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虫ん坊 2013年5月号 特集1:『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』3巻発売記念! 漫画 吉本浩二さん・原作 宮崎克さんインタビュー!

『ブラック・ジャック』の時代を中心に、手塚治虫の仕事ぶりや周辺の人々の悲喜こもごもを描いたノンフィクション漫画『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』。伝記的な手塚治虫伝ではなく、どこかほのぼのした吉本浩二さんの絵柄と、インタビューなどの取材に基づいた宮崎克さんの原作で描かれるイキイキとした手塚先生の姿が印象的です。初めは一話完結の予定だったというこの作品も、4月8日に第3巻が発売され、ますます勢いに乗っています! 一昨年の手塚治虫ファン大会では、ゲストとしてトークショーも開催されましたので、そちらをご記憶のかたも多いのでは。
 今月の虫ん坊では、改めてお二人にインタビューし、『ブラック・ジャック創作秘話』創作秘話を聞き出したいと思います!

 関連情報:

秋田書店

『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』 第3巻

 プレゼント!

今回も、吉本浩二先生に色紙を描いていただきました! 読者の皆様から1名様に抽選でプレゼントいたします!
ご希望の方は、tezukaosamu-net-guide@tezuka.co.jpまで、●お名前 ●ご住所 ●お電話番号 をご記入の上、メールにてご応募ください! なお、今回の締め切りは5月31日(金)です!


吉本浩二さんインタビュー 宮崎克さんインタビュー



●企画のきっかけについて

マンガ家・吉本浩二さん。

吉本浩二さん(以下、吉本): もともとは、2009年、手塚治虫先生の生誕80周年と、『週刊少年チャンピオン』創刊40周年を記念した企画で、『ブラック・ジャック』特集号を作る時に、記念企画の一つとして手塚先生の伝記的なマンガを提案されたのが始めです。
 企画は今の「週刊少年チャンピオン」編集長が以前からあたためていたものだそうです。秋田書店の上司や先輩から聞かされた、手塚先生と『ブラック・ジャック』にまつわる興味深いエピソードは漫画になるのではないかと。
 手塚先生のチーフアシスタントを長年務めていらっしゃった福元一義さんが出された『手塚先生、締め切り過ぎてます!』(集英社新書)という本があって、まずは福元さんへの取材から始めました。
 僕がマンガを担当することになったのは、編集さんが僕の作品『昭和の中坊』をご存知で、あの雰囲気で手塚先生の仕事ぶりを描いたら面白いんじゃないか、とアイディアを出してくださったんです。
 僕としては、初めお話を伺った時には、とても驚きましたし、僕なんかが描いていいのか……!? とうろたえました。だって、今の日本の漫画を作った人ですから。そんなわけで、初めは断ろうと思っていたのですが、「手塚先生のチーフアシスタントの、福元さんのお話が聞けますよ」という編集さんの言葉に心を動かされました。こんな貴重な体験は、これを逃したら出来ないだろうな、と思いまして……。


●初めは読み切り企画でした。

吉本: 先ほど申し上げたように、実はこの作品は1回読み切りの予定でした。福元さんのお話を元に、当時マネージャーをされていた手塚プロダクションの松谷孝征社長、担当編集者だった秋田書店の青木和夫さんにお話しを伺って行きました。第1話「壁の穴」がそうですね。


●取材について

『ブラック・ジャック創作秘話』の発想のもととなった福元一義さんの『手塚先生、締め切り過ぎてます!』。

吉本: インタビュー取材は、基本的には、原作の宮崎さんが質問をして、インタビューを受けてくださる方がそれに答える、という形で行いました。僕は、最後にまとめて、気になることをいくつか聞く感じで……。
 僕が必ず確認していたことは、当時の服装や髪型、部屋の間取りなどですね。特に服装は、絵を描くにあたってその人の雰囲気の決め手になりますので、細かく確認するようにしていました。
 インタビュー中は、こういうとなんかキザっぽいですけど、答えていらっしゃる顔の表情などをなるべく注意深く見るようにしていましたね。そうすることで、どのエピソードが一番印象に残っているのか、話したいと思っているのか、が分かるような気がして。皆さん、手塚先生とのエピソードをお話しされるときは、すごく嬉しそうというか、とてもいい表情になるんですよね。本当に大切な思い出を話しているんだな、と思いました。
 絵に描かせていただく時も、そうしてお話しされている時の顔をよく観察しておいたほうが、ただ写真だけで描くよりも良い感じの絵が描けるように思います。
 ご存命ではない手塚先生のキャラクターをどう描くか、については、やはり写真を見たり、直接のお知り合いの方に細かく聞いたりしました。福元さんの取材の終わり際に、絵を描く時の参考にしようと思って聞いたんです。「描いている時の手塚先生はどんな格好をしてたんですか?やはりジャケットを着てベレー帽をかぶっているんでしょうか?」と。すると福元さんの「ランニングに鉢巻き」「肉体労働者のように」「目で喰らうように描いていた」という答えがありまして。今思えばこの時に、自分の描くべき手塚先生のキャラクターがつかめたような気がします。その後観たNHKのドキュメンタリー番組『手塚治虫創作の秘密』で撮られた密着取材の様子も大変参考になりました。
 壁村編集長のキャラクターについては、今の編集長が入社した頃の編集長、ということでしたので、随分お話を参考にさせていただきました。あとは、松谷社長の証言ですね。あるシーンで、お酒を飲んでいる壁村編集長を描いたのですが、ラフを見ていただいたところ「カベさんはこんなにぐでんぐでんに酔っ払わないよ」とおっしゃって、直したりしています。
 どうしても僕達は、キャラクターに定形的な演技を付けてしまうことがあるんですよね。そういうところは証言に忠実に、直したりしています。
 反対に漫画的なオーバーな演出なんかは、皆さん寛容に受け入れてくださいました。スヌーズ機能付きの目覚まし時計のお話で、手塚先生がしつこく三浦みつるさんに「スヌーズ」の意味を訪ねるシーンなども。三浦さん、本当にあの時涙ぐんだ、っておっしゃっていました。


●『ブラック・ジャック創作秘話』の中で特にお気に入りのエピソードは?

三浦先生、本当に思わず涙ぐんだそうです

吉本: そうですね……。どれも印象深いお話だったんですが、言うとしたら、1巻の第5話で登場した三船毅志さんや、2巻の第9話の河合竜さんのような、今はマンガやアニメの現場にいらっしゃるわけではないけれども、手塚先生と過ごした時間がご自身のかけがえのない宝物になっている、という方のお話が好きで、もっとこういうお話をたくさん聞きたいな、と思いました。


●マンガの仕事をするようになったのは

虫プロダクションOB、河合竜さんのエピソードより。

吉本: もともと、10代のころからマンガを描きたいな、と思っていましたが、大学は愛知県の日本福祉大学という福祉を専攻する大学に行き、就職は東京のテレビ制作会社に就職しました。出身は富山県です。
 マンガ家へのあこがれは、同じ富山出身の藤子不二雄先生の影響が大きいと思います。手塚先生については、尊敬する藤子先生がさらに尊敬する先生、ということで、まさに雲の上の人、というイメージですね。
 テレビ制作会社には1年間いましたが、業務内容はアシスタントディレクターというか、複数の人とコミュニケーションを取って、まとめていくような仕事でした。今マンガ家をやっているぐらいですから、そういった仕事はそれほど得意ではなくて……。撮影前に絵コンテを作るんですが、そういうのが苦手な先輩の仕事を手伝ったりしていましたね。そういうことをしているうちに、マンガ家になりたい、という思いが強くなって来まして。上司に相談したら、怒られましたけど(笑)。
 どなたに師事したかと言えば、まず、青木雄二先生の『ナニワ金融道』を読んで、絵柄や世界観に感銘を受けて、僕なりにいろいろ取り入れたところがあります。そこから、青木先生原案の『こまねずみ出世道』のお仕事をいただいたり……。
 あと、『へうげもの』の山田芳裕先生のところで一年間アシスタントをさせていただいたことが大変勉強になりました。カケアミのかけ方や、コマ割り、表情の付け方などには、影響を受けていると思います。
 マンガを描いていて楽しいことは、やっぱり、読者の方などに感想で「面白かったです!」と言っていただいた時です。担当の編集さんに見せた時に、駄目出しされずにすっと通ったときも、「やったぜ!」と思います。
 いろいろな仕事をしてみて、僕にはやっぱり、ノンフィクションマンガが向いてるんじゃないかな、と思い始めています。東日本大震災の後、三陸鉄道を取材させていただいた『さんてつ』は、取材も僕がしましたが、実話に基づくお話のほうが描きやすいんじゃないかと……。
 憧れの漫画の仕事をしてはいますが、僕自身は、なるべく特別な仕事をしている、と思わないように心がけています。普通にサラリーマンをされている方とか、商店を営んでいる方と同じなんだ、と……。地に足をつけて、これからも仕事を続けていきたいです。


●手塚作品について

この背景の効果線は手塚先生からの影響とのこと。

吉本: 僕は先にアニメから入ったんだと思います。『鉄腕アトム』などをアニメで見ていましたね。小学校の図書館にも、『火の鳥』が揃っていたりして、そこから入りました。小学校2、3年ぐらいの時に、兄が『ブラック・ジャック』の22巻を買ってきて、何度も読んだのが思い出に残っています。
 さきほどもちょっと話しましたが、僕は『まんが道』がすごく好きで、藤子先生を尊敬していましたので、手塚先生はその藤子先生が憧れるすごい先生、という感じで。
 このお仕事をするために、改めていろいろな作品を読み返しました。『ブラック・ジャック』はもちろん全話読み返しましたし、今回初めて読んだ作品もいくつかありました。『奇子』なんかはその中の一つですね。学生時代にコミックスで読んでいたと思うのですが、今読むとまた全然印象が違います。
 松谷社長が編集者時代、初めての手塚番で担当されたという、『ペーター・キュルテンの記録』という作品は、特に衝撃を受けました。『アトム』のような児童漫画を描いているマンガ家が、こんなシリアスな、大人向けのマンガも描いている、って今じゃちょっと考えられないですよね! 手塚先生の幅の広さを改めて感じました。有名な名言で、「アイディアはバーゲンセールするほどある」とおっしゃるとおり、本当に、描こうと思えばなんでも描けたんだな、って……。
 『ブラック・ジャック創作秘話』で手塚先生のことをいろいろ調べていくうちに、僕自身の絵にもいろんな影響をいただきました。例えば、この、点線をつかった効果線(図)などは、手塚先生がブラック・ジャックで使われていたものから影響を受けました。手塚先生はすごく細かいところまで、手描きで丁寧に描かれているんですよね。
 『創作秘話』でも紹介しましたが、常時7、8人ぐらいのアシスタントの手が入っているはずなのに、線に違いが殆ど無い、というのもすごいことだと思います。他の作家さんだとたまに、「あ、ここはアシスタントさんの線だな」って分かるようなところもあるのですが、手塚先生の作品は本当に、全部先生が描いたように見えちゃうんですよね。本人が納得行くまでチェックして「マル出し」したこともあるでしょうし、多分、そうやって線を統一するノウハウを独自に開発されていたんだと思うんです。


●好きな手塚キャラクター

吉本: 好きなキャラクター、というとちょっとむずかしいのですが、ブラック・ジャックはすごいデザインのキャラクターだと思います。まず、顔に向こう傷があるなんて、少年誌でやるのはとても勇気がいることですよ! 今でも多分、なかなかできないと思います。
 それから、このマント姿ですが、思い切ってベタ一色ですよね。つい、袖のラインを白で抜いたり、身体のラインにトーンを貼ったりしてしまうのですが、そういうのは一切やられていない。袖なんかかなりデフォルメして細めにたなびいていたりして、なんともカッコイイですよね。どういうところから、こんなキャラクターが発想できたのかなあ……。そのあたりを、今後取材してみたいです。
 ベタといえば、手塚先生のマンガって、ベタの量というか、バランスが絶妙ですよね。ページ全体でも、コマでもちょうどいい量で……。なんだか改めて言うのも何ですが、すごい人だったんだな、と思います。


●さいごに

吉本: 『ブラック・ジャック創作秘話』では、手塚先生の人間臭いところを浮き彫りにしていますが、やっぱり最終的には、一人の男として、尊敬すべき、かっこ良さを感じました。無茶なわがままを言って、周りの人にもたくさん、迷惑をかけているんだけれども、自分がいちばん、無茶をして、最前線で頑張っている。だからこそ無茶なわがままを言えるのでしょう。僕も今はアシスタントさんを使う立場に居て、たまにいろいろ、注文をつけたりしますが、言うのであればまず自分が率先してやっていかなくちゃいけないですね。
 人間、つい楽をしたくなることもありますけれども、この手塚先生の姿は、常に自分のお手本にしたいな、と思います。
 手塚先生のお話を聞けば聞くほど、マンガ家も、というか、マンガ家こそ、汗をたくさんかかなくてはならない職業なんだ、と改めて肝に命じました。
 今後、テレビドラマ化が予定されていて、放送に合わせて雑誌に掲載するために準備しているところです。これからも手塚先生のマル秘話をマンガでご紹介していきますので、よろしくお願いします! 

(C)Masaru Miyzaki/Koji Yoshimoto 2013




吉本浩二さんインタビュー 宮崎克さんインタビュー



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