手塚治虫そっくりの絵柄で『ブラック・ジャック』のパロディ漫画を描きSNSを中心に話題となり、手塚プロダクション公認の“パロディ漫画家”として活動するつのがい氏。
1月26日、自身のパロディ漫画をまとめた書籍「#こんなブラック・ジャックはイヤだ」が発売されるということで、今回の虫ん坊につのがい氏が登場!!
“つのがいさん”って一体何者? と疑問に思っていたみなさん、今初めてこの名前を目にしたそこのアナタに向けて、インタビューを通してご紹介したいと思います。
インタビューの舞台は、手塚治虫が愛した浅草の喫茶店、アンヂェラス。先生がいつも頼んでいたというチョコケーキをいただきながら、お話を伺います。
つのがいTwitter:@sunxoxome
ブログ「つのがいです。」:http://tsunogai.blogspot.jp/
虫さんぽ11月号:
再訪・福島県会津地方(後編):会津に遺された手塚治虫の宝物を巡る旅!!(マップ画担当)
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驚くべきことに、絵を描きはじめてまだ1年半だそうですね。筆を握ったきっかけは何だったのでしょうか。
ふと立ち寄った近所の文具屋さんにつけペンが売っていて、それを見てそういえば幼い頃は絵を描くのが好きだったな~と、ためしに買ってみたというのがはじまりです。
前職を辞めて時間を持て余していたときに、ちょっと描いてみようかなという思いつきではじめました。
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このつけペンとの出会いがつのがいさんの運命を大きく変えたんですね……!
つけペンを買って、とりあえず何か絵を描いてみようとした時に、漫画のキャラクターを描けたら一発芸みたいでおもしろいかもしれないと思って、参考になるキャラクターを探しました。
当時はライフラインも殆ど止められていて、でもかろうじて携帯でネットはできる状態だったので、ネット検索でいろいろな漫画のキャラを調べているうちに、手塚先生の絵を見つけて……。
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ちょっと待ってください、そんなに切羽詰った生活をしていたのですか!?
実は、現在に至るまでいろいろありまして……。1月26日に発売する単行本のあとがきに、前職をやめて絵を描き始めた経緯を描いた20ページの漫画を収録しています。
私の過去が凝縮されていますので、ぜひ単行本で読んでいただきたいです。かなりコンパクトにまとめていますが、惨いことがいろいろ起こっています。2週間ずっと水だけで生活したりとか……。
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一体何が起こったのか……。これは単行本を買うしかないですね! それで、絵を描く参考に手塚先生を選んだ、と。
はい。もともと絵を描いていたうえで手塚先生の絵に挑戦しようとしたのではなく、絵の描き方が全くわからない状態でブラック・ジャックやピノコを描きはじめました。
子供の頃は、紙とペンさえ渡しておけば寝ず・しゃべらず絵を集中して描いていたみたいですが、それにしてもちゃんと絵を描くというのはつけペンを買ってからが初めてでした。
学生時代に美術部に入っていたり、芸術系の学校に行っていたこともなく、本当に、ド素人です。
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もともと自分の絵柄が確立される前だったから、手塚治虫のタッチを吸収してしまった、ということでしょうか!?
大変ありがたいことですが、そういうことかもしれません。よくSNSで、つのがいさん自身の絵柄のB・Jを見せてください、というお言葉をいただくのですが、自分で自分のタッチを知らないので、困ってしまうんです。
実は、描こうとしていたキャラの中に手塚先生のほかにもいろいろ候補の先生方がいました。やなせたかし先生とか……。
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つのがいさんがアンパンマンのパロディ漫画を……。それはちょっと見てみたいです! 普段から、漫画はよく読まれるのですか?
学生の頃は友人に漫画を借りてそれなりに読んでいましたが、親が漫画に反対だったので、自分で持っているものはほとんどありませんでした。さらに働き出してからは、周りに友人もいませんから、全く読まなくなりました。
実を言うと、絵を描きはじめた当時は手塚作品を一冊も読んだことがありませんでした。スミマセン。
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逆に、驚きです。
『ブラック・ジャック』を読んだのも、絵を描きはじめて3ヶ月たった頃でした。家にいたら突然段ボールが届いて、おかしいなと思って開けるとそこに『ブラック・ジャック』全巻がそろっていて。知人が『ブラック・ジャック』全巻と手塚先生関連の書籍をいくつか買って、サプライズで届けてくれたんです。
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素晴らしい! 原作を読み、パロディ漫画を描こうと?
ふざけまくりのパロディ漫画も、練習で描きはじめたものなのですが、Twitterで発信したら思った以上に反響があって。
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SNSで広まり、それが手塚るみ子の目にとまり、今や手塚プロでも描いていただいています。
るみ子さんから、Twitterのダイレクトメールが届いた時は、本当に驚いて、「あーーーー! ついに怒られる!越えてはいけない壁を越えてしまった!!」とかなり焦りました。
メールをひらくと、一度会いたいとのご連絡でした。忘れもしない2015年11月6日のことです。私にとっては記念すべき日なので、カレンダーに書いています。
そしてその後何度かお会いし、公式にお仕事させていただくようになりました。本当にありがとうございます!
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これは誰もが気になっていることだと思うのですが、手塚タッチを習得するまでにどのような練習をされたのでしょうか。
実は、“手塚タッチ”というのはあまり気にして描いていません。最初はキャラクターを描くという認識でしたので、キャラの身体的特徴(B・Jのキズはどちら側にあるのか)などはもちろん見ながら描いたのですが、最初に先生の描き方を真似しようとしたときは、パーツの形や顔の描き方の癖などは全く見ていませんでした。
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何をもって先生の線を辿ろうとしたのでしょうか。
一番は、線のスピードやリズムです。漫画を手に取っていろいろなページをパッと見たときに、「このシーンはリズミカルだな」「ここはゆったり描いている」「ここはすごく焦って描いたな」「あ、ペン先変えたな」「このコマだけ後から差し替えたかな……」と、素人目ですがそういうところを見ていました。
漫画のストーリーやキャラクターの魅力とはまた別に、スピード感やペンの跳ね方に先生の息づかいや生活を感じることができて、私はそれがとても好きで、そこを真似しています。
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パーツの造型うんぬんではなく、線ですか!
はい。キャラの目の形がこうで……とかそういうことではなくて、手塚先生の作品を見ていると、線の表情になんだか描き手のバックボーンが見えてくるんです。この感じをとにかく真似しようとしました。
ですので、「手塚タッチ」と言って頂けることは、自分からしてみればそれはあとからついてきた感覚なんです。
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ラフ(下書き)を描くときのスピード感だとか、線の流れが手塚治虫と本当に似ている、とるみ子さんがおっしゃっていましたね。
キャラクターは、手首で円を描いて、できるだけその円をつないでラフを描くようにしています。恐れ多いですが、自分が特に意識していることですので、そう言っていただけるのはとても嬉しいです!
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キャラを描く際に、つのがいさんなりのこだわりなどはありますか?
趣味で描く際には頭身や体の構造を気にしすぎることのないよう、のびのび描こうというのが念頭にあります。本来ならば、関節で曲がるべき角度が決まっていると思うのですが、そういうところを気にせず描いたり、コマによって指が5本だったり4本だったり。 これは、先生が『手塚治虫のマンガの描き方』で、「目的が先にあって、そのためには、腕なんかどんな長さでもいいのだ。……」と仰っていたのをそのまま学んでいます。 あと、曲線と体の動きはもっと表情豊かにドラマチックに、流れるように線を描きたいと思っています。
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Twitterで発信している『ブラック・ジャック』のパロディ漫画については、どうでしょうか。
基本、真顔でボケるというのがつのがい的ギャグ路線になっているので、ボケの時にはあえて表情を描かないようにしています。真顔でワケのわからないことを言うシュールさ、そこから生まれる余韻を楽しんでいただけましたら幸いです。
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なんといっても、つのがいさんによるキャラ描写が見どころだと思うのですが、とくにロックの現代的なキャラ付けはどこから生まれたのですか? 原作でも時々突飛な行動をするロックですが、あのパリピキャラは斬新ですよね。
ロックは、『バンパイヤ』では変顔 したり、パンツを見せて踊るシーンがありますもんね(笑)。 あのキャラ付けは、私がパリピの方のテンションが苦手というのがあり、描けば好きになれるかも……という発想からです。
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なるほど(笑)
B・Jやピノコを自分なりにいじったり、ロックが現代的なしゃべり方をしたり、漫画の中でスマホが出てきたりするのは、手塚先生との差別化を図ろうと思って取り入れました。
Twitterに漫画を載せると、トレスしたのではないか、というご意見をいただくことがあるので、あえて手塚先生の時代になかったものを取り入れていきトレスではないことを示そうとしました。それがきっかけで、今は現代的なネタや流行を取り入れることが多くなりましたね。あとは、私生活であったことからネタを考えたりします。
コマ割りの練習と描くスピードの向上の為に始めました。版権キャラクターのようにイメージのあるキャラクターを使わずどのようにキャラを動かせばよいのか演習したかったんです。
描く題材がないので私生活で起きたことをベースにしています。性別や見た目を隠しているわけではないのですが、以前から使っている自画像(代理のキャラクター)を使っています。絵柄もほんの少しずつ変えたりして、自分で楽しみながら色々試しています。
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ブログ漫画のほうは、つのがいさんのタッチということになるのでしょうか。
あれを突き詰めていけば、つのがいタッチが確立されるかもしれないですね……! 頑張ります!
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一番好きな手塚作品を教えてください。
やはり『ブラック・ジャック』です。初めて読んだときは、圧巻の一言でした。漫画は小説であり、映画であり……。手塚先生の作品からは、特に映画的要素を強く感じられて、読後感がずっしりと重みがあります。
『ブラック・ジャック』には毎回異なるクランケとその家族がでてきますが、たった一話数カットしか出ないようなキャラクターでも、そのキャラクターの人生を感じられるんです。B・Jが主体であることには変わらないのですが、そうしたところにもドラマを感じることができるのがすごく好きなんです。わかりやすく、図に起こしてみました。
その時にしか関わらない患者や家族が、ブラック・ジャックの人生にたまたま入ってきたのではなく、その人はその人の人生を歩んでいて、ふとしたきっかけでB・Jと絡んだその一時が一話分エピソードになっているという感覚で読めるんです。B・Jと運命的に出会ったその刹那的な日々が描かれているというか。
漫画には描かれてはいないはずなのに、クランケがB・Jと出会う前と、出会った後の人生が透けて見えるような描写をされているのが、ドラマチックで好きなんです。
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患者の将来を思わず想像したくなるような……。
そうなんです。ただ単に、ブラック・ジャックかっこいい! 萌え! とかそういうことではなくて、そういうストーリー的な深み、読者の想像を掻き立たせるようなストーリー描写が最高に好きだということを伝えたいです!
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ほかに好きな作品や、描きやすいキャラクターはいるのでしょうか。
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最後に、手塚先生と虫ん坊読者のみなさまに一言、お願いします!
まず、第一声に、手塚先生と手塚作品が大好きです!
B・Jにあんなことをさせて散々好き勝手しているので大変申し訳なく思っております。決して、いじめたり、イメージダウンしようなんて思っていません!
素性の知れぬ新参者で不安もしくは不審感を抱く方も多いのではと思いますが、先生の作品を愛してやまない一ファンとして今後も勉強して参りますので、何卒よろしくお願いします!
#こんなブラック・ジャックはイヤだ
[原作]手塚治虫 [漫画]つのがい
Twitterに載せたものの中からよりすぐりの作品のほか、40ページを越える描き下ろし漫画あり、カラーページあり、学生パロあり、プロレスあり、びんぼうレシピあり!
発行:小学館クリエイティブ(エヌ・オー・コミックス)
価格:¥690+税
発売日:2017年1月26日
取扱店舗:全国の書店、ヴィレッジ・ヴァンガード、通販、WEB書籍の予定もあり。
取材場所:喫茶アンヂェラス
創業昭和21年。作家の川端康成、池波正太郎など、数多くの著名人が通ったことでも知られる名店です。机には、手塚治虫をはじめとした常連客の複製サインが飾られています。
過去の虫さんぽでも紹介しています!