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虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

 手塚プロダクションが手掛ける、さがみロボット産業特区スペシャルアニメ「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」が2016年4月13日から公開されました。
 その記念に、神奈川県庁・矢田健二さんと、手塚プロダクション・瀬谷新二監督の対談をお届けします。
 完成した今だからこそ語られる、企画側・制作側それぞれの思いとは!?






 対談内容にネタバレが含まれているので、まずは作品をご覧ください!



「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」






矢田健二さん
神奈川県庁 産業労働局産業部
産業振興課新産業振興グループ 副主幹。
「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」の企画をご担当。


瀬谷新二監督
手塚プロダクションアニメーター。
本作では監督、キャラクターデザイン、作画監督を手掛けた。




オオヤマ
虫ん坊スタッフ。インタビュー担当。




●スペシャルアニメについて


「鉄腕アトム」をイメージキャラクターに起用しているさがみロボット産業特区ですが、今回のスペシャルアニメ制作のいきさつについてお聞かせ下さい。



 さがみロボット産業特区では、急速に進む高齢化や、いつ起こるかわからない自然災害に対応するために生活支援ロボットの実用化・普及に取り組んでいます。
 その取組みをさらに進め、現在、「ロボットと共生する社会」の実現を目指しています。その私たちの目指している社会像をわかりやすく皆様にお伝えしたいと思い、今回映像化の企画をお願いしました。




瀬谷監督、企画原案をはじめて読んだときの印象はいかがでしたか。



 最初に原案をいただいたときに、作品時間が約4分と書いてあって……。これだけの内容を4分で表現!?それは無理だろう、というのが最初の印象で、すぐにプロデューサーに泣きつきました……。
 これは、倍以上の時間が掛かるな、とシナリオを読んだとき直感で思いました。 物語として、ある程度ストーリーの起伏を入れ盛り上げることを考えると、かなりの時間が必要な計算になってしまい、絵コンテを描き始める前にずいぶん混乱しました。



 実は、最初の段階ではシナリオもだいぶ違っていて、もっとシンプルなものでした。
 今回の企画は是非よいものにしたいと思っていましたので、ラフ・シナリオの段階から何度も手塚プロダクションさんとディスカッションを重ねさせていただき、いくつもの案があがっていました。その中であがった意見をまとめて最終的な原案を書き、それを手塚プロさんにお渡し、シナリオという形に書き起こしていただきました。
 やりとりの末、長い尺もご了解いただき、なんとか実現しました。



 4分で仕上げないといけない、と思いながら何度もストーリーを練るのですが、描いても描いても、とても収まらず、結果的に8分51秒になりました。 ロボットと人間が共生している社会をアニメーションという切り口で表現するとやはりこれぐらいの尺は必要だと、作ってみて改めて実感しました。




時代設定を2028年にしたのはなぜですか?



 今から12年後ということで、中途半端に感じてしまうかもしれませんが、これはさがみロボット産業特区の計画期間が2018年3月末までで、その計画期間終了から10年後、という設定なんです。
 また、2027年にはリニア中央新幹線が開通し、相模原市内にある橋本駅にも新駅ができる予定になっています。それに伴い、街の変化のタイミングも狙った時代設定にしています。
 それに、あまり先の未来に設定すると、リアリティがなくなってしまうことも考慮し、特区の目指す未来が実現しているであろう時期として、2028年にしました。  



虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談



●作中のロボットについて〜ロビタ登場の謎〜


「ロボットと共生する社会」を描くにあたり、気をつけたこと・こだわったことはありますか?



 ある程度、未来に期待を膨らませるようなものにしたいという思いがありつつも、一方で、現実から掛け離れた内容にならないように注意しました。あくまで現在のロボットの状況を踏まえた上での表現をお願いしました。



 ロボットを一緒に生活している存在として、未来で実現しそうな日常風景を想像し入れたシーンが、ロビタと陽菜のやりとりです。
 この作品をつくる前に、コミュニケーション・ロボットについての書籍や映像を調べたところ、ソニーが1999年から2006年かけて発売していた「AIBO」が、今や生産が終了し修理窓口もなくなってしまったのですが、元ソニーのエンジニアの方が立ち上げた修理会社があり、そこで修理を頼み今でも「AIBO」を家族のように大切にしている方が多くいることを知りました。
 すでに、ロボットと一緒に生活することに慣れ、かけがえのない存在としてロボットを必要としている人が少なからずいるということに手ごたえを感じ、このシーンを入れました。



 実際、コミュニケーション・ロボットや人工知能の開発は急速に進んでいます。
 特区で開発支援した「PALRO」は、すでに高齢者福祉施設に導入され、現場で活躍しています。導入前は高齢者の皆様に受け入れられるのか不安もありましたが、「PALRO」と会話を楽しまれたり、体操を一緒にするなど、とても評判がよいようです。
 ですから、十数年後にこういったコミュニケーション・ロボットが生活の中に存在し人々のパートナーとして活躍するのは、きっと実現されていると思います。



 ごく自然にロボットが人間のパートナーとして生活に溶け込んでいる、そういう実感を、取材を重ねるうちに持つことが出来ました。きっと12年後は、もっと私たちの生活に定着していることでしょう。




 どのシーンをとっても自然な形でロボットが人々をサポートしていますよね。まさに私たちの理想の未来を形にしていただけました。



 体に障害が残ってしまう事態に陥ったとしても、普通の生活が送れるようにロボットのテクノロジーが補ってくれる、そういう未来が十数年後には本当になるかもしれない、という可能性を制作中に感じました。それは、素晴らしいことだと思います。
 ロボットたちが人々のために活躍することがそう遠くない未来に実現するぞ、そういうメッセージが見ている方々に届けばいいなと思います。


虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

事故に巻き込まれてしまった隆男の体をサポートするロボットスーツのラフ。2028年のさがみでは、このスーツのおかげで普段どおりの生活ができている。特区では、下肢に麻痺のある人の歩行を実現する、ロボット下肢装具「リウォーク」が実証実験されている。



現在のロボットの状況を踏まえた上での表現をするためにどういう工夫をなされたのでしょうか。



 登場するロボットの機能のアイディアは、こちらで考えました。ロボットについては、ある程度のリアリティをもった表現をしたかったので、アイディアを出すにあたりロボット研究者やロボットメーカーの方にヒアリングに行きました。そういった方々に話を聞いたうえで、こういった機能をもったロボットが未来に実用化されているのではないかというアイディアを提案させていただきました。
 現在開発中のロボットの写真を資料として提供しましたが、アニメに出てくるロボットのデザインは手塚プロさんで考えていただきました。



 そういう資料を読ませていただいたうえで、アニメーションでついやってしまいがちな、SF的な世界観にならないように注意しました。現実に則して、12年後のさがみには実際にこれぐらいのものがあるだろうと、そこは外さないようにロボットのデザインや見せ方の制御をしました。
 ですが、その中でもアニメーションならではのちょっとした遊びがほしいなと思ったので、作中に登場するコミュニケーションロボット・ロビタには少しコミカルなキャラクター性を持たせ、陽菜と冗談を言い合う掛け合いを入れました。



 人間の生活にロボットが定着した未来ならば、ロボットと兄弟げんかもあり得る話かもしれませんね。作中でキャラクター性をもっているロボットは、ロビタだけなんです。



 そうですね。デザイナーに対して、ロビタを、他のメカにはない個性を持ったロボットとしてデザインしてもらいたいとお願いしたところ、面白い案をいくつも考えてもらいました。



虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

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ロビタのいくつものアイデアスケッチの一つ。丸みのある可愛らしいデザインとなっている。全体がイルミネーションを投影できる設定となっており、アトムの顔が映し出されている。



虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

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こちらが、ロビタの決定案。その他のスケッチと比べ、かなりロボットらしくメカニックなデザインだ。イメージのネタは、電気湯沸かしポット。




ロビタといえば、「火の鳥 未来編・復活編」にも同名のロボットが登場しますね。



 もちろん意識しています! というのも、手塚治虫の弟子のはしくれとして、私の中に「火の鳥」リスペクトがあるからです!
 実は、絵コンテの段階で、まだキャラクターの名前が決まっていなかったんです。ロボットの名前については、実際に開発されているロボットの名前をいただくほうがいいのかと考えていたのですが、許諾の問題もあるだろうと思い、だったら手塚治虫の作品から拝借してしまおうと、絵コンテの段階で私が勝手に「ロビタ」と名付けてしまいました。
 チェックで「ロビタ」は却下されるかな、と思っていたのですが、特になにも言及されずそのままOKをもらえました。



ロビタ登場の謎が解けました!「火の鳥・復活編」にも、ロビタが子どもと兄弟のように遊んでいるシーンがありましたね。



 ロビタにはもうすこし尺を取りたかったな、と思っています。
 ホログラム映像の描写に2、3カット足し、ホログラムの映像そのものを説明することでもっとわかりやすく視聴者に伝えられたのではないでしょうか。


ロビタのホログラムラフ。



●登場キャラクターについて



キャラクターについて、設定やデザインコンセプトについて教えてください。




 登場キャラクターについては、こちらからは年齢や家族構成のみの提示で、具体的な設定やデザインは瀬谷さんに詰めていただきました。



 いただいた設定から妄想を広げに広げ、キャラクターデザインしました。
 私としては、“普通の人感”を出すことを第一に考えました。バトルアニメに登場するような特殊な能力のあるキャラではなく、どこにでもいるような、幸せに暮らしている夫婦であるべきだ、と。現実にリンクした世界観を描くには、外せない要素でした。




途中経過のデザインには、メガネをかけている隆男がいますね。



 最初は、地味な人物像を描いていました。メガネかけている方が平凡感が出ているというか…。
 二枚目な雰囲気を出さないようにしていたのですが、プロデューサーの方からの最終的な判断はメガネなしの方だったんですよね。「見ようによっては二枚目になるように」という指示を頂き、メガネなしの隆男に落ち着きました。




 たしかに、メガネなしの方が精悍なイメージです。



虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

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こちらが平凡さを前面に押し出した、メガネバージョンの隆男。いい人そうである。




 奥さんの悠美は、人によっては母子家庭であり、未亡人にみえたらいいなというある種の作為を意図的にキャラクターの造形にいれています。隆男が亡くなった10年後……とミスリードしておいて、実は生きていたというオチを見せたかったので。
 もちろん造形だけではなく声にも表現を入れたかったので、声優さんには「もっと未亡人の感じを出して」など、かなり抽象的な指示をしてしまいました。



 声優さんは、こんなに抽象的なオーダーでもそこで具体的に聞き返すとこはなく、「わかりました、やってみます!」と過不足なく表現してくださるんです。プロはすごいなと感心してしまいました。



虫ん坊 2016年6月号 特集1:さがみロボット産業特区PRアニメ完成!「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」スペシャル対談

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ロボットハウスに住む悠美と陽菜。住人の健康状態をセンサーでチェックし、体調に合わせて室内環境を整えてくれるというビックリハウスである。





アトムについてはいかがでしょうか。



 アトムについては、2003年に制作した「ASTRO BOY 鉄腕アトム」の時のデザインをベースにしています。
 実は、「ASTRO BOY 鉄腕アトム」のキャラクターデザインを決めるまでに半年かかったんです。あの時は何を描いてもボツの嵐で、大変だったんですよ。
 手塚先生の「鉄腕アトム」は、描いている時期によってキャラクターの造形が全然違うんです。それこそ、ファンの人なら「これは昭和何年のアトムだ」と特定できるぐらい、スタイルに差があります。
「ASTRO BOY 鉄腕アトム」は、そのすべてのアトムの要素が感じられるようなデザインにし、それでいて今のアニメーションの中にいたときに、古く見えないようなすこしの味付けをほどこして完成しました。
 今回は「ASTRO BOY 鉄腕アトム」のアトムをベースに、もっとシンプルなデザインにしました。
 隆男たちの出来事に対して、いろいろな啓示をする役目として必要以上に物語に関与しない存在・普遍的な空気のようなものとしてアトムを登場させたくて、あまり自己主張しないキャラクターのように描きたかったんです。




さすがにあと12年でアトムを作るのは大変なので……!(笑)


アトム決定案。瀬谷さん曰く、「ASTRO BOY 鉄腕アトム」時代よりもあっさりしたアトム。



●おわりに



最後に、「ROBOT TOWN SAGAMI 2028」について一言お願いします!



 久しぶりにアトムが登場するので、そういう意味では手塚ファンの皆様にはぜひ見ていただきたいという思いがあります。
 実は、本作品に関してはあまり手塚調を出さないようにという指示をプロデューサーから言われていました。私が描くとどうしてもどこか手塚調になってしまうのですが、あえて手塚治虫の絵から切り離して造形しました。それを今までの作品と違うなと思わず、手塚プロダクションの新たなスタイルとして見ていただきたいです。
 そして、ぜひロボットタウンさがみを訪れてみてください。



 さがみロボット産業特区が目指している未来が非常にイメージしやすい作品になっています。是非、多くの人に、さがみロボット産業特区での取り組みを知ってほしいです。
 子どもたちがこのアニメをきっかけにロボットやロボットとの共生に興味を持ったり、考えてもらい、やがて自分たちの手で未来の「ロボットタウン」を実現していってくれたら嬉しいですね。




——12年後のさがみに一体どんな未来が待ち受けているのでしょうか。
ロボットと共に歩む社会も、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。



■関連リンク:

さがみロボット産業特区HP:http://sagamirobot.pref.kanagawa.jp/


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