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虫ん坊 2013年5月号 特集2:共同制作アニメ『ガロン』完成記者発表 レポート

虫ん坊 2013年5月号 特集2:共同制作アニメ『ガロン』完成記者発表 レポート

 大阪・南河内に本部キャンパスを置く、大阪芸術大学のキャラクター造形学科と手塚プロダクションが産学協同事業として新作アニメを制作しました! 主要スタッフには虫プロダクション出身のアニメーターで、テレビアニメシリーズ『火の鳥』で監督も務めた高橋良輔さんをプロデューサー、同じく虫プロダクション出身のアニメーターで、『あしたのジョー』などの演出を手がけた吉川惣司さんを監督に迎えて制作されたこのアニメーション、タイトルは『ガロン』。タイトルの通り、手塚治虫の漫画『魔神ガロン』を原作としています。
 今月の虫ん坊では、同学で行われた完成記者会見のもようをレポートします!





関連情報:

大阪芸術大学

手塚治虫の名作キャラクターを大阪芸術大学がアニメ化! 大阪芸術大学キャラクター造形学科×手塚プロダクション 共同制作アニメ『ガロン』



◆産学協同制作アニメーション『ガロン』

虫ん坊 2013年5月号 特集2:共同制作アニメ『ガロン』完成記者発表 レポート

記者会見には、大阪芸術大学キャラクター造形学科学科長・里中満智子さん、同学教授で『ガロン』のプロデューサーを務めた高橋良輔さん、製作総指揮・同学事務局長・新原雄二さん、手塚治虫記念館を代表して、宝塚市・産業文化部たからのまち創造室室長・土屋智子さん、手塚プロダクションからは、著作権事業局局長 清水義裕が登壇しました。

 本編の長さは22分。宇宙の彼方からやってきた巨人ロボット・ガロンと、その『制御装置』ともいうべき少年・ピックという設定はそのままに、ストーリー、登場人物共にオリジナルに作られた新作です。
 大阪芸術大学の教材用に作られた本作品ですが、現在、宝塚市手塚治虫記念館・アトムシアターで、4月27日(土)から5月14日まで、期間限定で見ることができます。
 記者会見の冒頭でも、作品のダイジェスト映像が披露されました。
 各登壇者からの『ガロン』に関するコメントを紹介します!


里中満智子さん(大阪芸術大学キャラクター造形学科・学科長):

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 キャラクター造形学科の中では、キャラクターを作ることのみならず、ストーリーの組み立て方やシナリオの作り方など、表現力を高める・発想力を鍛えるということを主眼に日々、取り組んでもらっています。
 そんな中、アニメーションについては、学生たちの作る作品と言えばアートアニメや、短編がせいぜいなのですが、常より思い切って、エンターテイメント追求した作品づくりを通じて、鍛えられながら実践を鍛えるような取り組みができないか、と希望しておりました。今回手塚プロダクションの協力によって、このような作品を制作することができ、とても嬉しく思っております。画期的な試みだと思いますので、ぜひご注目いただきたいと思っております。また、若い方々に夢を与えるきっかけになれば嬉しいと思っています。


高橋良輔さん(同・キャラクター造形学科教授・本作プロデューサー):

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 学科長からのお話しにもありましたように、本学の学生たちは皆、創作意欲にあふれていますので、アート系のアニメーションであれば、彼らはすでに自主的に作ることができるのですが、やはり日本でアニメーションというと、テレビにしろ映画にしろ、エンターテイメント作品が主流です。そのエンターテイメントアニメーションの制作について、なんとか学生にわかりやすいように手ほどき出来ないか、というご相談を受けまして、いろいろな方法を模索しておりました。
 私自身がアニメーションの世界に初めて足を踏み入れたのが、虫プロダクションという場所で、手塚治虫先生とともにアニメを作る工程に身を置くことで、それを教材としてノウハウを身に付けていきました。
 これと同じ事が学校という場で出来ないか、ということで、手塚プロダクションに相談をしました。そこで出てきたのが、大学と一緒にアニメーションを作って、その製作工程いっさいを学生にわかりやすいように教材として提供する、というのはどうであろう、という提案を受けました。
 昨日も私の一年生の授業で、黒板をつかってワークフローを説明したのですが、このままでは学生たちにも印象に残りにくいのではないか、と思っていますが、今回はこの『ガロン』の企画書が存在しますから、この企画書に合わせて、例えばキャラクター開発であれば、どこから出発し、どういう形に着地したのか、を実際の教材に基づいて学ぶことができるわけです。シナリオも初校から決定稿までのすべてのバージョン、そこからの絵コンテにしても決定稿までの中間生成物が全部揃っています。そういう実物を学生の前に見せながら説明すると、はるかに血肉になると思ったわけです。
 作品は手塚治虫記念館で一般の方々にも公開されます。そちらの反応が楽しみでもあります。
 普段であれば私は、アニメーションの監督を務めることが多いのですが、今回はプロデューサーという形で関わらせて頂きました。どうぞよろしくお願い致します。


清水義裕(手塚プロダクション 著作権事業局長):

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 鉄腕アトム放送五十周年というのは、実は、日本のテレビアニメ開始五十周年と重なります。現在の日本でスタンダードとなっている、三十分のテレビアニメシリーズは、1963年1月1日、鉄腕アトムの放送で始まりました。
 現在では、毎週80本ぐらいのアニメーションが作られているところから考えると意外なことかもしれませんが、当時、30分のアニメーションを作るということは誰も考えなかったことです。当時のアニメーションといえば、ディズニーが得意としていましたが、90分ぐらいの作品に、10万枚ぐらいの枚数が必要でした。それを30分にすると、3万枚もの絵を描かなければならない。毎週のテレビ番組としてはアニメーションは不適切だと考えられていました。そこに、手塚治虫が主催し、高橋良輔さんも籍を置いた虫プロダクションは果敢にチャレンジし、当時、2000枚以内で30分のアニメーションを作る手法を開発しました。
 もちろん動きは犠牲になり、その分ストーリーで見せるものにはなりましたが、そのストーリー重視のアニメーションが50年培われ、欧米の、動きの面白さで見せるアニメーションの主流とは別に、世界中でハイティーンや大人にも訴求する力を培ってきました。
 日本にはアニメーションを教える学校が沢山あり、それぞれテレビアニメを教えます、と看板に掲げられているものと思いますが、なかなか、業界側からはどのような人材が必要か、というメッセージを学校側に正しく提案をする余裕がありませんでした。そのような中、大阪芸術大学様からお話しをいただいた時には、非常に良い話だと思いました。かつて、虫プロダクションで手塚治虫を初めとした若者たちが切磋琢磨し、どうやって2000枚でアニメーションを作るかを苦心したように、ここに提供しました、TVアニメーションを想定した素材を、『解体新書』のように扱っていただいて、TVアニメーションというものは、こういう形でできているんだ、というところを是非学んでほしいと思います。そうして学んで頂いた方に、日本のアニメーション業界に入っていただいて、アニメ産業の未来を支えていく人材になっていただきたい、と思っています。


◆作品について

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高橋良輔さん(以下、高橋): 私がオリジナルのアニメーションを作る際には、ロボットを物語の中心に置く、いわゆるロボット物を得意としております。ロボットを物語の中心に据えると、物語が作りやすいんです。ところが、現在のテレビアニメ業界では、ロボット物は大きないくつかのタイトルを別に、随分下火になってしまいました。日本人はロボットが非常に好きなんですが、ロボットに対する創作的な豊かさや、可能性が見えにくくなっています。
 ロボット物のアニメの中では、主役のロボット役割が何か、が作品の中心にあるわけですが、今までに無い新しいロボットの役割を探しあぐねているところでした。僕はアイディアに困ったときには、手塚原作に戻ってみる、ということをしていますが、というのも手塚先生の作品には、現在に通用するアイディアが描き尽くされているように思うからです。手塚治虫のマンガを原作に、現在向けにどのような味付けをしていくか、というふうに考えていきますと、新しいアイディアを得ることができます。その中で今回は、このガロンという存在が、今の私には非常に魅力的に見えたんですね。
 ガロンは、謎に満ちています。宇宙の彼方から飛来してきたロボットです。漫画の中では、惑星のテラフォーミング用のロボットではないか、と説明をされていますが、それもどうも証明されているわけではない。そのガロンが何のためのロボットなのか、ということを探っていくうちに、新しいロボット物の方向性が見えてくるのではないか、と感じました。
 手塚作品のみならず、過去に様々なロボットをめぐる物語が描かれましたが、私にとって一番強そうだと思わせるロボットがまさにガロンでした。力の限界が分かりません。この力というものも、有用なものもあれば、恐ろしいものもある。今回の作品では、そんなガロンの存在を自然のもつ力や脅威にかなりだぶらせて描いています。
 自然の脅威といえば、つい2年半前の東日本大震災を思い起こしますが、反対に、私達が受けている恩恵のほとんどもまた、自然からのものです。自然の強さ・怖さ、あるいは恵み深さのようなものを、ガロンという謎のロボットにだぶらせて作品を作るということで、新しいロボット物の提案をできるのではないか、ということをスタッフや学生と話しながら模索していきました。
 本学の教室の中でも、学生たちにこのガロンというロボットを思い思いに描いてもらいました。とてつもない強い力を持っていて、用い方に寄っては、害にもなるし恵みにもなる、というキャラクターの性格を説明したところ、実に様々なガロン像が生み出されました。そのような実践から、私達も新しい方向性が打ち出せたらいいな、新しい作り手が成長してくれば良いな、と思いながら去年1年間、制作に携わってきました。


◆質疑応答

虫ん坊 2013年5月号 特集2:共同制作アニメ『ガロン』完成記者発表 レポート

フォトセッションには手塚プロダクション社長・松谷孝征も加わりました。

Q:制作に学生さんが関わっていらっしゃるということですが

高橋: ガロンのアイディアを出した学生は、キャラクター造形学科の学生で、150人ぐらいいると思います。企画の段階で、思い思いにアイディアを出して貰いました。実際の制作には学生はタッチしておらず、すべて手塚プロダクションが手がけました。
 なぜ学生に制作まで関わってもらわなかったかといいますのは、この作品はお手本の意味合いが大きいということと、実際に学生が作画などに関わるとなると、制作にもっと時間がかかると思います。

Q:アニメ化にあたってこだわった点はありますか?

高橋: 私自身は、ガロンという存在にこだわりました。現在までにアニメーション作品で描かれてきた巨大ロボットたちは、たとえば『鉄人28号』にしろ『マジンガーZ』にしろ、『ガンダム』にしろ、いわば兵器として、人間が操縦する形のロボットという概念で止まっていました。ところがガロンには、操縦者はいないわけです。ガロン自身の意志というのも、どこにあるのかよくわかりません。代わりに、ピックという少年がガロンの胸の中に入ることで、その行動が穏やかになります。ピックを取り上げられると、ガロンはピックを求めて一転、破壊的な行動を取るようになる。
 人間などによって操縦されるロボットでもなく、自ら意思を持つロボットでもない、このガロンのような性格のロボットは、今後のロボット物の新しい切り口になりうる要素があるのではないか、と思っています。この一本を見てもガロンの正体は分かりませんが、これが出発点となって、『ガロン』という存在を考えるシリーズも出来うるのではないか、とおもいます。


 この『ガロン』ですが、現在のところ大阪芸術大学以外の場所で見られるのは、宝塚市立手塚治虫記念館のみになっています。
 手塚治虫記念館での上映は、4月27日から5月14日まで。アトムビジョンで見られます。



(C)学校法人塚本学院 大阪芸術大学/手塚プロダクション






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