最近、AIスピーカー、スマートスピーカーなどと呼ばれる機器が話題となっていますが、もし、看護に特化したAIロボットが家庭に存在したら……。
そんな想像を掻き立てられる「ダリとの再会」をご紹介します。
「ダリ」と聞くと、芸術家のダリを最初に思い浮かべる方も多いと思いますが、全く関係ありません。
寒さが身にしみるこの季節、心に灯がともる感動的なストーリーはいかがですか。
お手元には必ず厚手のハンカチをご用意ください!
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『タイガーブックス8』あとがきより抜粋)
『ダリとの再会』(第8巻)は「週刊少年マガジン」に読み切りシリーズのひとつとして載ったものです。暴走族の孤独を扱ったもので、妙にハードな作品になっています。
『ダリとの再会』は、機械と人間の心のふれあいを描いた短編作品です。
暴走族のボス・ウルフは、バイクで信号無視をした際に、トラックと衝突してしまいます。同乗していた恋人は死亡、ウルフ本人も入院しますが、その間に暴走族は解散し、仲間もバラバラになってしまいました。ケガと孤独で自暴自棄になったウルフに、看護用のロボット「D・A・R・1号」、通称「ダリ」がテストとしてあてがわれます。最初はダリを気味悪く思ったウルフでしたが、その献身的な看護に、やがて心を開いていくのです。
この作品は、日本の高齢化社会とそれに伴う看護の人手不足という、非常に現実的な問題が根本的なテーマとなっており、『ブラック・ジャック』の変形・発展型の一つともいえます。また興味深いのは、ダリの姿が、まるで現実に存在するかのごとく、非常にリアルに描かれているということです。
何しろ、他の手塚作品に登場する召使いタイプのロボット達と比べ、ダリのデザインはあまりに機械的。描かれたのが1982年ということを考えると、SFにもこの程度のリアルさが必要だと判断したのでしょう。「看護には人型である必要はない」というメカデザインが、それを端的に物語っているように思えます。
なお、『ダリとの再会』には、SFならではの心温まるラストが用意されています。読後は、ウルフとダリのその後について、あれこれと想像してみるのも楽しいのではないでしょうか。
この流れで、あえて……あえて最後のコマをご紹介致します。
もうね、本当に目頭が熱くならざるを得ないんですよ!!! 左下に“[ダリとの再会] 完”と表記されているのも込みで、素晴らしい演出と感じさせるほどに完成された一コマなんです。是非、ごはん粒を最後の一粒まで食べるような感覚で読んでいただきたい!!
また、彼だけにフォーカスを当てているのもポイント。最初のやさぐれた表情がウソのようなウルフの笑顔と流れ落ちる涙にこれまでのいきさつを想わずにはいられません。多くは語れないので最後にいいですか?
ウルフ「あったかい手しやがって……そんなもんで……ごまかされるかっ」
ダリの手は最初、ただの「スターウォーズみたいな手」でした。しかし、この“あったかい手”で介護をされるうちに意識が変わっていくのです。
ウルフにとって、人肌は、特別な意味をなすものなのでしょう。
絶望の淵で、ごまかされまいとあがきながらも、“あったかい手”を意識してしまう彼。人のぬくもりにどれだけ飢えていたのかが見て取れます。