1970/08 『小説サンデー毎日』(毎日新聞社) 掲載
練馬で大震災が起こった。死者推定50,200人、新興住宅地が地下に没する大災害の原因はいったい、なんだったのか。人災とも、陰謀とも言われた真相は…。
震災の原因を調べていた刑事たちは、ハワイでサーフィン三昧の日々を送っていたある男を重要参考人としてしょっ引いてきました。元はくずひろいを生業としていた彼は、練馬区近辺のゴミ捨て場でいつものようにゴミを拾っていると突然穴に嵌り、ふしぎな地下洞窟にころがりおちたそうで、彼はそこで大量の乾パンや小麦粉などを見つけたそうです。
さかのぼること25年前、太平洋戦争末期に当時の日本軍参謀本部が武蔵野に掘った大地下壕の一角ではないか、と見当を付けた刑事たちですが…
ショッキングなプロローグから始まる本作、語り口はあくまで軽妙でユーモラスですが、物語は思わぬ方へ転がりはじめ、ついにはぞっとする結末を迎えます。本作が掲載された1970年、すでに戦争が遠い過去の話になりつつある時代、それでも本作が雑誌掲載された8月と言えば、15日が終戦記念日です。戦後急激に復興・発展していった明るい日本の現在と、戦時日本の暗い記憶とが思わぬ接点で交差するところが、本作の本当のすごみなのかもしれません。