジーばかりでもない、というところがあります。

上島: 可愛いキャラクターや親しみやすい絵の雰囲気に惑わされがちですが、手塚作品には生きるか死ぬかにかかわる問題が必ず描かれていますよね。「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」もそうですが、この「虹のプレリュード」もそこがキーポイントになっています。そして、そこにも何かの理想像があるような気がします。今回の舞台でも、そこは原作に忠実なシナリオになっています。


●ルイズに示されたもの、それはヨーゼフ、フレデリック、イワノフの『3択』!?

「“音楽”を絵にあらわすことはたいへん困難です。」と手塚治虫も書き残していますが、この作品には、音楽の視覚的表現のいろいろな挑戦が見られます。

――「虹のプレリュード」には、音楽がたくさん出てきますね。今回の舞台でも、音楽をどう表現されるのか、がとても楽しみです。

上島: 原作は優れた作品ですが、マンガという媒体は音を描くことができないじゃないですか。そういう制約の上に、なんとか「音楽」を表現しよう、として描かれたようなコマがいくつかあって、結果として、画面には音楽が溢れています。そんな原作をミュージカルにするのですから、作品のラストに登場するショパンの「革命」を筆頭に、いろいろな当時の曲を盛り込むのはもちろん、作中で歌われるオリジナルの歌には特に力を入れています。


――原作はちょっと消化不良だな、と思われるような終わり方ですが、その点はどうでしょうか。

上島: ショパンの生涯を題材にした作品といえば、「別れの曲」(ドイツ・1934年)という古い映画がありますが、「虹のプレリュード」で描かれているのは、ショパンが主人公の物語としては途中までです。この後、ショパンはフランスに渡って、男装の麗人・ジョルジュ・サンドや、リストに出会います。なぜ手塚先生はここで物語を終わらせちゃったんだろう…でももしかしたら先生はショパンだけでなく、この時代を生きた若者達を描きたかったんじゃないか、とも思います。
 本当は「ショパン三部作」みたいにするつもりだったのが事情で中断してしまったのかも知れませんが、手塚治虫のみぞ知る、ですよね。


革命を選択したヨーゼフ。自分の生活よりも何よりも、祖国を愛しています。問題意識も高く、いわゆるヒーロータイプ。

――ルイズをはじめ、それぞれのキャラクターについてどのような魅力があると思いますか?

上島: 実は僕はこのお話を読んでみて、少女漫画で女性の主人公であるルイズ側のお話というよりも、ヨーゼフやフレデリック、イワノフたち男性3人側のお話だと感じたんですよね。ですから、まず男性キャラクターから、順にお話しましょうか。
 僕自身の個人的な感覚からいくと、ヨーゼフに一番共感できますね。彼はとても自由に生きているし、一番現代的だからかも知れません。
 フレデリックはあのショパン、ということで、音楽に心身をささげた人物ですよね。音楽が出来る人って、特別なんです。他の芸能よりも、もう努力とかでどうにもならないところに、歴然と才能っていうものがあって。だから、音楽家には変人が多い、とも言いますが…。才能にあふれたフレデリックのことはちょっと羨ましくもあります。
 また、もし自分に圧倒的な才能が備わっているのなら、他にはなにもいらなくなるだろうな、と。フレデリックがまさにそうで、祖国もルイズのことも捨てて、フランスに行ってしまいます。彼は音楽の神様に愛された存在で、半分身柄を神様に預けているようなものですから、それが正しいんですよね。でも、彼は周囲の生き方を見て、価値観を揺さぶられてしまう。フレデリックの気持ちも分かるし、苦悩も分かるけど、彼にはどこか、羨ましいものを感じます。
 また、敵役のロシア将校イワノフは3人の中では一番大人なんじゃないか、と思います。冷徹で、仕事を優先するタイプですよね。愛国心で敵対するヨーゼフとは実は近いのかも知れない。彼もまたロシアを愛しているでしょうからね。


「音楽の神様に半分身柄を預けている」フレデリック。自分の芸術を守るためなら祖国をも捨てます。でも、ルイズに指摘されてグサリ。天才ゆえの悩み?

 全く違うタイプの3人ですが、自分の中には3人とも存在するような気がします。誰かに一番思い入れがあるわけでもなく、誰かを特に軽視するというわけでもありません。イワノフにさえ、なにか共感するところはあります。そういう自分をみつけて、「実は僕、保守的な人間なのかな?」と思いもしました。誰か、ロシアのツァーリでも、総理大臣でも何でもいいんですけど、強権をもった者が世の中を治めていけばよいという考え方にも、共感出来てしまうところがあります。年齢的なものもあるのかも知れませんが…。
 ルイズについて言えば、彼女は彼ら男性三人が体現している生き方のどれを選ぶか? という視点をもったキャラクターだと思っています。芸術を選ぶか、安定を選ぶか、故郷を選ぶか…、というような。結果的に彼女はヨーゼフを選びますが、ああいう、「何かのために死ぬべきだ」と考えているような、革命に身を投じるような生き方をする男性が素敵、と思う人もいるのかな。女性のみなさんには逆にそこを問いたいですね。

――原作には顔をださない、ショパンの初恋の人コンスタンティアもミュージカルでは登場しますね。彼女のような選択をする女性もいるのではないでしょうか。

上島: そうかも知れません。ルイズだけではない、もうひとりの女性の視点として、コンスタンティアという立場もありますね。それぞれの立場に自分を照らし合わせてみて、ぜひご覧になるお客様ご自身でも迷ってみてほしいと思います。


●キャストに期待すること

職務に忠実な軍人気質のイワノフの気持ちも、大人には分かるのかもしれません。ある意味、3人の中で一番大人なキャラかも!?

――主演に乃木坂46の生田絵梨花さんが起用されたことが大きな話題になっています。

上島: 若い役者を起用した意図は、決して話題づくりのためだけではなくて、若い方のほうが、役により同化してくれるかな、という期待があるからです。特に主演の生田さんは、ご自身でもピアノを弾かれ、またつい最近まで、学業を優先して芸能活動を控えていた方です。今後、どういった道を目指していくのか、まさにルイズのように岐路に立っている方ですよね。そういう方が「ルイズ」という役を演じることで、より生々しく、その迷いや苦悩が舞台に表れるんじゃないか。お客さんにも自分のこととして伝えてくださるんじゃないか、と思っています。
 たとえば、主演を大女優と言われる方にお願いして、巧みに演じていただくという方向もあるとは思いますが、今回はそういう感じじゃないな、と。だから、ルイズに道を示す男性陣も、若い方を選んでお願いしています。


ピアノを弾くルイズの姿を実際に生田絵梨花さんが舞台上で演じるところも、みどころのひとつ。

――今回は生田さんのピアノもずいぶん話題になっています。主演がピアノを弾く、という演出は珍しいのでしょうか?

上島: たしかに、宣伝としてはひとつのキーワードになると思いますが、舞台上で演者が楽器を弾く演出は、それほど珍しいことではありません。ただ、彼女が「革命」を弾くと、まるで人が変わったようになる、と聞いていますので、彼女のファンからしてみると、また別の側面を垣間見る機会ではあるでしょうね。
 ただ、やはり一番の見どころは先ほども言ったように、彼女が舞台上で、ルイズと同じ悩みを実際に悩む、というところです。これは、舞台というライブ感のある場だからこそ、より生々しく見ていただくことが出来るものだとも思っています。


ルイズの立場はうらやましいような、悩ましいような。結果、ルイズは誰の手をとるのか??

――3人の男性陣もそれぞれ、キャラクターが立っていますね。

上島: 中河内雅貴さん、中村誠治郎さん、石井一彰さんと、20代から30代にかけてのいずれもフレッシュな人で固めました。それぞれ出所は違いますが、石井君は「ミス・サイゴン」では迫力のある歌声を披露していました。
 脇を固める俳優陣も、いろいろなキャラクターをそろえました。ルーペク役の安崎求さんとか、かなり個性的な配役だと思います!


●手塚作品について

――先ほど、「鉄腕アトム」のお話もでましたが、上島さんにとっての手塚作品の想い出などを伺いたいのですが、初めて出会った手塚作品はなんでしたか?

上島: 白黒のアニメの「鉄腕アトム」でした。だって僕、東京オリンピックのころ、すでに2、3歳でしたからね(笑)。あとは、「ジャングル大帝」とか。
 アニメの「鉄腕アトム」のラストはびっくりしました。死んじゃうの? と思いましたね。泣いちゃいましたよ。
 当時の子どもにしてみたらショックですよ。他に娯楽が沢山あるわけじゃないし、「アトム」だけを毎週楽しみにしていたわけですよ。「ジャングル大帝」もそうですけど、当時の作品は必ずなにか悲劇がありますよね。手塚先生の作品のみならず、石ノ森章太郎先生の作品もそうでしたし、当時の時代性じゃないか、と思います。
 当時の漫画家たちは、いわば戦争を生き抜いているわけですよね。生きるか死ぬかの問題がいっそうリアルだったのでしょう。
 僕も、叔父は戦争に行ったりしていたので、そういう話を身近に聞くこともありましたが、そういう経験は僕の世代でぎりぎりかも知れません。


音楽の視覚的表現。「革命のエチュード」の激しさが絵で表現されています。

――では、お好きな作品、というと何でしょうか?

上島: ありきたりかも知れませんが、やっぱり「ブラック・ジャック」ですね。連載当時は小学校中学年ぐらいだったはずですが、アンチヒーローっぽい存在が当時すごく心に刺さりました。ちょうど、大人の偽善的な面を疑いだすような年頃って、あるじゃないですか。そういうときに出会ったので。世の中の裏側っていうものがあるんだ、「おれもブラック・ジャックの気持ちが分かる」と思っていました。大人になる過程で、少なからぬ影響を受けましたね。

――「ブラック・ジャック」は宝塚歌劇にもなっていますが、ご自身がかかわるなら、他にはどんな作品を手がけたいですか?

上島: やはり「火の鳥」や「ブッダ」のような大河ドラマを手がけてみたいです。以前にも舞台化されていますが、やはり、ああいう作品には、ミュージカルがぴったりだと思いますね。普通の舞台では実現できないようなファンタジックな演出も、ミュージカルなら、踊りや歌で表現が出来ると思います。


ワルシャワの夜の街の雰囲気が感じられる舞台になる、とのこと。

――最後に、今回の舞台をご覧になる方にメッセージをお願いします。

上島: 昨今だと、人間は「いかに生きるべきか」などという悩みをもつことって、なかなか少なくなっていると思いますが、そういう悩みをいままさに持っている若い人、または昔そうやって悩んだ人に響く作品になると思います。女性であったら、ルイズの立場で、誰を選ぶだろう? 男性なら自分は誰の道を進もうとするだろう? というふうにご覧になっていただけるんじゃないか、と思います。
 舞台上で役者の方にも同じようにもがいてほしいし、それはぜひ、ライブでご覧いただき、共鳴してほしいな、と思います。

――ありがとうございました!





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