2月といえばやっぱりバレンタインデー!
今月の「オススメ」コーナーでは、少女クラブ版の『火の鳥』をご紹介します!
『火の鳥』といえば、宇宙や生命の神秘に迫る大長編、というイメージですが、この『火の鳥』はいわば番外編。もっとロマンチックで、ファンタジック。
火の鳥の血を飲んで3000年の命を手に入れたクラブとダイヤのカップルが、エジプト・ギリシア・ローマと、ヨーロッパの古代を主な舞台に、場所と時代を超えたロマンスを繰り広げる、スペクタクル・恋愛ロマン。
権力者のわがままや、戦争に巻き込まれ、せっかくめぐり合ってもすぐ引き離されてしまう二人にやきもきしてしまいます!
でも、最後はちゃんとハッピーエンドですから、ご安心を!
解説:
(手塚治虫 講談社刊 手塚治虫漫画全集『火の鳥 少女クラブ版』あとがき より)
少女クラブに連載していた「リボンの騎士」が終わったころ、ぼくはアメリカ映画の「トロイのヘレン」とか「ピラミッド」とかいった史劇をたてつづけに見ていました。
そして、そういったスペクタクル=ロマンを、ぜひ少女ものにかきたいと思っていました。
「火の鳥」を連載しないかという話があったとき、とっさに思いついたのは、ヨーロッパの歴史を大河ものにすることでした。そして、アイディアは、そういったアメリカ映画のスペクタクル=ロマンとむすびついていきました。
それで、エジプト編がはじまったわけです。
漫画少年の「火の鳥」とちがって、やたらと甘く、やたらと恋や愛が出てくるのは、はじめから「リボンの騎士」のファンを意識していたからです。
かいていていちばんつらかったのは、やはりトロイ戦争の場面でした。ところが、この別冊ふろくのとき、ぼくは九州の宿へカンヅメになっていました。群衆シーンがつづくのに、しめきりにまにあわず、やむをえず代筆になってしまったりしました。その代筆はおもに内野澄緒(うちのすみお)さんでしたが、九州のときは、高井研一郎さんとか、松本零士さんたちに手伝ってもらいました。もちろん、まだお二人とも高校生のころのことです。
松本さんがせっせとかいた群衆シーンが、あまりにギャグっぽかったので、少女クラブの編集部でボツにしてしまったりしたのも、今では思い出話です。
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「火の鳥 少女クラブ版」は、月刊誌『少女クラブ』の昭和31年5月号から昭和32年12月号にかけて連載されました。作品全体は「エジプト編」「ギリシャ編」「ローマ編」の3編から構成されており、「火の鳥」シリーズの中では「ギリシャ・ローマ編」という別名でも呼ばれています。
物語は、エジプトの王子・クラブと、女奴隷・ダイアの2人の恋物語と冒険が軸となり、それと並行して、火の鳥の子供・チロルの成長物語が描かれています。
最初の舞台は、今から3000年前のエジプト。クラブとダイアは、洪水に流されそうになっている火の鳥の卵を偶然助けたことから、そのお礼として火の鳥の血を飲ませてもらい、3000年の間死なない体になります。しかし、エジプト王暗殺の陰謀に巻き込まれた2人は国を追われ、スパルタからトロヤへと、運命に流されるままに彷徨(さまよ)うこととなりました。
この「少女クラブ版」の特徴は、他の「火の鳥」シリーズに比べて圧倒的にファンタジー色が強いことです。これはやはり「リボンの騎士」のイメージを引き継いでいるためで、特に天界から下界へと舞台を移動するプロローグの部分は、非常に「リボンの騎士」と世界観が共通しています。また、シリーズの狂言回し的なイメージの強い火の鳥が、この「少女クラブ版」では、チロルの誕生・成長物語を通して、たびたび人間的な一面を見せるのも、珍しい趣向です。
そして、なんといってもこの作品は、絵の魅力が実に大きいのです。チロルの可愛らしさ、鳥達のダンスシーンの見事さ、ウサギ・キツネ・亀その他、動物たちのいきいきとした姿…。そしてもちろん、小物からキャラクターの衣装、背景にいたるまで、外国映画を「手塚流スペクタクル=ロマン」として消化し、再構築したその手腕。「火の鳥」シリーズのなかでは異色作であるものの、少女ものとしても、ファンタジーものとしても、間違いなく代表作の1つだといえるでしょう。