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虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

 チャイコフスキーの交響曲第4番の全4楽章にあわせ、森にまつわるアニメーションが展開される「森の伝説」。
 手塚治虫によって構想され、第1楽章・第4楽章はすでに作られていながら、第2楽章・第3楽章は未完成のままとなっていました。
 手塚治虫の息子であり、ビジュアリストとして映像作品を作り続けてきた手塚眞が、父の仕事を受け継ぎ、ついに第2楽章が完成しました!
 はじめの発表から実に6年間が費やされたこの作品は、8月21日に広島国際アニメフェスティバルで初公開された後、9月5日には横浜・ブリリア ショートショートシアターで上映されることが決まっています。
 今月は、広島国際アニメーションフェスティバルのもようをご紹介するとともに、「森の伝説 第2楽章」について、総監督を務めた手塚眞から、見どころや制作裏話をご紹介します!


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■手塚治虫構想10年の大作アニメーション『森の伝説』

虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

「ぼくが十年このかた、執念深く、完成を夢見ている企画があった。
 (中略)
 ところが、虫プロがつぶれてしまい製作どころではなくなった。涙をのんで、このスタッフを解散せざるを得なくなった。
 「まことに残念です。もし機会があったらきっとみなさんを呼び集めますから、手があいてたら力を貸してください。その日までさよなら」
 といって、この企画を中止してしまったのだ。
 そのアニメのタイトルは、「森の伝説」という。」

 …と、手塚治虫も著作「見たり撮ったり写したり」で述懐している『森の伝説』。チャイコフスキーの交響曲第4番の各楽章にあわせて、ほぼセリフなしのアニメーションのみでつづられる作品となる予定でしたが、手塚治虫の手で作られたのは1987年に完成した第1楽章と第4楽章のみ、長らく未完のままとなっていた作品です。
 その、21年後。2008年、第13回広島アニメーションフェスティバルで「『森の伝説』の制作を引き継ぎたい」と宣言したとおり、今度は手塚眞によって残る第2・3楽章の制作が再開し、ついに今年、第15回広島国際アニメーションフェスティバルにて「『森の伝説』第2楽章」がお披露目となりました。


■広島国際アニメーションフェスティバル

虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

 おりしも今年は、第15回を迎える広島国際アニメーションフェスティバルも30周年になります。もともとは1985年、広島原爆投下40年の節目に広島市が企画したフェスティバルで、メインテーマは「LOVE&PEACE」。アニメーションを通じて世界平和を願うというメッセージがこめられています。
 今では世界四大アニメーションフェスティバルの一つとされ、毎年、世界中から腕によりをかけたアートアニメーションが多数出品されます。今年はなんと、2217本がエントリーし、59本がコンペティションに選出されました。
 ちなみに手塚治虫の実験アニメ「おんぼろフィルム」はその記念すべき第1回グランプリ作品です。

 フェスティバル初日、8月21日、歴代受賞作品特集で上映された「おんぼろフィルム」に続いて、「森の伝説 第2楽章」の、手塚眞監督によるトークショーつき世界プレミアが行われました。当日は入場前行列が出来るほど多くのお客様が来場しました。
 ではここで、手塚眞監督に本作について詳しく聞いてみましょう。


■手塚眞インタビュー

虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

――改めて、『森の伝説 第2楽章』について、どんな内容なのか教えてください。

手塚眞(以下、手塚): 『森の伝説』については、手塚治虫が10年間構想し、第1楽章、第4楽章を完成させながら、ついに完成に至らなかった作品、ということは皆さんすでにご存知かと思います。残る楽章の制作を私が引き継いでいこう、ということを、広島国際アニメーションフェスティバルで申し上げたのが2008年、それから6年もかかってしまいましたが、まずは第2楽章を完成させました。

 『森の伝説』については、漫画の未完成作品とちがって、詳しいシノプシスが残されており、本人の意図を保ったまま引き継ぐことができると思っております。とはいえ、百パーセント手塚治虫の考えたまま、というのも私が引き継ぐ意味もありませんし、そういう姿勢は手塚自身も望んでいないのではないか、と思いますので、手塚眞としての作家性もいくらか入った作品になっていると思います。

 特に、第2楽章は物語のシノプシスはかなり詳しく書かれてあり、「最盛期のディズニー作風の再現」というスタイルについてのコメントもありました。
 基本的なストーリーは、森の川の流れに翻弄される2匹のカゲロウのカップルの物語、という手塚治虫のシノプシスをそのまま生かし、最盛期のディズニーのマルチプレンカメラ風の技法を使い、森の緑深い風景を立体的にあらわしました。特に参考にしたのは『風車小屋のシンフォニー』という短編作品です。とはいえ、全てをディズニー風にしてしまうと手塚プロダクションで作る意味もないので、キャラクターについては新しい手塚テイストを作ろう、と考え、長年手塚プロダクションのアニメーションを手がけて下さっていた出崎統監督の右腕でもある杉野昭夫さんにお願いしました。


虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

――長い制作期間が費やされました。

手塚: 制作期間が延びたのにはいくつか理由はありますが、最盛期のディズニーが得意とした自然描写に徹底的にこだわったところがあげられます。背景、つまりアニメーションの言葉でいうところの美術を、どういう方向性にするのかは、美術を担当してくださった河野次郎さんにいくつもいろいろなテイストで絵を描いてもらい、その中で試行錯誤をしていきました。河野さんからいただいたストーリーボードに、和紙を使ってその質感を生かした絵があって、その質感がとてもよかったんですね。で、それでいこう、となったのですが、そうすると今度は、セルアニメ風のキャラクターを溶け込ませるのにまた試行錯誤がありました。

――単に、キャラクターをそのまま乗せる、という形では違和感があったのですね。

手塚: そうです。やはり質感をあわせないと、上手く溶け込んでくれないんです。それから、森の描写には光や空気感までを感じさせたいという思いもありましたので、撮影という工程でさまざまな工夫をしていただきました。
 難しい注文を聞いてくださった撮影スタジオは、T2スタジオという、ジブリ作品やエヴァンゲリオンなどの撮影も担当している実力派スタジオで、手塚プロダクションの作品でもいくつかご一緒したことがあったのですが、そのT2スタジオでもずいぶん難航し、撮影だけで2年近くかかってしまった、ということがまずあります。

――他に、苦労したところはありましたか。

手塚:  制作中に2011年の東日本大震災があったり、出崎統監督が亡くなったり、と大きな出来事があったことも、制作が遅れる原因になりました。とくに杉野さんは、出崎監督を失ったことでずいぶん心境の変化があったようです。


虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

――さまざまな試行錯誤を経る様子は、まるで森の中を探検しているようですね。

手塚: まさにそのような感じでしたね。しかしそれも、実験的なアートアニメを作るうえでの醍醐味でもあります。今回手がけてみて、水彩画の表現の深みにはまだまだ可能性がある、と感じました。今は3DCGをつかったアニメーションが幅を利かせていますが、2Dの表現にもまだまだ、その特色を生かしきれていないところが沢山あるのではないでしょうか。

――次に音楽ですが、チャイコフスキー第4番・第2楽章をどのような音楽とイメージしましたか?

手塚: 第1楽章、第4楽章と比べるとドラマに乏しいのですが、物悲しく、美しい曲だと思います。盛り上がりには欠けるのですが、詩情には溢れていますね。チャイコフスキーは「一日の働きを終えた農夫の疲れた心情」というようなことを書き残しています。
 手塚治虫のシノプシスからも、自然への悲哀であったり、生き物としての業のようなものをあらわしたかったのではないか、と思います。生きるものは皆死ななければならないということの悲哀や、そういう自然の寂しい美しさを感じさせます。
 ただ、手塚作品に共通して言えるのは、どんな悲劇を描いても、どこかに希望を残しておくんですね。この作品でも、死の匂いの先に、ポシティブな結末があります。


虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

――音楽は先行する第1楽章・第4楽章と違和感なくつながるのでしょうか? そうなるために何か工夫はされましたか?

手塚: 手塚治虫が『森の伝説』を作った際に、全楽章の音源を録音していたなら、それを使いたいところですが、第2・第3楽章は録っていなかったのが惜しいところです。もう一度新たに録音することができず、第1楽章・第4楽章と同じ指揮者・オーケストラの同時代の演奏を音源に使いました。それほど違和感はないと思っています。

――残すところあと、第3楽章のみとなりました。第3楽章はかなり実験的な映像になる、ということですが。

手塚: 手塚治虫のメモによれば、マクラレン風のアニメーション、ということですが、思い切ってがらっと作り方を変えたい、と思っています。物語があまりない、視覚的なアニメーションは私の得意な分野でもあるので、思い切り私の作家性を出す作品にしたいですね。第3楽章では、アニメーションの未来をも感じさせるような、最先端のアニメーションも見せたかったのではないか、と思っていますので、ぜひ、日本の最先端のアニメ作家の方に何人か関わっていただき、現在の、さらに未来のアニメーションのようなものを作ってみたいと思っています。『森の伝説』の中では、もっとも作家性が際立ったパートになろうかと思います。

 次の広島のアニメフェスティバルに間に合わせるように、なんとか2年で作りたい、とは思っています。


虫ん坊 2014年9月号 特集1:ついに完成! 「森の伝説 第2楽章」 手塚眞インタビュー

――さまざまな分野でクリエイターとして活躍されていますが、作っていく原動力のようなものはいったい何なのでしょうか?

手塚: 若い頃からずっと、作り続けていないと死んでしまうような思いがあるんです。泳ぎ続けなければならない魚のような感じで、作り続けていないとだめ、というような、常にせっぱつまった感じですね。ものづくりはエネルギーを消耗しますし、ストレスもかかりますから、それを発散するために今度は違うジャンルのものづくりをすることで、そういうストレスを解消する、というように、常に何かを作り続けています。
 映像作品は、形が残ってくれるからいいですね。時折、過去の自分の作品を見てみることもあるのですが、当時の自分を客観的に見ることができます。作りたての作品だと、まだあらばかりが目についてしまいますが…。
 自分が求めているものはシンプルで大きなものだ、と思うのです。それがみつからないと、小さいアイディアを詰め込みすぎて、分かりにくくなってしまいます。手塚治虫という人は大きなアイディアを見つけるコツを知っている人だったんじゃないかと思います。たとえば『鉄腕アトム』は10万馬力のロボット少年、というとてもシンプルでインパクトのある大きなアイディアから始まっていて、それが全てですよね。そういう、シンプルかつ面白いアイディアの見つけ方というのは、ひとりひとりのクリエイターがそれぞれ、何か方法をもっているんだと思うのですが、私は自分なりのその方法を今でも模索しています。

――『森の伝説 第2楽章』についてなにかメッセージがありましたら、お願いします。

手塚: 『森の伝説』は、手塚治虫がプライベートに続けていた短編アニメのひとつです。手塚アニメの原点、「手塚らしさ」が随所に感じられる映画となっていると思いますので、ぜひご覧ください。それで、ご覧いただいたらぜひ、感想をいただけるとうれしいです。

――ありがとうございました!


■告知

 『森の伝説 第2楽章』は、広島国際アニメーションフェスティバルで上映された後、横浜・ショートフィルム専門映画館ブリリア ショートショートシアターにて上映予定です! 
 詳細は以下のリンク先をご覧ください。
 http://tezukaosamu.net/jp/news/n_1491.html






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