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虫ん坊 2010年1月号 トップ投稿特集1特集2オススメデゴンス!コラム編集後記

特集2:手塚治虫文化賞贈呈式をレポート!

特集2:手塚治虫文化賞贈呈式をレポート!

今年も手塚治虫文化賞の季節がやってきました。
毎年、この発表を楽しみにしている手塚治虫ファンも多いのではないでしょうか。
手塚ファンのみならず、多くのマンガ読者に注目されているこの手塚治虫文化賞。
手塚治虫の業績を記念して、マンガ文化の健全な発展に寄与することを目的に、朝日新聞社によって1997年に創設されました。昨年は、辰巳ヨシヒロたつみよしひろ先生の『劇画漂流げきがひょうりゅう』と、よしながふみ先生の『大奥おおおく』の2作品が大賞を受賞し、話題を呼びました。
14回目を迎えた今年は、どんな作品が受賞したのでしょうか。
今月の虫ん坊では、去る5月28日(金)に都内某所にて行われた受賞者のみなさんへの贈呈式の模様をお届けします。



◆ マンガ大賞 「『へうげもの』(講談社) 山田芳裕先生」

年間を通じて最も優れた作品に贈られる「マンガ大賞」は、山田芳裕やまだよしひろ先生の『へうげもの』に贈られました。
『へうげもの』は、「出世欲」と「物欲」に揺れる戦国大名の古田織部ふるたおりべを主人公に、茶道さどうを通じて戦乱の世を描く歴史マンガで、日本の「わび・さび」をめぐる物語を独自の視点で描いています。作品中の「めにゃあ」や「はにゃあ」などの独特な表現や、登場人物のデフォルメされた豊かな表情なども魅力のひとつです。
今回、最終的に大賞候補となった作品は6作品でした。この『へうげもの』は連載が始まったころ、2007年第11回にも大賞候補となりましたが、今回改めて候補作品に名を連ねました。選考委員の村上友彦むらかみともひこさん(評論家・編集者・神戸松蔭女子学院こうべしょういんじょしがくいん大教授)のお話では、「長期にわたる連載作品のどの時点で評価するか」というのが大変難しいとのこと。何度か候補にのぼる作品は不利になるケースが多いものの、『へうげもの』に関しては、村上さん曰く「利休の死以降、クライマックスへ向かいつつある今が評価の好機(2010年4月19日朝日新聞より引用)」とのことで、受賞が決まりました。

特集2:手塚治虫文化賞贈呈式をレポート!


── 山田芳裕先生 受賞挨拶
私は今年、厄年なんですけど、厄払いをしないでこんな大変な賞をいただけるとは思ってもみませんでした。もしあの世に行くようなことがあったら、手塚先生にお礼を言って、古田織部公に謝罪をしたいと思います。(場内爆笑)

◆ 新生賞 「市川春子先生 『虫と歌』(講談社)で命のふれあいとはかなさを描いた清新な表現に対して」

斬新ざんしんな表現や画期的なテーマなど、清新せいしんな才能の作者に贈られる新生賞は、市川春子いちかわはるこ先生の「『虫と歌』で命のふれあいとはかなさを描いた清新な表現に対して」贈られました。市川先生は札幌市の出版社に勤める一方で、年間一本のペースで作品を発表しており、初めての単行本『虫と歌』が新生賞を受賞しました。
切り落としてしまった自分の指から生まれた「妹」に兄妹愛以上の感情を抱く物語を繊細なタッチで描いた「星の恋人」など、4編の短編が収められています。なんとも不思議な感覚が迫ってくる作品です。
市川先生が初めて触れた手塚作品は、小学校のころに見たというユニコのアニメで、「知的なざわめき」を感じたそうです。ユニコとの出会いを通じた感動が、『虫と歌』の不思議な物語の原型となっているのかもしれません。

── 市川春子先生 受賞挨拶
手塚先生の作品を最初に見たのはたしか小学校のころ、体育館で見たアニメのユニコが最初だったと思います。一種独特の輝くような不安のようなものを感じて、大変強烈に印象に残り、魅了され、興奮したのを覚えています。私のように手塚先生の作品に触れたのが、知的なざわめきが初体験だった人が多いのではないかと思っています。これからも初めてユニコを見たときのようなみずみずしさをいつまでも持って頑張っていきたいと思います。


◆ 短編賞 「『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン) ヤマザキマリ先生」

特集2:手塚治虫文化賞贈呈式をレポート!

受賞作『テルマエ・ロマエ』は、ローマ帝国のお風呂設計技師が現代日本の浴場にタイムスリップしてしまい、日本のお風呂事情を目の当たりにしてお風呂設計に関するアイデアを得るお話。お風呂という共通項で古代ローマと現代日本を結んでしまう、これまでにない斬新な設定が読者をひきつけた人気作品です。
お住まいのポルトガル・リスボンより駆けつけたヤマザキ先生。アイスランドの火山噴火で飛行機が飛ばなかったらシベリア鉄道に乗ってでも日本へ帰ってこようと心に決めていたといいます。リスボンには浴槽がなく、「お風呂に入っている人を描くことでお風呂に入った気持ちになる」と思ったのが、作品誕生のきっかけだそうです。受賞の挨拶では、火の鳥の大ファンだという息子さんから言われた一言など、会場が明るい雰囲気に包まれました。


── ヤマザキマリ先生 受賞挨拶
『テルマエ・ロマエ』はイタリアの新聞でも紹介されまして、そのときのタイトルが「古代ローマ、日本のマンガ界を制覇せいはする」でした。ローマ帝国に対するプライドがどこまで高いのか、すごくおかしくなりました。
16歳の息子が手塚先生の大ファンで、特に火の鳥が好きで、枕元に火の鳥を並べています。
「どうするの?こんな大変な賞をもらって。これから死ぬまでママが素晴らしいマンガを描かなきゃいけないっていう約束ごとになるんだから」と言われ、私も本当に感慨深かんがいぶかくなりました。自分の子供と交わした約束は必ず全うしたいと思っています。


◆ 特別賞 「故・米沢嘉博氏 マンガ研究の基礎資料の収集と評論活動などの幅広い業績に対して」

マンガ文化の発展に寄与した個人・団体に贈られる特別賞は、コミックマーケット創設者の一人で、準備会の代表を務めたマンガ評論家、故・米澤嘉博よねざわよしひろさんに贈られました。2006年に亡くなるまで連載され、遺作となった「戦後エロマンガ史」が今年4月下旬に刊行されています。また、14万冊にも及ぶ蔵書を母校の明治大学に寄贈して「米澤嘉博記念図書館」がキャンパス内に開設されています。実際に訪れたことのある虫ん坊読者の方もいるかもしれません。現在、約7万冊が閲覧できるとのことです。マンガ好きにはたまらない空間ですね。
贈呈式には夫人の英子さんが登壇しました。感謝の言葉を述べるとともに、生前の嘉博さんを「おにいさん」と呼んでいた英子夫人が、「おにいさん、よかったね!」と正賞せいしょうのアトム像を天国の米澤さんにかかげる場面もありました。
 

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◆ 手塚眞 祝辞

 

特集2:手塚治虫文化賞贈呈式をレポート!

受賞作品群は、日本人がずっと抱いてきた思想や理念というものを感じさせました。
『へうげもの』の「わび・さび」は、さまざまな歴史の中で伝えられてきた日本人の姿勢であるし、『水と歌』のなかにある自然との接点や、『テルマエ・ロマエ』では、日本人にとっては、日本は火山国である、という「地」と「人間」の関係が見事に表現されています。海外諸国では表現しえない題材で、日本人の精神によって描かれたマンガだと思います。
手塚治虫の作品にも、西洋を題材にしたものや英語の名前の主人公が登場しますが、やはりそこには日本人としての精神が描かれています。
故・米澤さんも、日本人でしか描きようのなかったマンガを広く若い人たちに読ませる機会やマンガの社会的ポジションの向上に寄与された方です。
ぜひとも受賞者の皆さまにはこれからもそうした日本人としての視点で作品を発表していただきたいと願っています。


また、贈呈式後には、作家の荒俣宏あらまたひろしさんと陶芸に詳しい永青文庫えいせいぶんこ館長の竹内順一たけうちじゅんいちさんによる「数寄すきとひょうげ―古田織部から現代へ」と題したトークショーも行われました。『へうげもの』の画のスライドも登場しながらの軽妙な語りは、作品を読む新たな視点を観客に印象づけました。


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受賞者の方々の個性的なスピーチが会場を笑いと拍手につつみ、終始なごやかな雰囲気のなか、贈呈式は幕を閉じたのでした。





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