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虫ん坊 2011年10月号 特集1:週刊少年チャンピオン編集長 沢 考史さんインタビュー

虫ん坊 2011年10月号 特集1:週刊少年チャンピオン編集長 沢 考史さんインタビュー

『週刊少年チャンピオン』沢 考史編集長。6年間、『週刊少年チャンピオン』を率いていらっしゃいます。

 秋田書店が刊行する少年向けマンガ週刊誌『週刊少年チャンピオン』41号より連載が開始した『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』。21世紀を舞台に、50代となったブラック・ジャックが、独裁国家「ハロイ」の大統領の治療をたのまれ……という第1話からエキサイティングな展開で、毎週を楽しみに待っていらっしゃる方もおおいのではないでしょうか?

読者投票でも毎週上位に選ばれる本作、手塚治虫の『ブラック・ジャック』を原案に、『寄生獣』『ヒストリエ』の岩明均さんが原作、『P・S 羅生門』『不安の種』の中山昌亮さんが漫画という強力タッグ。4話までがすでに掲載されていますが、今後の展開も大変楽しみな作品です。今月の虫ん坊では、『週刊少年チャンピオン』編集長・沢 考史さわ たかふみさんに、この『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』についてのお話を伺いました!


◎企画の発端

虫ん坊 2011年10月号 特集1:週刊少年チャンピオン編集長 沢 考史さんインタビュー

中山昌亮先生による、手塚タッチのブラック・ジャック。

 ——『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』という企画が生まれた発端を教えてください。

 

沢:10年ほど前、僕がまだ『ヤングチャンピオン』の編集部員だった時、岩明均先生に『剣の舞』という中篇作品を描いていただきました。そんな頃だったったと思うのですが、お酒なんかを飲みながら、ざっくばらんに先生とお話をさせていただく中で、「岩明先生が『ブラック・ジャック』を描いたら、すんげー面白いんじゃないですかね? やってみませんか?」というようなことを、お話ししたらしいのです。らしいというのは、お恥ずかしながら僕としてはあまりはっきり覚えていなくて、後に岩明先生がそうおっしゃるものだから、「ああ、そう言えば…」とおぼろげに思い出したという次第で…。

もちろん岩明先生が手塚漫画が大好きで、手塚先生を大変尊敬されていることは知っていましたし、秋田書店にとっても『ブラック・ジャック』という漫画は、アイデンティティの核みたいなものですから、いい加減な気持ちで言ったわけはないのですが、まさか実現するとは思えない、とりあえず先生にぶつけてみようという、勢い任せの提案だったのだと思います。

 岩明先生という方は、なんというか、漫画の鬼のような方で、あいまいなところがほとんどない。その時は、「描く時間もないし、自分がブラック・ジャックを描くイメージが持てない」と明確にお断りになられました。これは記憶しています。

 その頃の岩明先生は、『ヒストリエ』の前の『ヘウレーカ』にかかるかかからないか、というタイミングで、お忙しいし、ご自分の描くべき作品のスケジュールは既に確固として決まっている。「『ヒストリエ』の後には沢さんのところで漫画を描きますよ」と言ってくれた(と僕は勝手に思う)んですが、それって20年とか先の話になりそうだし、こりゃあこのままじゃ先生と次の仕事が出来ないぞ!?ってことで、すがるような気持ちで「先生、漫画原作はお願いできませんか?」ってしがみついたんです。そうしたら、それならば検討してみましょうと言ってくださった。嬉しくってね。

 でもこれは、ブラック・ジャックとは全然別の話ですよ。別のテーマの漫画原作を書いていただくつもりで、その後、先生を追いかけまわして何年も経ちました。この間は先ほどもお話したとおり、すっかりブラック・ジャックのことは忘れて、ただただ先生の所へ押しかけては飲んだくれて…。

 ところが今から2年ほど前のある日、突然岩明先生から電話がかかってきまして、「だいぶ前に『ブラック・ジャック』って言ってたじゃないですか。今はどうですかね。実は脚本を書いてみたんだけど……いりますか?」って言われたんですよ。いりますか、じゃないですよぉ! 晴天の霹靂って言うんですか、最初何の話か全然解らなくて。あわてふためいてとりあえず「いります!」って叫んで、駆けつけたら脚本の形で1本の作品が出来上がっていました。

 岩明先生は10年前からずっと『ブラック・ジャック』について何とはなく考えてくださってたらしいんですね。そしていつの頃かご自分なりの『ブラック・ジャック』を描くに値する切り口というか、イメージを持たれたんでしょう。

 先ほども言ったように、岩明先生は大変プロ意識の高い方で、連載中はその作品一本に全力で集中されることを僕もよく知っていたので、「驚きました。よくぞ書いてくださいました!」と言ったら、先生は、「私は今『ヒストリエ』に持てる力の全てを注いでいます。それでも進行に遅れ読者や編集部のみなさんに迷惑をおかけしている。本来なら『ブラック・ジャック』の脚本を書く余裕などないことは解っていました。ただ、思いついた着想が時間をかけて少しづつ膨らんで形になっていくにつれ、これを脚本として書き上げないわけにはいかなくなったのです。わかっていただけないかもしれませんが、この作品を形にしないストレスの方が、むしろ今の連載にとって大きな障害になることがはっきりした。それで書くことにしました」とおっしゃっていました。なんだか不思議でしょ? でも、たぶん岩明先生にはそれが自然なことなんだと思います。

 そうして一気呵成に書かれた。

 読んでみたら強烈に面白いし、もうこれでやりましょう、ということになって。

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この物語のキー・パーソンとなりそうな女性、クロエ。

——漫画をご担当されたのは中山昌亮(なかやままさあき)先生ですが、中山先生を選ばれた理由は?

 

沢:中山先生の作品は、講談社の『モーニング』での最初の連載『オフィス北極星』を描かれていたころから注目していました。あそこに登場する人々、クールなんだけど、ユーモラスで温かい。しかも、どこか得体のしれない不安定な深みがある。原作も素晴らしかったのでしょうが、なによりあそこに登場する人間の精度の高い表情、陰影をもって迫ってくる画面構成が、中山先生が作り上げる世界が新しかったし、人間の厚みと魅力が分かっているなあとワクワクしながら追いかけていました。

僕が『ヤングチャンピオン』の後に『チャンピオンRED』誌の方に移った時、ぜひ中山先生に描いていただきたいとお願いに行きました。あんな世界を描けるんだから、相当年配の方なんだろうと思っていたのですが、当時30歳そこそこ。若さにビックリしたのを覚えています。

その時、「バランスを失って変な感じ」とか「何故か少しだけ気にかかる」といったテーマで盛り上がって、多くの漫画家さんが捉えそこないがちな、そんな感覚のエッセンスをダイレクトに作品化する『不安の種』を描いていただいたのですが、これが大評判を呼びました。世界と人間存在の捕まえ方が凄い! もう快感! 僕としてもあんまり面白かったので、次に「週刊少年チャンピオン」に移った時も『不安の種+(プラス)』という続編を無理を言って連載していただきました。『不安の種』には今も根強いファンがいて連載終了後も売れ続けています。

 チャンピオンREDで中山先生とお仕事をしている頃から、僕は岩明先生の原作であれば、中山先生にぜひ描いてほしいと思っていました。もう絶〜〜〜っ対って! そのことは中山先生に伝えていましたし、岩明先生にお話したら、それは素晴らしい!と喜んでくださいまして。

その頃はまさかその作品が『ブラック・ジャック』になるとは…。でも岩明先生の『ブラック・ジャック〜青き未来〜』の脚本が上がり、お二人の快諾も得た時には、僕の夢が叶ったぁ!ガハハ〜〜!って、天にも昇る感じでしたね!!

中山先生もあのとおりの売れっ子ですので、御仕事の都合や、またお引越しをされたりもしていて、しばらく時間が取れなかったのですが、まあ、待つのはそれまでも、ずーっと待ってましたし、ようやく今、自信をもって連載を始めることができました。嬉しいとしか言いようがありません。


◎ そして第1話

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壮年になってゆくブラック・ジャック

——ある独裁国家や革命・難民問題など、まさに「今」の時代にぴったりのストーリーになりそうですが、2年前に原作が出来上がったときから、このようなお話だったのでしょうか?

 

沢:そうですね。予定したことではありませんが、結果的に、この「命の物語」をこのタイミングで『週刊少年チャンピオン』で発表出来るというのは、運命的なものを感じますね。

 ただ、リアル次元での政治的なメッセージを打ち出すことを目的にするわけでは、もちろんありません。手塚先生の「ブラック・ジャック」もそうですが、あくまで「地球のどこかの国」のお話、という気持ちで読んでいただきたいですね。『ハロイ』なんて、いかにも手塚先生の漫画にでてきそうでしょ? どこの国だろうな? と考えさせられるような。特定の地域や国名を出さずに、世界のどこの地域でも普遍的にはらんでいる問題を描くのは、手塚先生ならではの姿勢ですよね。そんな手塚先生をリスペクトした、「ブラック・ジャックスタンス」で臨んでいます。

 

——設定上で読者もおそらく一番驚いた、壮年のブラック・ジャック、という設定ですが、こちらも少年誌としては冒険的だと思います。

 

沢: もともと手塚先生のブラック・ジャックも当時の少年誌としては大冒険的だったんですよね。成人で医者で(笑)。

今回のブラック・ジャック像は、岩明先生のイメージなんだと思います。先生ご自身、ブラック・ジャックという人物そのものが、尊敬に値する人だ、とおっしゃっていました。いろいろなものを見て、人間の苦しみや、不条理を見て、体験しつつ戦いつつ人を救ってきた人物じゃないですか。そんな人生経験をつんだ、人物像として、熟年の姿が自然と浮かんだんだと思います。

そういうブラック・ジャックを主人公にしてこそ描ける物語がある。

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徐々に絵柄が中山タッチに…


——手塚治虫タッチの絵から、徐々に中山昌亮タッチの絵に変わってゆく、第一話冒頭の演出が印象的でした。

 

沢:凄いですよね! あの部分は実は脚本の最初の段階ではなかったんです。『ブラック・ジャック』を原作にした連載企画ということで、手塚プロダクションに企画内容をお話に言った際に、脚本をチェックいただいた松谷社長から、「原作を知らない人たちにも読んでもらいたいので、『ブラック・ジャック』という作品がどういったものなのか分かるように描いてほしい」というリクエストをいただいたんです。それを岩明先生にお伝えしたら受け止めてくださって、冒頭のシーンのイメージを付け加えた修正案が送られてきました。

 それを中山先生が技術とアイディアであのような素晴らしい形に仕上げてくださったんです。僕らも凄いと思いましたよ。冒頭のカラー原稿が届いた際には、封を開いた机の周りに編集部員が集まって来て、思わず「おおっ!」と声を上げてましたもん。

  僕たちとしても『ブラック・ジャック』を知っている読者にも、知らない読者にも楽しんでいただきたいと思っています。知らない方にはぜひ、原作となった『ブラック・ジャック』に興味を持っていただき、手にとっていただきたいですし、手塚先生の原作を愛する方にも今回の作品で伝えられる何かがある。原作ファンにも納得いただけるような作品に仕上がっていくはずです。岩明中山両先生とも言うまでもなく、手塚治虫先生の熱烈なファンですからね。

◎ 今回B・Jが治療するものは?

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巻頭カラー・見開きを飾った、21世紀の町を行くブラック・ジャック。


——今後の展開が気になりますが、「ここに注目!」などのヒントはありますか?

 

沢:うーん、あまり話してしまうと、ネタバレになっちゃいますからね…。

 あえて申し上げるなら、「今回のブラック・ジャックが治療するものは何か?」ということ、ですかね。

 『ブラック・ジャック』がそうであるように、『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』も生命の物語なんです。ブラック・ジャックが人間の「生命」と向き合い、医者として治療をしてゆく。治療を受けるのは依頼された『独裁者』なのか、あるいは別の『誰か』なのか、あるいは『何か』なのか?

 手塚先生の『ブラック・ジャック』が感動を呼ぶのは、やはり、医療行為だけではなく、人の業や哀しみにも真摯に向きあい、医術をもって挑もうとするブラック・ジャックの姿なんだと思うんですよ。そういうブラック・ジャックのエッセンスを大事にしたいですね。

 せっかく『ブラック・ジャック』を描くのですから、ブラック・ジャックを主人公にしなくては描けないものがある。そういうことが、僕も岩明先生の脚本に取り組みながら、だんだん分かってきたような感じです。ぜひ楽しみにしていてください。

  手塚先生の原作に挑戦しつつ、もし先生がご覧になったらほめてもらえるような作品にしたいと、岩明先生もおっしゃっていましたし。

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手塚ファンならおなじみの人たちの顔も。中山先生によるブーンとスカンク。


——今回の作品には、クロエや患者である大統領など、さまざまな人物が出てきますが、手塚先生の『ブラック・ジャック』に出てきたピノコやキリコなど、今後登場することはあるのでしょうか?

 

沢:そうですねえ……。でてくるといいんですけどね(笑)。どうなんでしょうね? それはお楽しみにしておいていただいたほうが…。

 スターシステムに出てくるキャラクターも出てきています。そんな中山先生が見事に取り入れている遊びの部分も注目してください。


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こちらの紳士は山田野博士ふうに見えます

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助手・グエンがヒョウタンツギに?!


◎『週刊少年チャンピオン』について

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秋田書店本社・1973年の移転以来、『ブラック・ジャック』連載当時と今も同じ場所に建っています。

——編集長という御立場ということで、『週刊少年チャンピオン』の編集方針などありましたら、教えてください。

 

沢:とにかく、毎週毎週、テンションをキープして、最高に面白いものにしていく、という1点のみですね。とにかく毎週、驚いたり、楽しんだり、感動を与えたりしていきたいと考えています。一冊買って、読んで下さったら、「やっぱり面白かった」と言っていただけるようなものをめざしています。

現在の連載陣は、個性的な作品が多いですよ! 編集部として狙ったというより、あくまでとにかく面白いもの、驚きを与えられるものを、と先生方がそれぞれ趣向を凝らした結果だと思っています。やはり、他と取替えのきかない作品が、読者の支持も得られるということではないでしょうか。

 

——逆に、「これは描いてはだめ」というようなことなどはありますか?

 

沢:描いていただく作品には、特に制限を設けていません。というか、制限なんて設けられませんね。社会的に問題がある表現だったり、読者を傷つけたりしない表現であれば。

若い作家の方が、「これが面白いんじゃないですかね!?」ということを見つけて、思い切って挑戦的に描いていく。はまるとすごく伸びますからね。

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「毎週を面白くすること」が編集方針です。

——最後に、読者に向けてなにかメッセージがありましたら、教えてください

 

沢:『ブラック・ジャック』ということで、久しぶりに『週刊少年チャンピオン』を手に取る方もいらっしゃるかと思いますが、週刊少年誌としては老舗の『チャンピオン』も最近新しい雰囲気なってきました。今、勢いもあって、この出版不況の中、部数も伸びている雑誌ですので、ぜひ、本誌を買って、他の作品も読んでみて、気に入った作品がありましたら、つづけて次の週も読んでください!

『ブラック・ジャック』という作品は、『週刊少年チャンピオン』にとっては、特別で、大切な作品です。編集部の人間みんなが大好きな作品でもあります。今後もさまざまな『ブラック・ジャック』に関する企画をやっていきますので、楽しみにしていてください。

 

——御忙しい中、ありがとうございました!

(C)岩明均/中山昌亮(週刊少年チャンピオン)(C)手塚プロダクション






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