これは手塚治虫によるブックレビューといった感じのエッセイ集となっています。つまり手塚治虫が自分で読んだ文学について綴っているわけです。中でも手塚治虫がむさぼるように読んだのが英米文学ではなく、トルストイやドストエフスキーといったロシア文学だったということは、彼の作品群を理解するうえで重要なエピソードだろうと思います。『火の鳥』をはじめとする大河ドラマに限らず、アトムやレオやトリトンのような少年マンガにおいても、手塚作品の底流に流れている「人間性とはいったいなんなのか」という問いかけがこのロシア文学に影響を受けたことに起因している、ということです。また、手塚治虫がSF文学のベストとしてあげているベルンハルト・ケラーマン著『トンネル』が後年『マリン・エクスプレス』を作る上でのアイデアのもとになっていることなどもわかり、ファンには興味が尽きないと思われます。