原始時代です。洞窟の中に暮らしているトトは、ある日、不思議な形の角を見つけます。いったいだれの角だろう? トトは森に出かけていって、角を落とした動物さんを探しますが、だれもトトが持っているような妙な形の角に心当たりはありません。トトは大きな角を持つサイの祖先にも尋ねますが、寝ているところを起こされた、とサイの祖先アルシノテリウムは怒ってトトを追いかけ回したりします。トトが誰の落し物かわからない角を抱えて途方にくれていると、お父さんが駆けてきて言います。「それはお前のために作ってあげた絵を描く道具だよ」なんとそれは、石で出来たGペン(マンガを描くときに使うペンです)だったのでした。
洞窟に残る原始時代の壁画。それには見事に描かれた動物たちの姿や、人間たちの生活の風景が描かれていますね。それを目にした手塚治虫はプロのマンガ家ですから、これはどのような道具で描いたのだろう、と思ったのでした。もしかしたら原始時代の発明家がこの大昔にGペンを発明していたのかも・・・。壁画を見ながら自分が毎日使っている仕事道具を思ってしまうなんて、発想が貧困ですか? いいえ、このような見事な絵はどのような道具で描かれたのだろうと考えてしまうところに、手塚治虫の「冷静な観察が豊かな発想の飛躍を生む」という個性が現われているのです。