11月3日はもう皆さんご存知のとおり、手塚治虫先生のお誕生日です。先生はいったい、どんなお誕生日を過ごされていたのか、悦子夫人とるみ子さんに特別にインタビューに答えていただきました。事前にいろいろとお誕生日にかかわるものを探していただいたのですが、あまり残っていないとのこと。それでも何かお話が聞ければ、と手塚家までお邪魔して来ました。

―先生へのお誕生日のプレゼントといいますと、こちらのほうにはあまり残っていないとのことですが…こちらに残っていなくても印象的なプレゼントなどありましたらお伺いしたいのですが。
 悦子夫人(以下E):…特別にないわね。(笑)…お話おわっちゃうでしょ? 子供のころには、よく子供たちが父親にお誕生日おめでとうって、絵やなんかを描いたりしたカードを渡してたんです。それを探してみたのだけど、出てこないんですよ。机の引き出しかなんかに入ってるかなって思ったけれども。

―ご家族でお祝いされたときなどのエピソードなどありましたら。
E:いつでも自分の誕生日のときは、私たちがお祝いするより自分で家族のみんなをお食事に連れて行って一緒にお祝いしていたような気がするんですよ。…自分の方から誘ってくれることが多かったですね。
るみ子さん(以下R):11月3日は祝日でお休みでしょ? 会社がお休みだったから自由が利いたのかも。たとえば、私たちも子供のころからお父様のお誕生日は、自分が何かをプレゼントしたって言うよりも、ご馳走を食べに行く日、って。
E:11月3日とクリスマスは、みんなで一緒に過ごしていました。よく映画を見に行ってたわね。

R:今みたいに新宿とか渋谷とかそんなところじゃなくて、当時一番繁華街だった銀座に行って、そのときの映画で一番ヒットしているものを見て、レストランでみんなで食事して、っていうのがわりとパターンで。帝国ホテルの上のバイキング、必ず定番で覚えてるし。それ以外でも、あまり子供には縁がないような小洒落たカフェテリアでの食事なんかに連れて行ってもらったりとか。
E:むかしあった『レンガ屋』、今はなくなっちゃったんだけど。
R:『レンガ屋』自体は今もあるけど、よく連れて行ってもらっていたお店はもうないかな。
E:あそこにはよく行ってたわね。
R:もう、私とか兄が中学高校になると、親と一緒に行動なんて、恥ずかしいから行かないじゃない。そうするとお誕生日の日に父が、家で仕事とか、会社がお休みだから家の書斎で仕事をしていたりしているときに、「ああ、そういえば今日誕生日だったな」とか思って、何かしら買ってきて。私が覚えているのは、父が好物だったプリンを買ってきて、誕生日だから、ってあげたくらいしか覚えてなくて。
E:下の妹のほうはね、初めて自分で編み物ができるようになったころにセーターを編んであげたことがあるんですよ。そのセーターがすごく大きくて、着られないようなもので、私があんまり大きいから少し手直ししようかなと思ったんです。そのときに手塚が、「これでいい、せっかく一生懸命になって編んでくれたんだから、これ着るよ」って言って。大事にそのままとってあったので今でもありますけれど。
―逆に先生のほうがご家族の方の誕生日をお祝いしたエピソードなんかは。
R:あんまり記憶がないかも…。それもやっぱり、みんなで家で…ちっちゃいときはね、家族で誕生日ケーキ買って、母が手作りでご馳走を作ってくれて、近所の友達とか学校の同級生なんかを呼んで…。
 …ろうそく立てて、よくあるおうちのパターン。
E:私は必ず、何がなくとも、子供たちのお誕生日のときはお赤飯と…。
R:お赤飯と散らし寿司。あと鶏のチューリップのから揚げとか。…あと必ず祖母がアコーディオンを弾きに出てきて。
E:伴奏してみんなでハッピーバースデーの歌を歌っていましたね。
R:でもプレゼントに何をもらったのかぜんぜん覚えてない。
E:本か、おもちゃか…。
R:本? 本なんてもらったっけ。
E:あと、お兄ちゃんだと怪獣をよくね。お誕生日のときなんか一生懸命になって。…どうしてもほしいっていう怪獣がなくて、みんな帰った後も二人だけで探し回ったってこともありましたけどね。
R:あの『マコとルミとチイ』に出てくる話。
―あれは誕生日のエピソードだったんですか?
E:誕生日だったか、クリスマスだったか…。おそらくお誕生日だろうと思いますね。何がほしい? って聞かれたときに、怪獣がほしい、って言って。…だから、探しに行ったんです。たしか日曜日でお店が全部閉まっていたのに、どうしてもほしいって息子が聞かなかったものですから、あっちこっち何軒も見て歩いたんだけどどこにも無くて。俺は一生懸命、誠意を尽くしてやったんだなんて、よく言ってましたね。
R:両方とも頑固なので…。
―たしかエッセイかなにかにも書かれていましたよね。先生としてもかなり印象的だったんじゃないでしょうか。
E:いったん言い出したら聞かないんですね、眞のほうも。…主人のほうも付き合って一生懸命になって探して。
―家族の方の誕生日の席にも先生は割りといるほうだったんですか? どっちかというと忙しくていない印象がありますが。
E:いないほうが多かったでしょうね。
R:虫プロのときは、家で仕事してましたから、夕飯時に誰かの誕生日のご馳走が並んでいれば、顔を出したぐらいです。学校に入ったら、学校の友達とか、ボーイフレンドとか、そういう人とお祝いするじゃないですか。どの家族でもそうだと思いますけど。

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