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虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

 10月29日から宝塚の手塚治虫記念館で開催されている「星新一ほし しんいち」展。日本のショートショートのパイオニア、星新一さんにスポットライトを当てるこの展覧会、サブタイトル「2人のパイオニア」に現されるとおり、ストーリーマンガのパイオニア、手塚治虫との意外な共通点を探る、というものです。


 今月の「虫ん坊」では、そんな星新一さんの娘さんで、現在、星ライブラリの代表を務めていらっしゃいます星マリナさんにインタビューしました!
 展覧会とあわせて、ご覧ください!



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企画展「星新一展 〜2人のパイオニア〜」開催



—— コレクション品や作品の印象からすると、おしゃれで軽快な人物像が浮かんできますが、家族という、一番身近な立場からご覧になった星新一とは? 作品を読む読者からは見えない、意外な一面、というものはあったのでしょうか? 具体的なエピソードがありましたら、それも交えて教えてください。

虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

星マリナさん。ハワイの自宅にて

 家での父は、一言でいうと「半透明な人」ですかね(笑)。家が仕事場で、創造および想像の場だったので、肉体的には存在しているけど、意識は常にどこか、未来とか異次元に飛んでいるわけですよ。だから、いるけどいない。
 ソファに横になっているのは抜け殻で、本人は宇宙に行っていたんだと言われたら、そうだったのか、と納得してしまう、そんな感じです。


虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

星新一さん、ファンの集いにて。写真提供:古川伸一(エヌ氏の会)

—— お父様についての一番古い記憶はなんですか?

 戸越銀座とごしぎんざの商店街を一緒に歩いているところ、かな。4時になると歩行者天国になるので、父が買い物に行くんですが、それについていくわけです。お菓子屋、おもちゃ屋、文房具屋などに、よく行きました。
 そうそう、ある日、駅の近くに、おせんべいの専門店ができたんですよ。父はおせんべいが好きなので入ってみたら、お店のおじさんが手塚さんそっくりだったんです! ベレー帽をかぶって黒いメガネをかけて、年齢や背の高さも同じくらいだったと思うんですが。お店を出てから、「あのおじさん、手塚さんに似ているね。ファンなのかな」という話をしたのを覚えています。
 父はその後も、引っ越すまでずっとそのお店に通っていました。そのお店、今はもうないみたいですけど。


—— 今回の展覧会では、星新一氏の愛用品など、星ライブラリのご協力による展示品を多数展示しておりますが、とりわけ見所と思われるのはどの展示品だと思いますか? 他ならない家族の遺品でもあると思いますが、星マリナさんにとっても思い入れの深い一品などありましたら、その品物にまつわるエピソードなどもまじえて、教えてください。

 父が旅先で買った小物をたくさん並べて展示するのですが、これは今春の世田谷文学館での星新一展の際にはまだ遺品整理の終わっていなかったもので、今回初公開です。
 どれも、ものすごく小さいんですが、実際の建物、動物、人間などを頭の中でこれぐらい小さく縮めたら、地球や宇宙の全体像が見えるのかもしれません。


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今回の展示品のひとつ。テディベアはコレクションから、帽子は星新一さん愛用品。

虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

少年時代の星新一さん。


—— 「手塚治虫」については、どういう印象をおもちでしょうか? あの作品は読んだ/好きだ、など、個人的な体験がもしありましたら教えてください。

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「W3」より 星光一&真一。星新一さんの名前にちなんで生まれたキャラクターたち。真一の足元に走るのがウサギのボッコ。


(※本原画は企画展には展示されていません)

 中学生の頃に読んで夢中になったのは、「ブラック・ジャック」「火の鳥」「鳥人大系」ですね。その前は、テレビで観ていた「リボンの騎士」や「鉄腕アトム」です。
 「ブラック・ジャック」は、家族が読めるように、今英語版を買いそろえているところです。夫も子供たちも日本語が読めないので。「ブッダ」「MW」などは、私も最初から英語で読みました。ハワイの本屋で、手塚漫画の英語版を普通に買えるのはすごいことだと思います。
 一番好きなのは、星真一の出てくる「W3」ですね。お兄さんの星光一が、手塚さんご本人なのではないかと思うので、私の中では手塚治虫=星光一です。漫画家はカバーで、本当は「人類の平和のために戦う人」なんですよ。


—— 手塚治虫本人に会ったことはありますか?

 残念ながら、手塚さんにちゃんとお会いしたことはないです。
 でも、大学を出て働いていたときに、お昼に立ち寄ったレストランで手塚さんをお見かけしたことがあるんです。両側に10人ずつくらい並んだ長いテーブルのはじに、手塚さんが立ってスピーチをしていました。あいさつしに行ってみようかなと思ったのですが勇気がなく、それに、前述のように手塚さんにそっくりな人(おせんべい屋のおじさん)を知っていたので、その人もそっくりさんじゃないかと思ってしまったのです(笑)。
 家に帰ってから父に話したら、「きっと何かの会合だったんでしょ。あいさつしてみればよかったのに」と言われました。「そっくりさんなんて、そんなやたらにいないだろう」って。
 そのあと1、2年して手塚さんが亡くなられたので、すごく後悔しています。


—— 星新一の娘ということで、あえて反発をしていたり、違う道を行こう、と思っていたりするところはありますか?

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「ボッコちゃん」を発表したころの星新一さん。

 父の影響のまったくないところで認められるのは、やっぱり10倍くらいうれしいですよ。サーフィンの大会に出ていた頃も、「今日優勝したのは、星新一の娘であることとは何の関係もないのだ」と思うと、達成感が全然違いました。
 でも、常にそれを意識していたわけでも反発していたわけでもなく、単に自分の好きなことをしていただけです。
 サーフィンも気がすむまでやったし、長男が大学生、長女がハイスクール11年生(高2)になって子育ても納得いくまでできたので、もう自分のことはどうでもいいという心境になりました。星新一の娘として生きてみようと、今は思います。もう47歳なんですけど(笑)。


—— ご自身が、文筆業を志したきっかけは何ですか?

虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

家族一緒に。星新一さんの前が星マリナさん。左端がマリナさんの姉のユリカさん。右は従妹。帽子をかぶっているのは、従兄です。

 私がサーフィンを始めた頃、サーフィンのジャーナリストというのはいたんですが、エッセイストというのはいなかったんです。サーフィンについて書くには、記者の目で「サーフィンを極めた人」について書くというのが主流でした。でも私は、もっと発展途上の普通の人が、海に行って日々感じることを書いたっていいんじゃないかと思ったのがきっかけです。
 今は、自分の文章を書くことより父の作品を英訳することに興味があります。これも、英語圏の出版社やプロの翻訳家から話が来なくても、自分で訳せばいいんじゃないかと単純に思ったわけです。
 英訳したものは、オーディオブックになったものもあり、NHKの番組を国際エミー賞にエントリーする際の字幕監修にも役立ちました。今、著作権管理の仕事が忙しくて英訳の時間がなかなか取れないのですが、がんばってつづけたいです。


—— 星新一展を楽しみにしている/見に行くファンに向けて、一言お願いいたします。「どんなことに注目してほしいか?」「こんなメッセージをこめた」などもしありましたら、教えてください。

虫ん坊 2010年11月号 特集1 「星新一展開催記念 星 マリナさんインタビュー!」

大阪万博にて。右端がマリナさん、中央が姉のユリカさん。

 第1回日本SF大会(1962年)の貴重な資料を、柴野拓美しばのたくみさんのご遺族からお借りできました。中でも、若い手塚さんと父が一緒にジュースを配っている映像が、私は一番好きです。
 ふたりの頭の中には、50年後の日本のイメージがつまっていたと思うのですが、白黒の8ミリの中で動くふたりと、その50年後からふたりを見つめている私たちと、どっちがほんと? みたいなSF感覚が味わえます(笑)。
 また、そのときのインタビューで手塚さんは、「SFには人間本来の夢がひそんでいる」と話されています。
 SFを通して、よりよい未来を夢見てきた手塚治虫と星新一。ふたりのメッセージが、100年後、200年後の人たちにも届くといいなと思っています。



 星マリナさん、お忙しいところ、素敵なお話をありがとうございました!


 なお、手塚治虫記念館で開催中の「星新一展 〜2人のパイオニア〜」は、来年2011年2月20日まで開催中です! 期間中にお近くにいらっしゃる際にはぜひ、お立ち寄りください!


写真提供:星ライブラリ




<関連リンク>


星新一公式サイト
http://www.hoshishinichi.com/



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