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虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー


 『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』が遂に連載スタート!
 2017年7月より、小学館のWEBコミックサイト「eBigComic4」にて短編オムニバス形式で配信されています。
 虫ん坊では、以前、書籍が発売されるタイミングでつのがい氏本人のインタビューを行いましたが、今回は、仕掛け人である株式会社小学館クリエイティブの日下宏介さんに、WEB連載版『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』の見どころなど、担当編集という視点からいろいろお伺いしました。
 日下さんの代名詞?! 「OSHARE NA KUTSU」についてもツッコんでいます!

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』の告知マンガ。日下さんも担当編集としてちょいちょい登場。中央のイラストは、なんと! つのがい氏描き下ろしの日下さん!



つのがい氏との出会い

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

株式会社小学館クリエイティブ 書籍コミック部編集長 日下宏介さん


―――まず、簡単に自己紹介をお願い致します。


日下宏介さん:(以下、日下)

現在、小学館クリエイティブという出版社でコミック全般に携わっています。名作コミックの愛蔵版や新装版の編集の仕事と並行して、新人作家さんの名刺代わりになるような単行本を刊行するコミックレーベル「ニューオーダーコミックス」を2015年に立ち上げました。
SNSやコミックマーケット、コミティアなどで自分が面白いと感じた方にお声掛けして、作品を単行本にするという企画です。
1冊目『恥をかくのが死ぬほど怖いんだ。』(サレンダー橋本著)、2冊目『あの子と遊んじゃいけません』(どろり著)とおかげさまで好調で、作家さんが他の商業誌でデビューしたり、僕担当で新作を他の媒体でやったり、いろいろとつながりが出来ていきました。今後も、意欲的に刊行していく予定です。
つのがいさんの『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』は、そのシリーズの3冊目にあたります。

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

「ニューオーダーコミックス」シリーズ。左から、第1弾『恥をかくのが死ぬほど怖いんだ。』、第2弾『あの子と遊んじゃいけません』、第3弾『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』と新人作家中心のラインナップとなっている。


―――なるほど、ご自身で立ち上げた企画シリーズの一冊だったんですね。つのがい氏の作品との出会いを教えていただけますか。


日下:

Twitterのタイムライン上に流れてきた投稿作品で知りました。
B・Jとキリコが仲良しだったり、ロックがパリピになっていたり、とにかく破壊力抜群なパロディマンガを描かれているところが気になっていたんですよ。
作品を投稿した際の反応、Twitterの“リツイート”とか“いいね”もすごい数で、これだけ多くの人に支持されたのは、ふざけつつも(笑)原作へのリスペクトがきちんと込められていたからだと思いましたし、手塚先生の絵が世代を超えて受け入れられている証拠だと感じました。


―――先日、手塚先生の元アシスタントの方にお会いしたのですが、つのがい氏の絵を見てあまりのそっくりさに驚かれていました。積極的に流行を取り入れたり、読者が共感しやすい内容ですよね。


日下:

個人的にこれは本にしたら話題になると思いつつも、果たしてこの作品が商業出版として世に出ていいものなのかどうか不安もありました。
そこで、担当させていただいているマンガ家の上條淳士先生に、つのがいさんの存在について、どう思われますかと打ち合わせのときにご意見をお聞きしてみたんですね。そうしたら、「いや、天才でしょ」とひとこと(笑)。信頼する先生のその言葉で、僕の中の自信が確信に変わりました。
上條先生は既につのがいさんと面識がありましたし、「つのがいさんも手塚プロさんもきちんと向かい合って今後を考えていくべき」と気にかけていましたね。
ともあれ、つのがいさんがどうお考えなのかはお聞きしないとわからなかったので、意を決してメールでご連絡し、2016年の6月に、当時お住まいだった浜松にお伺いして、カフェではじめてお会いしました。
具体的な企画内容と今後の展望のご説明をしましたら、是非本にしたいと興味をお持ちでしたので、話を進めていくことになりました。


―――実際に浜松でつのがいさんとお会いしたときの印象は?


日下:

まずは「若い」ですね(笑)。なぜこの若者が手塚先生のタッチに到達したのか……、俄然、興味が湧きました。
あとは「常識人」です。作品を読んだだけでしたので、この人があのネタを描くのか……と。まるでサイコパスじゃないかと思いましたね。


『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ができるまで

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー


―――『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』の制作秘話を教えて下さい。


日下:

つのがいさんのOKをいただいたとはいえ、書籍化には手塚プロダクションさんの許諾が絶対に必要なので、取締役の手塚るみ子さんにお会いし、ご意見を伺いました。
以前からるみ子さんは、つのがいさんの活動に注目されていて、ご自身がプロデュースする企画展「キチムシ」に勉強のため招待したりもしていました。何より、娘の私が父のものと錯覚してしまう程の絵を描く若者を応援したいと、手塚プロダクション出版局・古徳稔さんと打ち合わせをする際に同席してくださることになりました。
そのときに誠意をみせたいというのもあって、単行本の巻末に収録されている「アトガキマンガ」のネームをつのがいさんに描いてもらってお持ちしたんです。当時、まだ出版は決まっていないのに(笑)。
最近まで、集英社さんの有名なマンガ新人賞・手塚賞の審査員もされていた古徳さんからは、「コマ割りが古くないですか」と言われたんですけど、そこは「コマ割りも手塚先生を意識しています」とお伝えして(笑)。


―――まさか、その時点ですでに「アトガキマンガ」が描かれていたとは思いませんでした!


日下:

「アトガキマンガ」はつのがいさんがマンガ家を志すまでの出来事を描いた短編なんですけど、まだお若いのになかなかハードな人生を送られていて……。そのエピソードの一部をマンガにしたら面白いんじゃないかと思ったんです。
結果、古徳さんにも熱意が伝わったのか、と承諾してくださって。そのときはややそっけない印象を受けたんですが、あとから聞いたお話によると、原作の掲載紙である『週刊少年チャンピオン』の版元・秋田書店さんに、出版するにあたっての仁義を切ってくださっていたそうで。裏でしっかりサポートしていただき、もう、感謝しかないですよね。
この本を世に出せたのも、上條先生とるみ子さんと古徳さんのご協力があったおかげです。


―――実際に出版が決まり、書籍となるまで、特に苦労した点や印象に残るエピソードはありますか?


日下:

大変だったのは、構成です。いちばん、時間を掛けたと思いますね。
ある程度、時系列で読めた方が良いですし、「一人暮らしレシピシリーズ」や「学生」モノなどジャンルもざっくり分かれていたので、章分けしましょうということになりまして。いちど、Twitterにアップされていた画像を全部プリントアウトして、どれを入れてどれを入れないか、順番はどうするかをつのがいさんと決めていったんですが、ストレスなく読めるようにするにはどうするべきか、かなり悩みました。
あとは、本当に現実的な問題なんですけど、紙にすることを想定せず描いているので、解像度がすごく低くてですね(笑)。当時、制作環境もめちゃくちゃだったというのもあるんですけど、物理的な問題で苦労しました。なので、描き下ろしの部分はきっちり、サイズも決めて描いてもらっています。解像度もそうですが、単行本のために描いているので背景の描き込みも気合が入っていますし、その辺も楽しんでもらえたらと思います。


―――制作環境については、ペン入れをしたものをスマホで撮って、アプリでトーンを貼ったり着彩しているとお聞きしていましたが、描き下ろしを描いているときの環境はそこから変わったりしたんですか。


日下:

手塚プロダクションさんで公式作家としてお仕事をするようになったのが同時期だったのもあり、途中でスキャナーとパソコンを導入していたと思います。ソフトも「CLIP STUDIO PAINT(クリップスタジオペイント:主に漫画原稿制作用等に使われるソフト)」を使用しているそうで、制作環境も整いました。


遂に「eBigComic4」で連載開始!

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー


―――今回、めでたく「eBigComic4」での連載開始となったわけですが、「eBigComic4」を選ばれた理由についてお聞かせ下さい。


日下:

つのがいさんには、『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』の第2弾を作るならば、趣味でTwitterに投稿したものをまとめるのではなく、きちんと作家としてデビューをして、しかるべき媒体で定期連載して本にしましょうとお伝えしていました。
特にTwitterやブログをはじめSNSと相性が良いので、連載をするなら、WEBメディアでとずっと考えていたんです。
「eBigComic4」というのは、小学館とイーブックイニシアティブジャパンさんが共同で作ったWEBメディアなんですね。
イーブックジャパンという、電子書籍サイトの老舗と提携しているところであれば興味を持ってくださるだろうと、ご担当の方にお声掛けしたところ、つのがいさんなら是非にと連載が決まりました。
おかげさまで7月に連載第1回目が掲載されたんですけど、その週でいちばんPV数があったそうです。また、普段、そこに訪れていない人が訪れていて、女性の読者が劇的に増えたと。


―――つのがい氏は女性のファンの方が多いんですね!


日下:

紀伊国屋書店新宿本店さんでつのがいさんのサイン会をやらせていただいたときに、どんなお客さんがくるのか全然想像がつかなかったんですが、蓋をあけてみたら、本当に20代の女性がメインで、若い方になると制服のまま、学校の部活帰りに来ましたみたいな女性が来たりとか。
作品の方向性を考える要素になりました。


―――WEB連載版『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』では、『ブラック・ジャック』だけでなく様々な手塚治虫作品からキャラクターが投入される予定だとお聞きしています。注目ポイントについて、具体的に教えていただけますか。


日下:

B・J、キリコ、ロック、ピノコのメインキャラクターは変わらず登場しますけど、その他の手塚キャラクターも登場させることで、手塚先生のオリジナルの作品にもすそ野が広がるようになればと企画の段階から考えていました。
あとは、ところどころに散りばめられたつのがいさんなりのオマージュに注目していただきたいですね。尊敬の念がないとここまでは描けないので。
細かいところではありますが、第1話では、『MW』の爆発シーンをオマージュしたコマが登場します。
第2話ではロックの部屋が登場するんですけど、これも『ブラック・ジャック』の原作通りの部屋にパリピグッズが置いてあったり(笑)。しょうもないですよね。でも、しょうもないところがいいですよね。

虫ん坊 2017年9月号 特集2:『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』ついに連載! 担当編集 日下宏介さんインタビュー

つのがい流オマージュが描かれた、『MW』の爆発シーン。

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『ブラック・ジャック』(手塚治虫漫画全集)の「刻印」に登場するロックの部屋。つのがい版ではキャップやサングラスなどが盛られている。


―――つのがい氏とは、担当編集として、普段どのようなやりとりをされているのでしょうか。連載でしたら、締切も定期的にあります。ネームの段階から打 ち合わせをしたりしますか? また、喧嘩をしたりしたことはありますか?


日下:

滅多に会わないんですよ。基本的にLINEでやりとりをしていますね。あとは、電話で、あちらはヘッドフォンで作業をしながらやりとりしたり。
絵のクオリティに関しては、基本、なにも言うことはないです。
ネームに関しては、あたりまえですが、お互いが納得いくまで時間をかけてやりとりをしています。
険悪なムードになることはないですね。むしろ、ものすごく事務的です(笑)。


『OSHARE NA KUTSU』について

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撮影用にと、特に派手な「OSHARE NA KUTSU」を履いてきてくださった日下さん。


―――告知マンガで着用していたTシャツの「OSHARE NA KUTSU」というワードが気になります。こちらの由来はなんですか?


日下:

告知マンガに僕が初めて登場したとき、よく見たら「OSHARE NA KUTSU」と書かれたTシャツを着させられていたんですよ(笑)。
靴を収集するのが好きなんですけど、つのがいさんと打ち合わせをしたときに、お気に入りのアザラシの毛が生えた靴を履いていたんですね。気付いたら、マンガの中でいじられていました(笑)。
因みに、アイスコーヒーもよく手に持っていますけど、確かにコーヒーは好きですが、はじめて打ち合わせをしたときに注文して飲んでいたというだけで……。
あ! 会社から5分くらいの場所に、よくコーヒーを飲みに行く「きっさこ」というお店があるんですけど、テイクアウトもできるしすごく落ち着いた雰囲気のお店でオススメです!
語尾の “スーン”については、一度も言ったことがありません(笑)。

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通りから一本入った路地裏にある店内では、ジャズのレコードを聴きながら、自家焙煎の珈琲がいただけます。テイクアウトも可。
「きっさこ」〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2−24−3


―――そのまま、ずばり、オシャレ……(´-`)。oO(アザラシの毛とは?)な靴を履いていたのがきっかけなんですね! 実際にTシャツまで作ってしまったそうですが。


日下:

つのがいさんから「OSHARE NA KUTSU」のデータをいただいて、 4枚だけ作成しました。
ちょうど、上條先生の個展が行われていたタイミングで、『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』を出版することも決まっていたので、その場でプロモーションをさせていただこうと、これを着て宣伝させていただきました。
僕の似顔絵イラストも、初めのころの絵柄と違って、最近はややつり目に描かれるようになり、僕自身にかなり寄ってきました。是非見くらべてみてください。

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実物の「OSHARE NA KUTSU」Tシャツ。世界に4枚しかないうちの貴重な? 1枚。


“手塚タッチ”のオリジナル作品を

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―――日下さんの目からみたつのがい氏はどんな可能性を秘めた作家さんですか。


日下:

つのがいさんは絵を描き始めてまだ2、3年なのにあそこまで描けて、よく「天才」と言われていますけど、めちゃくちゃ努力をしている方なんです。その努力も努力しようと思ってしているわけではなく、自然に出来ているんですよね。
海洋堂という老舗フィギュアメーカーの社長、宮脇センムとお話する機会があって、なかでもいちばん印象に残っているのが、「模型の疲れは模型でとる」という言葉です。仕事でも模型に携わって、家に帰ってきてからも自分の好きな模型を作ったり塗ったりすることで癒されるという。
つのがいさんも普段、仕事で絵を描いたりマンガを描いたりしているわけですけど、たまにLINEで仕事と関係のないマンガのネームが送られてきて、完全に趣味で描いたものなんですけど、この人、忙しいのになにしてるんだろうって(笑)。
仕事でマンガを描いたあと、自分の好きな絵を描いたりとかマンガのネームを作ったりしているので、多分、同じタイプなんだと思います。「絵の疲れは絵でとる」ということですよね。とにかく描いている。


―――つのがいさんの情熱が伝わるエピソードですね。ネタのインスピレーションですとか、普段、どのようなことに関心を持たれているのかも気になるところです。


日下:

映画であったりとか、マンガであったりとか、世の中には娯楽がたくさんありますし、マンガを描く上でそれらから影響を受けたりもするわけですが、そこにはあえて目を向けていない気がします。あくまで僕の想像なんですけど、いまは手塚治虫先生以外の情報を極力入れないようにしているように感じます。だからこそ、あれだけ純度の高いものが作れているんだと思いますね。
勉強も欠かしていないですしね。あごのラインひとつにしても、手塚先生が描いた線を忠実に再現していますから。本当にストイックですよね。


―――最後に、『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』の読者の方々、手塚ファンの皆さんに、ひとことお願い致します。


日下:

手塚作品をまだ読んだことのない人がいらっしゃるのであれば、これを機に『ブラック・ジャック』から是非読んでみて欲しいですね。
今後、手塚作品へのオマージュやパロディマンガだけではなく、“手塚タッチ”のオリジナルの作品をやりたいと考えていらっしゃるので、それはイチ読者としても非常に楽しみです。
あとは……、『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』アニメ化のご希望がもしございましたら手塚プロダクション様までご連絡ください(笑)。


関連情報


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――つのがい先生の『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』が読めるのは「eBigComic4」だけ!
https://www.ebigcomic4.jp/

★虫ん坊2017年1月号 彗星の如く現れたパロディ漫画家!? つのがい氏に迫る!
http://tezukaosamu.net/jp/mushi/201701/special2.html



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