■今回のアニメでは「黎明編」から始まっていくつかのエピソードがあるわけですが、それを選ぶにあたって、監督の意向というのは反映されているんでしょうか? 高橋:ええ。「こういう考えで、こういうエピソードを選ばせていただきます」という意見は、プロデューサーを通して各方面にお願いしましたし、それがほとんどそのまま受け入れてもらえたので、僕の考えだと言っていいと思います。 |
■監督は、「火の鳥」の原作に「祈り」が込められていると感じられたそうですが、それもエピソードを選ぶ基準になったのでしょうか? 高橋:いえ、それはちょっと違いますね。選んだ後で、それをどういう風に演出しようかというところで繰り返し読んでいるうちに、そういうことにぶつかったんです。 ■その「祈り」とは、具体的にどういうことなのでしょう? 高橋:「祈り」っていうのは、具体的な努力がおよばないところにあるような気がするんですよ。例えば、手塚先生が平和について考えたとして、「人間が平和になるためにはこうしたらいいじゃないか」っていう、具体的な方法論を思いついたとしますよね。しかし、世の中は人間が考えているほどうまくはいかない。そのうまくいかない、理屈の外に「祈り」があるような気がするんです。手塚先生はマンガの中で、色んなキャラクターを動かしますよね。で、「このキャラクターに幸せになってほしい」と思っても、描いてるうちに幸せにならないかもしれない。でも、「本来、人間はこうあってほしい」っていう思いが、物語の流れの外に「祈り」としてあるんじゃないかと。 それと、手塚先生は多分、「人間というのは結構どうしようもないもんだ」と思っていたような気がするんです。でも「どうしようもないから、もういいや!」っていうんじゃなくて、「どうしようもないけど、何とかなってほしい」っていうのが「祈り」ですね。 |
■今回の「火の鳥」は、「黎明編」などはかなり原作に沿った作りですが、「復活編」などはオリジナルの要素もかなり含んでいますね。 高橋:脚色の仕方がね、かなり大胆に脚色しましたから。「復活編」は結構話がいろんな方向に進むんですよね。非常に未来っぽい、SFっぽいところがあるかと思うと、山の中にインディアンがいて、主人公と殺し合いをしたり…僕はどうもね、あのへんがすんなり流れないんですよ(笑)。それに量も多くなってしまうんで、脚色をお願いしたんです。 「黎明編」も脚色はしてるんですが、印象としては原作に忠実に見えますよね。僕は、「黎明編」は「火の鳥」の看板だと思ってるんですよ。もちろん手塚先生の大ファンはあらゆるエピソードをよく知ってると思うんですけど、一般的な読者が「火の鳥」と言ってふっと思い浮かべるのは、「COM」で始まった「黎明編」の事だと思うんですよ。だから「黎明編」は今回のシリーズの一番初めに持ってきたんです。看板だけに、みんながイメージを持っているだろうから、なるべく素直に違和感なく、という脚色の方針をとりました。 ■監督はオリジナル・ストーリーや脚本も書かれるということですが、「火の鳥」では脚本家の方とも意見をたたかわせたりしたんでしょうか。 高橋:もちろん意見は言わせてもらってますけど、僕は演出する時はなるべく何も言わないようにしてるんです。監督で、自分で脚本書いて…って方いますよね。僕は、よほどこの脚本を自分で演出したい、って時は別なんですけど、TVシリーズには色んな人が参加するんで、その人たちの力が出てきて、それがプラスされるって方向がいいなあと思ってるんですね。だから僕はほとんどコンテも書きませんし、言うだけっていう(笑)。 |
■それでは、「火の鳥」に参加されている声優さんや作画、音楽など、スタッフについてもお聞かせ下さい。 高橋:声優さん選びにも、結構僕の意見を入れさせてもらってますね。例えば猿田彦に関しては、従来だったらこの人がいいんじゃないかな、って皆さんの考えがあったんですけれども、僕は小村(哲生)さんにやってもらって、自分なりの猿田彦というのを作ってみたいな、というのはありましたね。シリーズを通して出てくるキャラクターですから。小村さん自身も結構研究してくれて、各編ごとに演技の仕方を変えてくれてるんですよ。そういうところでは助けてもらってますね。 |
■作画監督の杉野昭夫さんとは、虫プロ時代には一緒にお仕事されていたんですか? 高橋:僕はね、無いんです。今回初めてです。杉野さんは虫プロに入ってから、もう最初から主力メンバーで、僕は何やってたかわからないですよ(笑)。その他に出崎(統)さんとか、山本(暎一)さんとか、杉井(ギサブロー)さんなんかが虫プロの主力でしたね。 僕は出崎さんや波多正美さんが描いた「悟空の大冒険」のコンテを見て、自分のコンテが面白くないから嫌になっちゃってね(笑)。 |
■主題歌に二胡を採用しているのが変わっていますね。 高橋:チェン・ミンさんの二胡というのは、僕が提案したんです。以前、NHKのBSで揚子江かどこかを下ってくる番組が放送されていて、ところどころでチェン・ミンさんが出てきて二胡を弾いていたんです。それが何か悠久の時の流れみたいなものに合っていたんですね。それでお願いしたんです。 |
■ところで、「火の鳥」と関係ない話で恐縮ですが、「装甲騎兵ボトムズ」の主人公・キリコは「ブラック・ジャック」のキリコからとられた、と聞いたことがあるのですが… 高橋:そうそう。ただ、キリコって「ブラック・ジャック」というより、そのずっと前から、時々手塚先生の作品の中にでてくる響きなんですよ。多分画家のキリコから引用されたんだと思うんですけど。玖保キリコではありません(笑)。それと、イプシロンもそうです。アトムの中に出てきたイプシロンの響きが良かったので(※『鉄腕アトム』ではエプシロン)。だから、そういう意味では手塚先生の影響をずいぶん受けてますね。 ■最後に手塚ファンに向けてメッセージをお願いします。 高橋:うーん、そうですね…どう言ったらいいんだろうな…手塚治虫に何となく甘えている弟子の作品、という感じで観てほしいですね(笑)。 【2004年3月19日・アオイスタジオにて】
|
(C)TEZUKA PRODUCTIONS・NHK・NEP21 |